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【読書記録】『カフネ』阿部暁子~本屋大賞ノミネート作品から考える出会いと別れ
今年になって、一番心に響いた1冊である。
そして、今、誰かに本をプレゼントできるなら迷わずこの本を選ぶと思う。
ちなみに、タイトルでもあり、主人公の1人である「小野寺せつな」が働く家事代行サービス会社の名前の『カフネ』は、ポルトガル語だそう。
「カフネー」とは、誰かやペットなどを撫でたり、髪に指をからめて触れたり、気に掛けることを意味するポルトガル語の単語です。
<<読書メーターの自分の感想より>>
亡くなった弟の元恋人(小野寺せつな)との待ち合わせから始まる衝撃の冒頭。ラストにかけて涙が止まらなかった。家事代行サービスでの仕事を通して、主人公、薫子とせつなの距離は縮まっていく。愛だと思っていたものが愛じゃなかったり、分かっているはずという思い込みや呪縛が、自分と相手を追い詰めたりすることがある。しかしそんな時も、美味しい食事と一緒に生きる温かな時間が、人をそして私を救うのだと実感した。文字を追えば追うほど、そこにいて一緒に笑ったり、泣いたり、躓いたりした日常を投影できる素晴らしい作品に出合えた。
愛だと思っていたものが愛じゃなかったら
主人公・薫子は、40歳。離婚したばかりの女性である。子どもを望み、不妊治療を続けていたがついに、その願いは叶わなかった。そしてある日、夫から突然離婚してほしいと言い渡される。
そして、ある日年の離れた弟までも亡くす。亡くなった弟の元恋人である「小野寺せつな」との待ち合わせをしたある日、自分の結婚生活を回想するシーンから始まる。
しかし、物語終盤、思いもよらない離婚理由が明かされるのである。
「私と別れたいと思ったのは、どうしてだったの?」
「―何度も言ったけど、君には何も非はないんだ。全部僕の責任で」
この後に、独白のような元夫からの告白が続くのである。ぜひ、読んでほしい。
好きな食べ物が開く心の扉
主人公・薫子と亡くなった弟の元恋人の小野寺せつなとの一連のやりとりである。
薫子が自身の41歳の誕生日にスーパーマーケットでイチゴのケーキを買うのだが、突然のインターフォンに驚いて、落としてしまう。
「ちょ、何も泣かなくても」
「だって、ケーキがぐちゃぐちゃなのよ・・・・。」
「それ、さっきも言ってましたね。ケーキがどうしたんですか?」
このやりとりのあと、弟の元恋人である小野寺せつなが、このケーキをみごとにパフェにするのだ。
パフェはフランス語でパルフェ(完璧)を意味する。
つぶれてなんかいない、そのままの自分で進んでいけるんだ、そう背中をぐっと前に押してくれるシーンである。
一方で、せつなの心の扉は、このシーンで開かれたと私は思う。
「私も好き。おにぎりとプリンが、私のごちそう」
体調が悪い、せつなを思って何を作るか考えた時に、この一言を思い出した薫子
そして作中でも少し触れられているが、この「おにぎり」も「プリン」もどこにいても作れるものである。おにぎりは、米とのり、プリンは、牛乳とたまごと砂糖。
どれだけ科学や技術が進歩しても、手作りの想いに勝るものはないのではないでしょうか。
「やさしさ」の看板をぶらさげて
「弟はなぜ亡くなったのか」
「なぜ亡くならなければならなかったのか」
これが、この作品の枝葉となって、ちりばめられているテーマの一つである。「やさしさ」の看板をぶら下げて、人前でふるまう人ほど、心の闇が深いことがある。
誰よりも苦しみや辛さ、とまどいを日常生活に携えているからこそ、人にやさしくできるのかもしれない。
はたまた、自分という形がない中で、人と人との間の海を彷徨い、溶けてしまうようなそんな感覚が薫子の弟にはあったのかもしれない。
傷ついてもいいから踏み込んだ先に
衝撃の冒頭から始まったお話、一気読みに近い形で読み進め、ラストにかけて私は涙が止まらなかった。
一言でこの本を著すなら「感涙」である。心を揺り動かす物語には、いつも目には見えないけれど、自分自身の日常の投影を感じる。
薫子とせつなのように、傷ついてもいいから踏み込んだ先にある「やさしさ」とか「愛」をもっと深めたいと強く思う。
「カフネ」の言葉のように、愛しく思うことは自分を強くする武器でもある。
おまけ
公式サイトのレシピ集も見どころの1つ。ぜひ、訪問してみては。
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