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おいしい料理が出てくる1冊

 日本にいたころは、この時期は美味しいお正月料理を両手に、ほくほくと過ごしたものです。 朝・昼とお雑煮に舌鼓、夜は家族と外食といった具合に。

 しかしここは海外。

 餅もなければ数の子もなければ、かまぼこもない。日系スーパーにでもいけば、手に入れられるでしょうけれど、そこまででもない。

 そんな生活にもすっかりと慣れて、健康意識レベルが高まるここ最近は、朝からリンゴをむしゃむしゃと食べる日々です。ビタミンCの効果的摂取。

 さて前置きはこのくらいにして本題へ。家にいながら世界の味との出合いを果たすことができるのは、読書ならではの効用ではないでしょうか。

 文学的な視点からの味わい、懐かしの味との再会、そして未知の料理との出合い。そんな1冊を今日は紹介していきたいと思います。


 

午後からのひとときを喫茶店で

 1冊目は、喫茶店(カフェじゃないのがいい)が舞台の『喫茶ドードー』シリーズです。

 「自分が自分をいたわってあげなくて、誰がいたわるんですか。」「ぼくもあなたと同じです。ここで幸せの修行をしている最中です。」この2つの言葉は、私の心の宝箱にしまって、必要な時に触れたいと思うのです。喫茶店主の「そろり(ソローからあやかった愛称)」が紡ぐ言葉は、作者からの読者へのラブレターのような優しさがあります。楡や楓といった樹木に囲まれた都会の森のようなカフェが舞台。一歩足を踏み入れたら、きっとさわやかな風を感じられるでしょう。飾らない副音声のようなナレーションがあるのも読みどころです。

『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』|感想・レビュー・試し読み - 読書メーター

 1作目に引き続いて、暖かさあふれる作品でした。副音声のようなナレーションはドードー鳥だったのですね。そろりや訪れるお客さんを優しいまなざしで見つめ続けていることでしょう。私もいつか会いたいなあと。第3弾(文庫)が今月発売されたようです。続きが今から気になって仕方がありません。

『こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。』|感想・レビュー・試し読み - 読書メーター

 ひとやすみ。私も人生のひとやすみをしているように思います。海外生活が長くなるか、短くなるかまだわかりませんが、今は日本を離れて「一休み」。離れたからこそわかる故郷のありがたみ、日常の喧騒への懐古、そして家族との日々など、思いめぐらすことは多岐にわたります。シリーズ第3弾もほっこりとした気持ちで読み終わりました。『違いを受け入れることは大切です。でも全ての価値観に歩み寄る必要はないんじゃないですか?』今日もそろりの言葉が心に染みわたりました。白黒はっきりしなくてもいいのかもしれません。人生は、長いですから。

『いつだって喫茶ドードーでひとやすみ。』|本のあらすじ・感想・レビュー・試し読み - 読書メーター

アンちゃんの成長のそばで

 2冊目は、アンシリーズの最新刊を紹介します。この本のいいところを一文で表現するならば、アンちゃんの成長と和菓子のおいしさを同時に味わえるところです。

 あんこやチョコが「切実」なのは、それが作られる過程に人の手が加わり、歴史が深いからだと思う。もちろん、それらの素材を生かしたデザートや料理にもオリジナルの歴史や人々の想いが乗せられる。しかし、もっと根本のところで光っているような原石みたいな輝きが、それらにはあるんじゃないだろうか、そんなことをふと思った。アンシリーズ最新作を積読していましたが(珍しくハードカバーで購入)ようやく読むことができて一安心。アンちゃんの成長、椿店長、それに立花さん、新しい店長。和菓子を通しておりなされるお話は、まだまだ続きそう。

家出猫さんの本棚 - 読書メーター

 この本の中で出てくる、「淡雪」という和菓子がとても美味しそうなのです。食べたことはないのですが、特別な感じがなんだかしてしまうのですよね。

ままならない日常を癒す定食で

 最後に3冊目として、原田ひ香さんの「定食屋 『雑』」をご紹介いたします。

 私は離婚をしたことがない。だから、みさえが「カワイ子ちゃん」と呼ぶ主人公・沙也加の気持ちを理解することはできないと思いながら読み進めていた。相手の気持ちを慮ったり、推し量ったりすることで、人と人とは上手にかかわりあっていくが、それは本の中の登場人物でも同じことがいえるのではないだろうか。彼女の気持ちが理解できたのは、定食屋「雑」での夫とのやり取りであった。彼女は、訪れた夫に離婚届を手渡す。「ん?今のお客さんは?」「間違えましたって」「え」「いろいろ間違えちゃったんだって」短いけれど深い想いが伝わった場面。

『定食屋「雑」』|本のあらすじ・感想・レビュー・試し読み - 読書メーター

 おいしい食べ物のそばには、いつも人々の想いが交錯する。それは、甘かったり、時に苦かったりする。暖かい飲み物のようなやさしさもあれば、さわやかなソーダのような味わいの時だってあるだろう。

 お正月休み最後の方もいるかと思います。そんな日の午後に、おいしい1冊をぜひ読んでみませんか。

 本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

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家出猫
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