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『自己理解で開く豊かな人生の扉 思い込みをなくし本当の幸福を見つける』第1章・無料全文公開
2025年1月29日発売の書籍『自己理解で開く豊かな人生の扉 思い込みをなくし本当の幸福を見つける』から、第1章「幸せとは何か?」を全文公開!
幸せの定義
第1章では「幸せとは何か?」を探求し、日本の幸福度が低い理由や幸せの判断基準について考察します。都会と田舎の生活比較や、誤った目標設定が幸福に及ぼす影響を見つめ直し、自分の人生を振り返りながら真の幸福を見つける道を示します。
突然ですが、幸せとは何でしょうか?
幸せの定義は個々の価値観や人生経験によって異なりますが、どのような状態が幸せなのかがわからなければ、幸せかどうか判断もできません。
【thinking】
あなたなりの幸せとはどのようなものかを書いてください。
「幸せ」と聞いて、お金・豪邸・車などを所有していることを多くの人がイメージしたのではないでしょうか?
幸せとはどのようなものか、偉人たちの考えを紹介しますので参考にしてください。
■ダライ・ラマ14世
「幸せは、外部の状況によって決まるのではなく、心の平和と内面の満足によって決まる」
幸せは見た目ではなく内なる平和と心の平静が幸せのカギである、と述べている。
■アリストテレス
「幸せとは、魂の活動であり、美徳に伴うものだ」
倫理的な行動と美徳が幸福の根源である、と述べている。
■エイブラハム・リンカーン
「人は自分の心のなかで決めた範囲で、どれだけでも幸せになることができる」
幸せは自己決定と内なる意志の問題である、と述べている。
■アルベルト・アインシュタイン
「成功した人生ではなく、価値ある人生を目指すべきだ」
成功ではなく価値や貢献を見いだすことにより幸せを得る、と述べている。
■マハトマ・ガンディー
「幸福とは、あなたの考え、言葉、そして行動が調和しているときに存在する」
自己の内外の調和が幸福を生む、と述べている。
■ヘレン・ケラー
「幸福とは、単なる物質的な豊かさではなく、心の充実だ」
感謝と希望が幸福の重要な要素である、と述べている。
■スティーブ・ジョブズ
「あなたの時間は限られているので、他人の人生を生きることで浪費しないでください」
自分自身に忠実であり情熱を追求することが幸福への道である、と述べている。
いかがでしょうか。なるほど、こんな考え方もあったのか! と新たな気づきや発見につながったでしょうか。
次は心理学者の考えを紹介します。
■フロー理論の提唱者 ミハイ・チクセントミハイ
幸せとは、遊びの感覚で夢中になれるものがあること、と述べている。なお「フロー」とは、時間を忘れて夢中になるなど「没頭状態」のことで、アスリートたちの「ゾーン」と呼ばれる感覚に近いもの。
■ポジティブ心理学の第一人者 クリストファー・ピーターソン
幸せとは、人との関係に生まれる愛や許し、また感謝である、と述べている。他者との関わりやつながりは大切で、人生の幸福度に大きな影響を及ぼすとしている。私は人間関係による「愛」「許し」「感謝」に幸せのヒントが隠されているのでは、と考えている。
■ポジティブ心理学の父 マーティン・セリグマン
幸せを構成する5つの要素として「PERMA」というフレームワークを提唱。
①Positive Emotion(ポジティブな感情)
ポジティブな感情とは、喜び・満足・希望・愛などの感情を意味する。これらの感情を日常生活で増やすことが幸福感を高めるために重要。
②Engagement(エンゲージメント、没頭)
没頭とは、何かに完全に集中し、時間を忘れるほど深い状態を意味する。この状態は自分の能力を最大限に発揮できる活動やチャレンジを通じて得られる。PERMA理論におけるエンゲージメントは、アメリカのギャラップ社などが提唱するエンゲージメントや、ユトレヒト大学を中心に研究されているワークエンゲージメントとは定義が異なり、ポジティブ心理学の創始者のひとりミハイ・チクセントミハイが提唱する「フロー理論」の概念と一致する。
③Relationships(良好な人間関係)
良好な人間関係は、他者との深いつながりや支え合いを意味する。家族・友人・同僚とのポジティブな関係は幸福感を高め、困難な時期におけるサポートとなる。
④Meaning(意味、意義)
意味とは、自分の人生や行動に目的や意義を見いだすこと。仕事やボランティア活動などにおいて意義を見つけることで、深い満足感と幸福感が得られる。
⑤Accomplishment(達成、完遂)
