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『こんなにもオレンジ』

広島県、井口島いくちじま、瀬戸田。
あの有名な尾道市だ。
良い天気。空の青と海の蒼が眩しい。
瀬戸内の海は憧れでもあった。

ふらりひとり旅。
関東圏では味わえない空気。

流れ流れて此処まできてしまった。
どうせなら隅々まで広島を味わいたくなった僕は止められずに島へ。

気がつけば国内産レモン日本一の産地まで来ていて、実ったレモンが太陽の陽射しに光っていた。


『ん?』
光の色合いが違うところがある。
良く見ればレモンではなく……。
『オレンジか?これ』


「オレンジ、好きなのかい?」
声をかけてくれたのは農家の人だった。
オレンジが飛び抜けて好きという訳では無いが、果物は好きだ。
『日本でオレンジが実っているのがなんか新鮮で』
「あーまぁねぇ、日本じゃ蜜柑だもんねぇ」

大量に実っているオレンジは太陽のようで。


「今年はいちばんいい出来だよ。食べてみるかい?」
農家の人が太陽をもぎ取って、何処からか取り出した小型ナイフで太陽を半分に切って渡してくれた。
『おいくらでしょうか?』
それを聞くと、農家の人は笑いながら手を振って
「要らないって!味見だからさ。美味しいと思ったら買っておくれよ」

ーーオレンジって……こんなに甘いのか??
香りも凄い。
本当にオレンジなのか?


「皮はママレードにすると美味しいよ」

余す所なくいただけるオレンジ。
それを自信を持って紹介できる農家の人が僕にはとてもかっこよく見えた。

大事に育てられたオレンジ。
まさに太陽の恵み。
いや、太陽の雫のような。

この橙色の雫に惚れ込んだ僕だが、
それを味わうことしか出来ない。
ずっと寄り添って作り上げてきた人だけが成し得る太陽の雫。

『すいません。ケースで郵送してもらうのは可能ですか?』
「ありがとうございます。もちろん大丈夫ですよ」

僕は寄り添い作り上げることは出来ないけども、せめてその素晴らしさを味わえるようにと。


「帰ったら……ママレード、作ってみようかな……」

料理なんてしたことない僕が、
そんな気持ちになった。

最高のオレンジ。

それはきっと、あなたのようで。




わたしの親友からお題を頂いて書き下ろした短編です。
┏○ペコッ

親友へ捧ぐ。

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暁月夜 まくら
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