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日本の移民政策のおかしさ

【紹介書籍】高谷幸(2019) 移民政策とは何か;日本の現実から考える 人文書院

 日本での「移民政策」とは長年「外国人材」は受け入れるが、定住化は可能な限り阻止しようという方針である。定住化の阻止は日本政府の過去三十年における政策方針の一つである。本書では過去の日本と海外における移民の経験を振り返り、定住化の阻止を貫いてきた政策が、移民と社会に何をもたらしてきたのか書かれている。
 海外では第二次世界大戦後に高度成長期の人手不足を補うために「外国人労働者」を受け入れた。重国籍を容認し、国籍所得への障壁を下げることによって民主主義社会からの排除を解消あるいは緩和するために様々な模索が続けられてきた。
 西欧の「外国人労働者」の受け入れ経験が大きな影響を受け、日本では受け入れに賛成する者も反対する者も共通して、受け入れた外国人労働者は必然的に「定住化」すると考えがちだった。こうした認識の下、日本政府は「『単純労働者』の受け入れ拒否」と「定住化の阻止」の2つを政策として掲げた。しかし実際には、「移民がいる」というこの社会の現実との大きなズレは継続したままであり、その結果、現実に様々な弊害をもたらしてきた。
 具体的には移民の権利に関する政策の不在という弊害である。一言でいえば、格差や貧困、差別が放置されてきた。例えば移住労働者を「労働者」限定して社会に存在させたり、技能実習生の妊娠や出産は「生産性」の敵とみなされ禁止がされている。また、移民の雇用対策の一つである語学教育に予算を割くことに消極的である。すなわち、現在の方針は莫大な管理コストをかけて、彼らの人権を侵害し使い捨てにすることを意味する。つまり、政府は自らの責任を放棄する政策を継続しようとしており、自助努力で生き残った者だけを選別して残せば良いという考えである。
 本書では移民のジェンダーや社会保障、教育、差別などそれぞれの問題点が詳しく書かれている。これらの共通点として本書では日本における移民政策をめぐる議論は、国内的な議論が継続的に行われないことと、海外の移民政策をご都合主義的に思い出したように参照し政治的に利用する傾向により、混迷を極め、有機的に発展してこなかったと挙げている。国家の論理では、入国管理を完璧にコントロールしようとするのは当然である。企業の論理では、経済的有用性の観点から選別が行われる。これは西欧と似たり寄ったりではあるが、日本の場合は特に経済成長に貢献できる「外国人材」以外の移民は存在価値がないという論理で貫かれている。        
 排外主義が強まっているのは世界共通であるが、移民の権利を擁護する運動の声は日本でも世論は強い。しかし移民当事者にとっては、自分たちの主張の支持者の存在が実感できないところで声をあげることは難しいとされており、まだまだ移民政策について考えなくてはならないとされている。本書では日本の移民政策の「おかしさ」がどこにあるのかということが書かれているので、移民政策においてどのような方針がなされ、主流化していったのかわかる本となっている。

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