達成感は、目標を設定し、それを達成することで得られる満足感。努力して目標を達成することは自信を高め、自己効力感を向上させてくれる。
これらを参考にすると、幸せとは「人生で何を手に入れるか」という視点ではなく、「人生に求められていることは何か」「人生に意味や意義を見いだすこと」で幸せになれることがわかります。
人間の欲求を5段階に分類したアメリカの心理学者アブラハム・マズローは、第5段階「自己実現」のさらに上に第6段階「自己超越」を示しています。
自己超越とは、自己の幸せ以上に他者の幸せを求めるものです(第4章3節「自己実現より幸せなもの」で詳しく解説します)。
マズローの欲求5段階説とは、最も低い段階から順に、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求とし、下位の欲求が満たされることで次の欲求があらわれる、という法則です。
<参考>
【thinking】
あなたにとっての本当の幸せとは何かまとめておきましょう。
これからの学びは、覚えることではなく考えることです。考えたことを言葉や文字にすることで、より自分の考えが明確になり、説明する力も向上します。ぜひ【thinking】コーナーでは立ち止まって考えをまとめ、文字にしてください。
各項のおわりには【memo】のコーナーを設けています。読んで気づいたことや感じたことをメモしておいてください。
そしてこの本を読みおえたら、またここに戻り、あなたにとって何が幸せだったのか、メモを読み返してください。自己の成長と本当の幸せを手に入れつつあることがわかります。
本当の幸せとは、永遠に誰もが手に入れられるもので、失ったり、奪われたりするものではありません。物質的なものに幸せを求めるから不安になるのです。
《まとめ》
幸せの定義は個々の価値観や人生経験によって異なるため、自分にとっての幸せが何かを明確にする必要がある。
有名人や心理学者の考えによれば、幸せは物質的なものではなく、内面的な平和や意義ある活動、人との良好な関係、そして自己実現に基づくものが重要とされている。
マズローの欲求5段階説やセリグマンのフレームワークPERMAに従えば、幸せは自己実現や自己超越、意義や達成感を得ることに関連している。
【memo】
なぜ日本の幸福度は低いのか?
毎年3月20日の「国際幸福デー」に世界幸福度報告(World Happiness Report)が発表されます。2024年の日本の幸福度ランキングは143か国中51位となり、前年の47位から4ランクダウンしました。なお、2022年は54位、2021年は56位、2020年は62位でした。
<参考:幸福度一覧|セカイハブ>
世界幸福度報告における幸福度の評価は、各国・地域の人々に「人生に対する評価」に基づいて調査が行われます。したがって幸福度とは、どれだけ自分の人生に満足しているかの「主観的な評価」となります。
実は、世界から日本を客観的に見ると幸せな国なのですが、日本人から主観的に見ると幸せでない国となるようです
【thinking】
なぜ日本人の幸福度は低いのかを考えてみてください。
日本財団は2024年に実施した18歳意識調査で、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インド6か国の若者各1,000人(17~19歳)に対し、「国や社会に対する意識」について調査しました。
<参考:「第62回 ―国や社会に対する意識(6カ国調査)―」報告書>https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2024/03/new_pr_20240403_03.pdf
「自分の国の将来について」の調査結果(図1参照)では、「良くなる」と答えた日本の若者は15.3%で、調査6か国中で最下位でした。
なお、中国85.0%、インド78.3%、韓国41.4%、アメリカ26.3%、イギリス24.6%です。これらの調査結果から、とくに日本の若者は自国の将来がよくなると思っていないことがわかります。
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自分自身についての項目で日本の結果(図2参照)は、「自分のしていることには、目的や意味がある」62.8%、「将来の夢を持っている」60.1%、「自分は他人から必要とされている」56.8%、「自分には人に誇れる個性がある」53.5%、といずれも6か国中最下位でした。
