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【ネタバレ・読書記録】『ヴンダーカンマー』星月渉
3月に入って初の読了本はこちら、星月渉さんの『ヴンダーカンマー』です。
私の読書スタイルの特徴として、ホラーやサスペンスも苦手ではないということが言えます。
星月渉さんといえば、『わたしの死体を探してください』が日本でドラマ化したと聞きました。
物騒なタイトルだからこそ、手に取ったともいえる。自分の結末を自分で描いていく、愛情と執着の二重らせんを柱に書かれた作品だった。死人に口あり、死を終着点と見なかった主人公・麻美、そして麻美の夫、不倫相手、みな、それぞれの意味で他人に執着していると感じた。私にはできない。私にはない感情かもしれない。『方舟』のようなどんでん返しではないが、初めから想定して動いていた麻美の感受性の深さを表現できる作者に脱帽である。私の死体を「探してください」本当に探して与えてほしかったのは愛なのかもしれない。
初めから想定していたのは、このヴンダーカンマ―にも受け継がれている。ちなみに
ヴンダーカンマ―とは
日本語で驚異の部屋と名付けられ、15世紀のイタリアを起源としているのだとか。
ヴンダーカンマー(驚異の部屋)を作りたい。主人公、唯香がコレクションにしたのは、人間だった。それも同じ父親をもつ子どもたち。サイコパス小説と言えば、湊かなえさんの『人間標本』でお腹いっぱいになっていたのだが、また違う境地に至れる作品に出合えた。自分の血に流れる狂気と猟奇性に気づいた時、人は人でなくなるのだろうか。それとも自分を葬り去ることを選ぶのだろうか。実は、唯香が死んだ時、誰が彼女を殺したか直観的に分かってしまった。内容そのものよりそのことに、自分が自分で怖くなってしまった。
サイコパスの美少女が繰り広げる猟奇的世界
お話冒頭で、主人公・唯香は死んでしまうのですが、私はこの時点で誰が彼女を死に至らしめたのかわかってしまいました。
こういったことは、サスペンスやホラー小説を読む中で、結構頻回に起こることなのであまり気にも留めないのですが、ヴンダーカンマーのコレクションになる子どもたちの独白と回想によって、「わかってしまった感」がマイルドになっていったのが救いでした。
人が人でなくなり、自分をも葬り去る
自分の身体に流れる血について、考えたことはあるでしょうか。このお話を読んで、私はいつも考えているんだ、と改めて気づかされました。
そして、日常の中で、人生の中で、確実に「父親」を感じるのです。これは、母でないのです。
母に似ているところもあるのにも関わらず、なぜか「父」なのです。
猫の性格や気質は父猫からの遺伝だと言われますが、人間もそうなんじゃないかと思う時があります。
考えの端端に父親が表れる、作者の星月さんもそんな経験があるのだろうか、なんて勝手に思ってしまいました。
狂気と喪失の二重らせんである
『私の死体を探してください』のテーマが愛情と執着の二重らせんならば、この作品は「狂気と喪失」の二重らせんだと思うのです。
おぞましい血を途絶えさせたかった主人公という側面と、自分を喪失したくなかった側面とがないまぜになっているように感じました。
だから、ラストがあの終わり方だったのではないでしょうか。
最恐小説にも選ばれているようですので、ぜひそういうのに抵抗がない方は一度読まれてみてください。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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