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ユートピア貯金
ささやかな芝生でドーナツ片手にピクニックして、
美術館デート終わってから感想戦で盛り上がって、
くるりの音博で一緒に泣きながら羊文学を聞いて、
深夜に鍋や、餃子や、ハンバーグを頬張って。
ずっと夢見ていた平穏で穏やかな生活が、ここには
あった。
この一年半、どんなに忙しくても、悔しくても、
人生を手放したくなったとしても、君が隣にいて、
ただそれだけで、私は一瞬で穏やかになれた。
そんな君との理想郷を手放すまで、あと3ヶ月。
携帯で新しい家を探したり、友達に知らない駅を
お勧めされたり、内定者の研修が行われたりする
度に、今日まで目を背けていた現実が、私を襲ってくる。
自分で東京に行くんだと決めたくせに、
もう何百回も君と話し合ってきたくせに、
君はいつだって優しく背中を押してくれるのに、
それでも私は、この生活を手放す覚悟がまだ無い。
もし、遠距離が理由ですれ違っちゃったら?
遠距離も案外楽勝じゃんなんて思われたら?
私の知らないところで熱を出したり倒れたら?
君はメールもSNSも全部とっても苦手なのに?
お金も時間も足りてない私達は、きっと毎月なんて
会えやしない。
1年に4回しか会えなかったとして、ほんの少し
お泊まりや旅行をしたとして、君の顔を見るだけで、
尚更恋しくなるに決まっている。
「手放すんじゃなくて預けるっていうのはどう?」
あぁ、やっぱり君は最高の恋人。
手放すのが怖いと泣きじゃくる私に、いつだって
新しい角度で、完璧に包み込んでくれるんだから。
ちょっと君に預けるだけ。
この貯金に寂しさや愛おしさなんかの利息がついて、
満杯になって、溢れ出すまで、毎日一緒に会いたくてたまらなくなるまで。
世界で1番信用できる君が守り続けてくれるなら、
地獄の遠距離だってきっとなんとかなるはずだ。
君とだから、だから諦めないんだ。