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これらの結果から、日本人の18歳は幸せと関連する「希望」や「夢」「生きる意味」の項目が低いことがわかります。私たちは少々生活が苦しくても「希望」「夢」「生きる意味」があれば、そこに意識を向けることで前向きに考えることができます。どうすればこれらを手に入れられるのかの詳細は、第2章以降を参考にしてください。
どの国が上位を占めているのか気になりますね。2024年版の世界の幸福度ランキングトップ10を見てみましょう。
1位フィンランド、2位デンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデン、5位イスラエル、6位オランダ、7位ノルウェー、8位ルクセンブルク、9位スイス、10位オーストラリア、となりました。上位10か国を見ると、北欧諸国の5か国(フィンランド、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー)すべてが上位を独占しています。
世界的に見ても、以前から北欧諸国は幸福度が高いことで知られていますが、それはなぜしょうか。その特長を見ていきましょう。
■高い社会的福祉制度
高い税率であるが、教育・医療・子育て・失業対策などそれに基づく高い社会的福祉制度をもっており、多岐にわたる支援が充実している。これにより、国民は経済的不安や社会的な不安が軽減され、国民は安心して生活ができる。
■社会的平等
所得分配の平等が比較的高く、貧富の差が小さいことが特長。ジェンダー平等も進んでおり、男女ともに仕事と家庭を両立しやすい環境が整っている。
■バランスの取れた労働環境
労働時間が適度に管理されており、ワーク・ライフ・バランスが取れている。北欧諸国では週休3日制が確立されており、長時間労働は少ない。北欧のライフスタイルは「家族優先」で「年功序列」はなく、「フラットな職場」という特長がある。
■高い教育水準と文化的要素
教育水準が非常に高く、国民の多くが高等教育を受けている。これにより、個々人の能力が最大限に発揮され、社会全体の知的レベルが向上。読書・音楽・スポーツなど文化的な活動が盛んで、個人の精神的充実を図る機会が多い。
■強いコミュニティ意識
家族や友人、コミュニティとのつながりが強く、社会的なサポートネットワークが充実しており、孤独感やストレスが軽減されている。高い社会的信頼と協力の文化があり、個人間の信頼感が社会全体の幸福感を高めている。
■自然環境の恩恵
豊かな自然環境が身近にあり、アウトドア活動が盛ん。自然のなかでのレクリエーションはストレス軽減や精神的リフレッシュに役立つ。環境保護への意識が高く、持続可能な生活を推進しており、自然との調和が保たれ、心身の健康が促進される。
■安全で安定した社会
北欧諸国は比較的治安がよく、犯罪率が低く、社会制度も整っているため、安心して生活ができる。政治が安定しており、生活に対する国民の不安が少ない。
北欧が幸福度の高い国となった背景には、地理的条件や歴史的な発展が深く関係しているようです。北欧地域は厳しい自然環境にあり、農業生産性が低かったため、生存には共同体での助け合いが不可欠でした。このような状況が、互助精神や平等を重んじる文化を育みました。
また、19世紀から20世紀初頭にかけての民主化や労働運動の高まりにより、社会福祉制度や平等な政策が整備され、国家としての基盤が強化されました。資源の有効活用や教育の充実により、安定した経済と高い生活水準を実現したのです。
こうした歴史的背景が、現在の北欧の幸福度の高さを支える基盤となっています。
【thinking】
あなたは現在の日本に対し、どこが問題で、何を改善すればよいと思いますか?
これらの特長を見ると、日本の幸福度が低い理由のひとつは、長時間働く文化や過度な競争が原因で、生活の質や心の余裕が欠けている点です。日本も工夫すれば北欧諸国のように幸福度が高い国になれるように思えます。
個人的には、政治に対する国民の信頼感が向上すれば、すべての項目で期待できると考えています。
《まとめ》
日本の若者は、自国の将来や自分の存在に対して悲観的な見方が強く、希望や夢、目的を感じにくいことが調査で明らかになっている。
一方、幸福度が高い北欧諸国は、社会福祉の充実、平等な所得分配、バランスの取れた労働環境、高い教育水準、強いコミュニティ意識、自然との調和、安定した社会、などが要因。日本も工夫すれば北欧諸国のように幸福度が高い国になれるように思える。
【memo】
選択の判断基準は何?
