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ナレッジワーカー(知識労働者)におけるルーティンワーク

ナレッジワーカー(知識労働者)は、著名な経営学者であるピーター・ドラッカーによって生み出された言葉です。簡単にいうと、考えることによって、生計を立てている人たちのことを言います。基本的に、ナレッジワーカーは、問題を解決することが主な仕事となります。この対義語として、マニュアルワーカー(単純作業労働者)という言葉があります。

ナレッジワーカーとマニュアルワーカーのルーティンワーク

ルーティンワークとは、決まったことを決まった手順で行うことを言います。マニュアルワーカーは正に、マニュアルに従って、作業を繰り返し行う作業者のことになります。よって、マニュアルワーカーの大半の業務はルーティンワークであることが言えます。逆に、ナレッジワーカーにおいても問題解決だけが業務ではなく、ルーティンワークはあります。お医者さんは、いわゆる医学知識を利用することによって、人における医学的問題を解決するナレッジワーカーとなります。そういったお医者さんも、クリニックを運営していれば、毎朝同じ時間から、診察という行為を繰り返し行います。このようにナレッジワーカーにおいても、ルーティンワークがあります。よって、ナレッジワーカーだからといって、いつも違ったことやって、ルーティンワークがない訳ではありません。ナレッジワーカーとマニュアルワーカーのルーティンワークにおける違いは、粒度の違いになると思います。マニュアルワーカーの場合は、同じことを同じ方法でやることが求められます。逆にナレッジワーカーは、行う行為は同じであっても、解決すべき問題が異なるため、対応方法が異なってきます。お医者さんのケースの場合は、同じ診察だとしても、患者の症状によって、対処法が異なってくるということです。

このため、マニュアルワーカーの場合は、同じことを同じ方法で行うため、基本的にアウトプットは、均一化されます。しかし、ナレッジワーカーの場合は、同じ行為を、違った対応方法で実施するため、結果が必ずしも一定になるとは限りません。

ナレッジワークとマニュアルワーク

ナレッジワーカーとマニュアルワーカーがいるように、同じ人のタスクの中にも、ナレッジワークとマニュアルワークが存在し、機械でない限り、マニュアルワークのみのマニュアルワーカーはいません。例えば、工場のラインで働いている人も、大半は、マニュアルワークかもしれませんが、カイゼンといったように、今以上に生産性を上げるという課題を解決するために、ナレッジワーク(考え作業)が必要となります。逆にナレッジワーカーであっても、例えば、出退勤の記録のように、単純なマニュアルワークも業務の中には存在します。よって、ナレッジワーカーとマニュアルワーカーがいるといっても、それは、割合の問題であって、全ての業務は、ナレッジワークとマニュアルワークの組み合わせであると言えると思います。

ルーティンワークのナレッジワーク化

例えば、法人営業を行う人がいるとします。その人のルーティンワークは、見込みのお客様を訪問し、製品を販売することになります。毎回お客様のところに訪問し、同じ営業トークしかしなかった場合、それは、マニュアルワークに近くなってしまいます。しかし、お客様の課題を聞き、解決できる提案を実施することで、同じルーティンワークであっても、ナレッジワーク化されます。法人営業の行為も、営業効率を上げるという課題を常に抱えていますので、どういった方法であれば、より営業効率が上がるのかを考えることによって、ルーティンワークのナレッジワーク化がなされます。もちろん、ナレッジワーク化するということは、違った方法を試すということになりますので、うまく受注できるケースもあれば、失注してしまうケースもあります。ただ、うまくいくことと失敗することを学ぶことにより、最終的には、営業効率を向上させていくことができると考えます。

著名な作曲家は、作曲数も多い

バッハ、モーツァルトおよびベートーベンは、名曲を作曲したクラッシックの作曲家として有名です。曲を作るという行為は、ルーティンワークではありますが、今までのものとは違うものを生み出すという意味では、ナレッジワークとなります。そして、名曲を生み出すことによって、人々の心を豊かにするだけでなく、(意図的であるかどうかは別として)大きく後世の経済にも貢献しています。この事実は、心理学者であるアダム・グラント氏のTED Talkでも触れられていますが、名曲を生み出すために、バッハ、モーツァルトおよびベートーベンは、驚くほどの数の作曲をしています。バッハは、生涯で1000曲以上作曲しており、モーツァルトは、35歳という短い生涯ながら、600曲以上を作曲しています。ベートーベンは、作品番号がないものを含めると400曲以上を作曲しています。つまり、より良い結果を出すためには、同じルーティンワークであっても、色々なやり方を考えて試すナレッジワークが有効であることがわかると思います。

アダム・グラント氏のTED Talkより

ナレッジワーカーにおけるルーティンワークの重要性

フランスの人類学者およびマーケティング学者である、クロテール・ラパイユは、優れたセールスパーソンは、実は、拒否されている件数も多いということを見つけました。このことから、彼は、こういった人のことを「幸せな敗北者 (Happy Losers)」と呼びました。こちらの、彼の論文の紹介において、「ジョナサンは、50万台のパソコンを1ヶ月で販売しました。しかし、彼は、500万回拒否されました。」と記載されています。つまり、同じ販売というルーティンワークにおいても、拒否されることによって、色々と創意工夫を行い、販売行為における問題を解決するナレッジワークを実現することによって、結果的に販売数が伸びていくのです。

このことから、高度なナレッジワークとは、ルーティンワークを数多く実施し、その中で色々な仮説検証を行い、有効なソリューションを学びとして積み上げていくことであると考えます。

なお、経験から仮説検証を行い、学びを得ていくという行為を内省や経験学習と言い、そのモデルやフレームワークは、数多く存在しています。

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