見出し画像

なぜ集団は暴走するのか

〔紹介書籍〕田野大輔(2020)『ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか』.大月書店

この本の題名だけを聞くと「ファシズム、ナチスに興味がある人向けかな」とか「ドイツや差別の歴史に興味がある人用の本かな」と思われるかもしれないですが、それだけに限定された本ではなく、ジェンダーや人種差別、学校でのいじめなど様々な差別や暴力が起こるときの、集団の構造や人の心理の動きについて詳しく述べられているため身近に感じる内容も多く、読みやすい一冊といえます。
本書からなぜ人の心理などがわかるのかというと、大学の授業でファシズムを体験させるという内容が書かれているからです。この授業では、ファシズムは誰にとっても実は魅力的で、いつでもその渦の中に巻き込まれるということを、実体験を通して理解させよう、そしてそこからのフィードバックを現代のいじめやヘイトスピーチの話とも絡めてより深いものにしようといった狙いで行われました。前半では「ファシズムは実は魅力的」であるということを伝えるため、実際にヒトラーのもとにつく民衆たちがヒトラーというカリスマに従うことによって責任から逃れ、自由を得て好き勝手にやっていたといった当時のナチスドイツのエピソード等も書かれています。
私がこの本で一番面白いと思ったのは、「臭いものにふたをしていない」というところです。この本ではまずファシズムの本質は集団行動に参加した人たちがそれに「魅力を見出す」《1》とはっきり述べており、そのうえでその危険な魅力を持つ力は案外学校のいじめとか昨今のヘイトスピーチにもあるのではないか、しかも簡単に陥るのではないかというように、自分で身の回りのことを改めて考えさせてくれる授業の様子が書かれています。これは、ファシズムは危険な思想だから近づかないように!と警告のみしている本よりすごく意味があるように私は思います。私はもともとはファシズムに特段興味がありませんでしたが、この本を読んで言い方に語弊があるかもしれませんが、この本を読んでファシズムをすごく面白いと思い、色々調べるきっかけになりました。そういった臭いものにふたをせずまっすぐこちらに見せつけてくるという本だと私は感じました。だから前半に述べた純粋にファシズムの危険な魅力について知る本としても、読みながら、そして読み終えた後しっかり思考をはたらかしていく余地を残している点でも非常におすすめの本です。[K.S.]


[注]
《1》紹介書籍、P.6参照

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?