私たちは常になんらかの判断基準にしたがって行動を選択しています。
たとえば、みかん狩りに行ったとしましょう。
【thinking】
あなたなら、どのような行動を取り、みかんを食べるでしょうか?
多くの人は、入場料のもとを取ろうとして、みかんを食べようと考えます。モノゴトを量で測り、損得を基準に判断しています。
みかん狩りの入場料 < そこで食べたみかんの金額
一方、いちばんおいしいみかんはどのようなものかを教えてもらい、自分で選んで最もおいしいと思ったものをその場で食べる。これは損得ではなく、モノゴトを質で測り、経験価値を基準に判断しています。
みかん狩りの入場料 < そこでの体験価値・思い出
人は損得で判断することが多いですが、幸せになりたければそうするよりも、自分の気持ちや感情を基準に判断したほうがよいと思いませんか?
『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)で有名になった近藤麻理恵さんは、モノを捨てるときは損得よりも好き嫌いで捨てたほうがよい、といっています。損得判断はあとになると後悔につながることがあるからです。いつも使っていたが古くなっていらなくなったカバンなどは愛着が湧くものです。
『たった2分で、決断できる。』(学研プラス)の著者・千田拓哉さんも「迷ったときは好きなほうを選ぶ」と述べています。
結局のところ、判断は損得だけでなく、自己の感情も大切にしたらいかがでしょうか。
損得より感情を大切にするメリットを6つ挙げてみましょう。
①心理的な健康の向上につながる
損得を重視する決定はしばしばストレスを伴うが、感情を優先することで自分の気持ちに素直になれ、ストレスが軽減される。
感情に基づいて行動することで、自分の本当のニーズや欲求に応じた選択ができ、精神的な安定が保たれる。
②幸福感の向上につながる
感情を優先することで心から満足する選択ができ、日常生活の幸福感が増し、好きなことや好きな人に時間・エネルギーを使うことは幸福感を高める重要な要素になる。
感情を大切にすることでポジティブな感情が増え、全体的な幸福感が向上する。
③自己表現と自己理解につながる
感情に基づいて行動することで自分の価値観や好みを反映した生活を送ることができ、自己表現が促進される。
自分の感情に向き合い、それを尊重することで、自己理解が深まり、自分自身をよりよく知ることができる。
④人間関係の向上につながる
感情を優先することで他者との共感や理解が深まり、人間関係が豊かになる。感情を共有することで、より強い絆が築ける。
感情を素直に表現することで他者とのコミュニケーションが円滑になり、誤解や対立を避けやすくなる。
⑤長期的な幸福の追求につながる
感情を無視して損得勘定だけで決定を下すと、短期的には利益があっても、長期的には満足感や幸福感を得られないことが多い。
感情を優先することで自分の価値観やライフスタイルに合った選択ができ、長期的に見て充実した人生を送れる。
⑥自己信頼の向上につながる
自分の感情に基づいて行動することで自己信頼が育まれる。自分の感情を信じ、それに従うことで、自分自身への信頼感が強化される。
感情を大切にすることで自己決定感が高まり、自分の人生に対するマネジメント感が得られる。
以上のように、損得よりも感情を優先することで、心理的な健康や幸福感が向上し、自己理解や自己表現が促進されることがわかります。
私たちは、ほぼ無意識で損得を基準に判断している、といっても過言ではありません。しかし、一時的な幸せより継続する幸せを得たければ、損得よりも好き嫌いの感情を優先したほうがいいのかもしれません。
もうひとつ判断基準があります。それが善悪です。
私たちのなかには大きく3つの判断基準があると考えています。
①頭で考える思考:損得勘定や勝ち負けを基準に判断
②心で感じる感情:好き嫌いや喜怒哀楽の感情を基準に判断
③腹で感じる直感:善悪など魂から得る直感を基準に判断
直感と直観は意味が異なります。
直感とは、インスピレーションのことで、ひらめきや霊感ともいわれ、無意識にある観念が伴う本質や道理によるもの。
直観とは、過去の経験に基づいた記憶から、即時に回答を見つける、もしくは予測するもの。野球でいうと、打者が打った球を直観でボールの落下点を予測するイメージです。
直感には正解しかないが直観には当たり外れがある、といわれています。
道理をもって判断する善悪は、社会全体に対する損得ともいえます。
ここで質問です。あなたは次のどちらが大切ですか?
