マガジンのカバー画像

小説と詩を嗜んでみた。

76
駄文ですが、お暇な時に。
運営しているクリエイター

#短編

水面跳ねる石を見る瞳に何が映る?

水面跳ねる石を見る瞳に何が映る?

『夏が始まった合図ってあった?』
ハイトーンのヴォーカルさんに聞いても答えてはくれない。

会津若松に行くって合図は貰っていたのだが、遊び歩いていたら母親からのLINEをガン無視していたようで。
【ばぁちゃんのとこ、帰ってっからね!!気が向いたら来なさい】
怒りのスタンプが山ほど付属で送られて居たのはスルーしておく。

イマイチ遅い梅雨のお陰で、夏感がないこの辺り。
北へ向かえば、湿気から逃げられ

もっとみる
『こんなにもオレンジ』

『こんなにもオレンジ』

広島県、井口島、瀬戸田。
あの有名な尾道市だ。
良い天気。空の青と海の蒼が眩しい。
瀬戸内の海は憧れでもあった。

ふらりひとり旅。
関東圏では味わえない空気。

流れ流れて此処まできてしまった。
どうせなら隅々まで広島を味わいたくなった僕は止められずに島へ。

気がつけば国内産レモン日本一の産地まで来ていて、実ったレモンが太陽の陽射しに光っていた。

『ん?』
光の色合いが違うところがある。

もっとみる
春夢、遙か。【春弦サビ小説】

春夢、遙か。【春弦サビ小説】

『あんた……』

握りしめた拳に爪がくい込み、血が滴り落ちる。

見るも無惨な有様。
痛めつけられた痕、無数の切り傷。

あたしを愛でてくれた手は紅に染まっていて、温度を失っていた。

あたしを見てくれた眼は、
あるべき所に収まっておらず。

あたしを色んな場所へ連れて行ってくれた足は、ひとつ無かった。

あたしに約束してくれた話は
もはや春の夢。

薫は疾走る。
大切な人を奪っていった輩の居る場

もっとみる
翼は桜のようだった。【春弦サビ小説】

翼は桜のようだった。【春弦サビ小説】

Inspired by Ao lyric.
Composed by Ao
Song by Ao

春の日に歌うあたしはーー。

飛べない鳥。
だから歌って、此処に居るよと言っているんだ。

みんな飛び立って行った。
遠くへ。
とにかく遠くへ。
あたしはまだ此処で歌っているよ。

あたしには翼が無かったから。
歌うことしか出来なくて。

泣いて。
鳴いて。
歌って。
唄って。

突然聞こえたアコース

もっとみる
さくらもちの塩味は。【春弦サビ小説】

さくらもちの塩味は。【春弦サビ小説】

「桜の樹の下でさ、さくらもち食べるのって何か粋だよね?」

貴方が笑ってそう聞くから、あたしは笑って答えるのよ。

『そうね、毎年食べれたらいいね』

さくらもち頬張る貴方は、上空から差し込む陽射しにキラキラと。

「毎年、違うところで買って、色んなさくらもち食べよ」

まだ見ぬさくらもちにワクワクしている貴方はキラキラと。

また来る春の前に。
貴方はーー。

「ちょっと旅してくる」

そう言っ

もっとみる
春に霞む。【春弦サビ小説】

春に霞む。【春弦サビ小説】

卒業式が終わって。

帰り道の校門からの下り坂。

坂道を彩る桜の木。

前をひとり歩いている君。

後ろ姿が舞う桜と相俟って綺麗だ。

この坂道を帰る雨の日を思い出す。

急に降った天気雨に木の下で雨宿りの君。

置き傘していた僕は、傘を差して君の元へ。

『使いなよ』のひと言を置いて、僕は走って行こうとするけど。

『待って、濡れちゃうよ』と君は僕を傘へと招いた。

相合傘で下りる坂道。

もっとみる
夕刻散華。【春弦サビ小説】

夕刻散華。【春弦サビ小説】

「あんたが来た所為で!ねぇ様は連れて行かれたんだぞっ!」

泣きながら『弥助』は言う。

飢えて倒れかけていたこのオレを救ってくれた娘、『櫻』は借金の形で遊郭へと連れて行かれたという。

「弱っちいあんたに出来るわけないだろっ!!」
弥助はまた泣く。

その姿を背に遊郭へと向かって走る。

艶街まで行く道のりで、『櫻』に追いついた。

「櫻……弥助が心配している……帰ろう」

櫻を取り囲む浪人達が

もっとみる
ByeBye ℳ𝑦.Love。

ByeBye ℳ𝑦.Love。

最後の街並みは、よく行った鉄板焼き屋さんだった。
今はもう店をたたんでしまって営業はしていない。
そこから海の通りへ。
お互い理解している。
お互い未来へと進む為に。
男は優しく呟き、女は泣いていた。

海は穏やかで、波は緩やかに寄せては返す。
潮騒がふたりを包んでいた。
熱い缶コーヒーをふたりで開けてひと口。
カモメが独り、恋に啼く。

とにかく生きろと呟き、男は女の頭に手を当てる。
その意味を

もっとみる