①お金 ②友だち
次の質問です。あなたは死ぬとき、次のどちらを望みますか?
①お金をいっぱいもっているが、ひとりで死ぬ
②お金をもっていないが、多くの友だちに見守られて死ぬ
前者の質問では多くの人が①を選びますが、後者の質問では圧倒的に②を選びます。
【thinking】
あなたが本当に大切なものはどちらでしょうか? それはなぜですか?
判断基準は、損得勘定、好き嫌い、善悪以外にも、価値観や状況、経験も大きく影響し、これらが相互に作用して優先順位が変わります。
短期的な利益と長期的な利益も、優先順位に大きな影響を与えるのです。短期的な利益を重視する場合、即効性のある結果や目先の成功が優先され、効率性や収益性が重要視されます。一方、長期的な利益を追求する場合、持続可能性や将来的な成長を見据えた判断が求められるのです。
《まとめ》
私たちは常に判断基準にしたがって行動するが、多くの人は損得で判断しがち。みかん狩りでいえば、入場料以上の量を食べることに集中するが、質や体験を重視する選択も可能。
幸せを求めるなら損得よりも感情を基準にしたほうがよいとされている。感情を大切にすると心理的な健康や幸福感、自己表現が向上し、人間関係もよくなる。
直感や直観といった魂や経験に基づく判断も重要。
【memo】
都会と田舎の比較
田舎の生活と都会の生活、あなたはどちらが好きですか?
都会の生活が好きな方は、それが便利でよいことだ、という価値観が心のなかにあるからでしょう。しかし、その価値基準は本当に正しいのでしょうか?
次にある話は、2014年ごろにインターネットで話題になったものです。一度読んでから、あなたの考えを書いてください。
「大富豪の息子を貧しい田舎に送ったらどうなったか」という話
<参考:https://curazy.com/archives/50263をもとに著者修正>
〝ある大富豪の男性が自分の息子を田舎に送りました。
裕福な生活が当たり前と思っている息子に、一度「貧しさ」を体験させ、自分たちの生活がどれだけ幸せなものかを知ってほしかったのです。
息子は田舎に送られ、その土地の家族と一緒に生活をしました。
そして3日後、帰ってきた息子に貧しい生活がどうだったか聞きました。
父「田舎の生活はどうだった?」
息子「うん、よかったよ!」
父「こっちの生活と向こうの生活、どう違ったかな?」
息子「ああ! 違いなんて、たくさんあったよ!」
息子の答えを聞いてお父さんは安心します。
自分が思ったとおり、「お金をもっていることが幸せ」ということに気づいてくれたと思ったからです。
しかし、息子の言葉は意外なものでした。
息子「僕たちは犬を1匹飼ってるよね。でもあの家は牛やヤギも飼っているんだよ!」
「僕たちの家にはプールがあるよね。でもあの家にはとっても大きな池があって、その池はすごく透き通ってて、魚もいたんだよ!」
「僕たちの家には庭を明るく照らしてくれる照明があるよね。でもあの家はお月さまとお星さまが庭を綺麗に照らしてくれるんだ!」
「僕たちの家の庭は壁に囲まれているよね。でもあの家には壁なんてないんだ。まるで地平線の彼方まで庭が続いているみたいなんだよ!」
「僕たちは家に帰ったらいつもCDを聴いているよね。でもあの家では鳥のさえずりとか、自然の音を聴いて楽しんでいるんだ」
「僕の家のまわりには安全のために防犯カメラがあるよね。でもあの家はいつでも友人たちを迎え入れられるように、ドアでさえカギをかけていないんだ!」
「この街では、みんな携帯とパソコンが僕たちをつなげてくれているよね。あの家では家族や自然がみんなをつなげているんだよ」
お父さんは驚きのあまり声が出ません。そして最後に、息子は満面の笑みでこういいました。
「お父さん。僕たちが本当はどれだけ貧しいのかってことを教えてくれて、ありがとう!」〟
この話は大人の価値観と子どもの価値観の違いがよくわかります。まとめると図3のようになります。

子どもは世間の価値観にまだ洗脳されていません。素直に自然を愛しています。
一方、大人は世間の価値観に洗脳されているのです。お金・名誉・家・プール・車などを愛しています。
果たしてどちらの価値観が人間にとって幸せなのでしょうか?
【thinking】
大人と子どもの価値観についてあなたはどのように考えますか?
《まとめ》
ある大富豪が息子に貧しい田舎の生活を体験させ、豊かさの意味を学ばせようとした。しかし息子は、田舎の生活が「豊か」であることに気づく。田舎には広大な自然、自由、家族や友人との絆があり、都会の物質的な豊かさとは異なる価値が存在していた。この物語は、大人の物質的価値観と子どもの純粋な自然愛を対比し、真の幸せについて考えさせられる。
【memo】
間違った目標設定
多くの人が間違った目標を設定している可能性があります。
前節にもあったように、子どもが大人になるにつれ、さまざまな価値観をまわりから得ることで、根源的な価値観が変わってきます。
【thinking】
あなたが子どものころになりたかった職業や、やってみたかった趣味はありませんか?
価値観が変わる原因のひとつが親の影響です。親が自らの価値観を子どもに強制し、その価値観が子どもの価値基準として深く根付いた場合、自己認識と自己表現を抑制するようになります。
親が価値観や信念を押しつけると、子どもは自分の本来の興味や欲求をあきらめるようになり、自己評価や自己肯定感の低下につながってしまうのです。
また、親の期待に従うことが強調されると、子ども独自の考え方や創造性が抑制され、子どもの独立心や創造力が損なわれることもあります。さらには、親の価値観や期待に応えようとするプレッシャーが子どもにとって大きなストレスとなり、これが長期間続くと精神的な健康に悪影響を与えることにもなります。親の価値観に反する行動や考えをもつことに対する罪悪感や恥ずかしさから、子どもの自己評価を歪めることにもなってしまうのです。
職業で医者になる場合で考えてみましょう。家族や社会の期待から、幼少期から医師になるように育てられ、自分もそれを目指すようになります。実はほかの分野(芸術や音楽など)に強い関心をもっているのですが、まわりの期待に応えるために医学部を目指してしまうのです。
念願の医学部に入っても、いざ専門の勉強をはじめると医学に興味が湧かず、勉強が苦痛になり、精神的なストレスも増え、最終的に卒業をあきらめることになります。
仮に医者になったとしても、社会に出てさまざまな経験をする過程で、ほかの分野で本当にやりたかったことに出合うこともあるでしょう。
thinking】
もう一度聞きます。あなたが子どものころになりたかった職業や、やってみたかった趣味はありませんか?
私たちは、生まれたときには自我をもっていません。しかし、親や学校、周囲の人から価値観を学ぶことにより、多くのものを所有し、地位を得ようと間違った幸福を目標に設定し、競争や奪い合いをはじめます。
『ザ・シフト』(ダイヤモンド社)の著者ウエイン・W・ダイアーは次のように述べています。
「私たちは親や社会から、モノゴトの価値や道理を学んでいく。成果を上げ、その蓄積のうえにある幸福を思い描くようになる。私たちのエゴ(自我)は、そうして形成されていく。そして、得たものをなくすことへの不安と競争に疲れ果てたとき、自分を突き動かしていたのがエゴだと気づき、初めて自らの存在の源に触れ、新たな価値観を手に入れる」
ダイアーはエゴから覚める意識の転換を「飛躍的瞬間」と呼び、転換することを「シフト」と呼んでいます。飛躍的瞬間により人生の価値観がどう変化するかを見てみましょう。なお、男性と女性で異なるようです。
■男性の場合
<シフト前の人生の価値観ベスト5>
①wealth(お金、富)
②adventure(冒険心)
③achievement(功績、達成感)
④pleasure(快楽)
⑤respected(尊敬・承認されること)
<シフト後の人生の価値観ベスト5>
①spirituality(スピリチュアリティ、霊性)
②personal peace(心の平安)
③family(家族の絆)
④god's will(神の意思、人生の目的)
⑤honesty(自分の心に正直であること)
■女性の場合
<シフト前の人生の価値観ベスト5>
①family(家族の役割)
②independence(自立心)
③career(キャリア、肩書)
④fitting in(帰属意識)
⑤attractiveness(対外的な魅力)
<シフト後の人生の価値観ベスト5>
①personal growth(自己の成長)
②self-esteem(自己肯定感)
③spirituality(スピリチュアリティ、愛)
④happiness(幸福感)
⑤forgiveness(許すこと)
男性の場合は、競争的な思考やリスク回避から脱却し、柔軟な思考と積極的な行動を取るようになります。
女性の場合は、家庭と仕事の両立による葛藤から脱却し、自己評価を高め、自発的な行動を取るようになります。
このように、飛躍的瞬間のシフトは個人の成長と自己実現に大きく貢献しているのです。
【thinking】
いまのあなたがもっている大切な価値観は何ですか?
また、理想の価値観はどのようなものですか?
ジャン=ジャック・ルソーは『社会契約論』のなかで、人間は本来善良な存在であり、みんなが平等で誰も他人を支配しようとしないが、社会が土地などの財産を私有するという価値観を植えつけることで欲望や競争心が生まれ、他人を利用しようとする心が芽生え、人間本来の善良さが失われていく、と述べています。
ルソーは現代の私たちに「人間らしい生き方とは何か」「正しい目標とは何か」を問いかけることの大切さを教えてくれています。
《まとめ》
人は成長するにつれ、親や社会から受け取った価値観に影響されて本来の自分を見失うことがある。親の期待や周囲の価値観を受け入れると、自己表現や創造性が抑制され、結果的に誤った目標を設定することがある。たとえば、医師を目指すも興味を失い、苦悩するケース。
『ザ・シフト』の著者ウエイン・W・ダイアーは、エゴから目覚める瞬間を「飛躍的瞬間」と呼び、シフトにより真の価値観に気づくことで自己実現を促す、と述べている。
【memo】
自分の人生を振り返る
自己のやりたかったことや、いつどこでどのような価値観をもったのか、自己を知るためには「自分史」と「ライフラインチャート」で自分の人生を振り返ることができます。
自分史とは、文字どおり自分の歴史です。幼少のころからどのようなことがあったかを思い出して書いていきます。自分の人生を振り返り、自分の経験や出来事、そのときの感情や考え方、などを時系列に記録するもので、自分自身の過去を整理し、理解するための手段でもあり、自己を知るための重要な記録となります。
ここでの自分史は、本を書くためにつくるわけではなく、あくまで過去の自分の出来事に対する整理なので、思い出したことはどのようなことでも記入することです。
また、各出来事に対する詳細なエピソードや、そのときの感情を記録しましょう。そのなかに、いままで忘れていたような重要な価値観の根源が含まれていることがあります。
過去を思い出すには、子どものころの写真・日記・手紙などを参考にするとよいでしょう。
自分史の書き方は第4章6節で詳しく説明します。
ここでは思い出したことをメモしておいてください。
【自分史のmemo】
ライフラインチャートとは、自分の歴史を曲線で描いたグラフです。縦軸に幸福度、横軸に時間・年齢(生まれてからいままで)とします。(図4参照)
個人が自分の人生を振り返り、とくに大きな幸福や不幸な事柄の原因となった過去の経験や出来事を幸福度(-10から+10)で評価し、曲線で記録するものです。主に、曲線の山や谷のときの原因、感情や考え方を記入します。たとえば健康状態・経済的状況・人間関係・入学・卒業・入社・退職・結婚・離婚・達成感・挑戦など大きな出来事を中心に記入してください。
過去を思い出すには、子どものころの写真・日記・手紙などを参考にするとよいでしょう。
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自分史やライフラインチャートのここでの目的は、どのようなときに幸せを感じ、どのようなときに不幸せを感じているか、そのときの自分の感情を理解するためです。
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過去の事実は変えられませんが、その事実に対する解釈は変えられます。これについて詳しくは第4章で解説します。
人生がうまくいかないのは、自分が生まれもっていた自然を愛する価値観をどこかに追いやり、親や学校などで学んだ新たな価値観に変わっていくからです。そこに葛藤が生まれ、なぜか行動できない、やる気がしない、などの原因になっています。
目標を達成しても心から喜べない、幸福感を得られない、などの感情が生まれるのは、本当に大切にしているものが何かを理解できていないからです。
どのようにして新たな価値観が刷り込まれるかをお伝えします。
価値観が刷り込まれる時期として、乳児期(0~2歳)は、主に感情的な絆を形成する時期で、親の表情や声のトーンを模倣し、感情的な反応の基礎を学びます。
幼児期(3〜5歳)は、親からの指示やルールを通じ、社会的な規範や倫理観が形成されはじめるのです。また、言葉を通じて親の価値観や行動パターンを学びます。
学齢期(6〜12歳)は、子どもは親だけでなく、教師や友人など周囲の大人の行動を観察し、模倣します。この時期はとくに親の価値観や信念が、日常の生活習慣や教育を通じて強化される時期です。
思春期(13〜18歳)は、自己認識が強まり、親の価値観を一部取り入れつつも、自分自身の価値観を形成しはじめ、親の価値観と自分自身の価値観とのあいだで葛藤が生じます。
このように、子どもは親や学校での学びを通じて価値観が培われ、根源的な価値観として判断基準になるのです。アインシュタインは「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない」と有名な言葉を残しています。
この言葉は、私たちがもつ常識や価値観が、幼少期からの経験や教育によって形成されることを示しています。つまり私たちの判断基準や行動は、過去の経験や学びに大きく影響されているのです。したがって柔軟な思考や新しい視点をもつことが重要です。固定観念にとらわれず、常に学び続ける姿勢をもつことで、より豊かな人生を送ることができるでしょう。
親や教育者は子どもたちに多様な価値観や視点を提供し、自己の価値観を見つける手助けをすることが求められます。これにより、子どもたちは自分自身の価値観を形成し、より健全でバランスの取れた人生を歩めるようになります。最終的には、自分自身の人生を振り返り、価値観を理解することで、真の幸福感や充実感を得られるのです。
《まとめ》
自分史とライフラインチャートを使い、自己の価値観や経験を振り返られる。
自分史は、幼少期からの出来事や感情を時系列に記録し、自己理解を深める手段。
ライフラインチャートは、幸福度を軸に人生の浮き沈みを視覚化し、過去の重要な出来事を評価。
これにより、どの時期に幸せや不幸を感じたかが明確になり、自己の感情を理解できる。これらは自己の本質に気づき、正しい価値観を再発見する助けとなる。
【memo】
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第1章はここまで!
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競争を超えた幸福を追求し、本当の豊かさを手にしたい方へ
この本が、きっとあなたの人生を変える一歩となるでしょう。
【目次】
第1章 幸せとは何か?
第2章 仕事
第3章 お金
第4章 人間関係
第5章 健康
第6章 学び
■著者プロフィール
植田真司
豊かな人生への案内人
大阪府で教師の家系に生まれる。大阪市立大学工学部卒業、大阪府立大学大学院経済学研究科修了。大学時代に量子力学を学び仏教や空海に興味をもつ。体育会の陸上競技400mハードルではイメージトレーニングを実践。スポーツメーカーでのゴルフクラブの設計研究開発や新規事業、ブランド戦略を経て、大阪成蹊大学教授としてスポーツマンシップやスポーツ経済学を教える。現在は株式会社ニーズ創造研究所 代表取締役として、企業の健康経営や人材育成に尽力し、「退化の改心」「利環の精神」など独自の理念で幸せと持続可能な社会の実現を提唱。著書に『スポーツマンシップ論』他多数。自己理解を通じて豊かな人生を開くメッセージを発信している。