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内定辞退者さえも「ファン」にする、Gaudiyの採用コミュニケーション術
「採用の処方箋」は、スタートアップ企業に眠る採用・人事にまつわるナレッジを紹介していくシリーズです。
株式会社Gaudiyは、ブロックチェーン技術を使ったファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」で急成長しているスタートアップです。採用力のある企業としても知られており、メルカリやヤフー、ソニーなどを経験した人材も入社しています。
そんなGaudiyの採用で特徴的なのが、「退職者」や「内定辞退者」にもコミュニケーションをとって再び選考応募に繋げていること。デリケートな扱いになりがちな人々とどのように交流し、どう採用に生かしているのか。HR/PRの山本花香さんに話を聞きました。
内定辞退者にも「仲間意識」を。
──退職者や内定辞退者の方とはどのようにコミュニケーションされているのでしょうか。
正式入社になったあとに退職した方や、「お試し入社」という制度で数か月一緒に働いたのちに正式入社に至らなかった方とは、Slackの「アルムナイチャンネル」でコミュニケーションを取っています。「ガウタイム」という社内報を月1で共有するのが主な活動です。事業・組織のハイライトや新メンバーからの一問一答、部活動の紹介、CEOのメッセージなどをいれて、Gaudiyの今を知ってもらっています。
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また、オファーをさせていただいたものの、さまざまな理由から内定を辞退された方にはSNSを通じてイベントの案内を送っています。採用イベントや社内懇親会など、その方に合いそうなイベントがあるタイミングで個別にご連絡しています。
──このような取り組みが始まった経緯を教えてください。
正社員だった方はもちろん、数か月同じ環境で働いてくれたお試し入社の方が離れる際にも、「もうGaudiyの仲間じゃない」と、あっさり送り出したくなかったんです。
やっぱり一定期間一緒に働いたり、最終面接までGaudiyを検討してくれた方とは濃い関係性にあります。なのでいまは入社が難しくても、今後もゆるやかにコミュニケーションを取っていつか戻ってきてほしいなと。そう願ってつながりを持ち続けています。
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──実際に1度入社を辞退された方が、時を経てまた応募されたケースもあるそうですね。
3件ほどありました。1つ例をご紹介すると、あるポジションの1人目社員として内定をご提示した方がいます。その方はGaudiyの事業や組織に強い関心を持っていた一方で、同じ職種の方が複数名いる環境で学んでいきたいという思いも持っていらっしゃったんです。最終的にはその思いを理由に、別の会社に転職する決断をされました。
ところが1年ほど経ち、そのポジションの人数が3〜4人に増えてきたタイミングで「再度挑戦したい」とご連絡があったんです。Gaudiyの成長を見て「今なら入ってみたい」と思っていただいたようで。継続的にコミュニケーションをとっていてよかったなと思えた出来事でした。
辞退者も、取引先も、株主も「候補者」
──積極的に新規採用したいスタートアップとしては、入社を辞退された方や退職者にコミュニケーションをとるのは非効率的なようにも思えます。Gaudiyがそこに力を注ぐ最大の理由はなんでしょうか。
スタートアップは変化が激しいため、その時々の採用要件は事業や組織の状況に応じて変わってきます。そのとき合わなかったとしても、将来的に合う可能性は十分あると考えて関わりを持ち続けています。
また、弊社では「Gaudiyのファンを増やす」活動が大切だと考えています。これはバリューの1つである「FANDOM(ファンダム:もとは特定のジャンルを愛好するファン集団を指す言葉)」から来ている考え方です。採用活動をしていると、母集団をつくるためにスカウトメールを大量に送るなど、短期的なアクション指向になってしまいがちです。もちろん手数を打って探しにいくのは大事ですが、それだと“焼畑”になってしまうし、ずっと忙しくて苦しいですよね。
「候補者=従業員じゃない人全員」というのが弊社の考えです。内定辞退者はもちろん、取引先や株主の方もいつか候補者になってくれるかもしれない。そういう中長期の視点がベースにあるので、地道ではありますがコミュニケーションを続けられています。
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Gaudiyを思い出してもらうための工夫
──コミュニケーションの具体的な設計方法についてもお伺いさせてください。退職者、内定辞退者、取引先、株主などそれぞれのターゲットごとに狙いたいパーセプションを細かく決めているのでしょうか。
そうでもないです(笑)。というのも、人の気持ちはグラデーションだと思うんです。採用をしていると「潜在層」と「顕在層」という言い方をしますが、実際はそんなにパキっとわかれないですよね。採用媒体に登録していないけどGaudiyのことが気になっている人も当然いて、いわゆる潜在層のなかでも濃淡がある。
なので、新規の候補者に抱いてもらうパーセプションと、退職者や取引先に抱いてもらうパーセプションを明確に分けてはいないです。第一想起に入れていただきたい接点を複数用意しておき、その情報を常に最新の状態にし続けることを意識しています。
具体的にはGaudiyという企業を認知し、関心を持ってもらうカテゴリ、たとえば「Web3」「DAO」「エンタメ」など、さまざまな接点を用意し、それぞれに対して発信を積み重ねています。想起を取りたいキーワードはCEOの石川やPRメンバーとの話し合いで定期的に決めてますね。
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「そこまでやるか」な候補者体験をめざして
──選考フローに入った後の候補者体験でも工夫している点はありますか?
特徴的なものとして「オファーレター」の取り組みがあります。条件面だけを書くのではなく、それまでに面接を行ったメンバーから候補者の方に向けたコメントや、「〇〇さんの活躍イメージ」などをスライド十数枚にわたって記載しています。このオファーレターが内定承諾の決め手となった方もいらっしゃいますね。
こうした「そこまでやるか」という候補者体験をつくりたいなと思っています。やっぱり転職って最後まで悩むじゃないですか。そうなったときに、最後にこうした感動体験があることで決め切ってくれることもあると思うんです。逆に疎かにすると他社さんに行かれてしまうので、オファーレターはメンバーの力も借りながら気持ちが伝わるように作っています。
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──これも「ファンになってもらう」思想があらわれた取り組みですね。こうしたコミュニケーションを企画するうえで最も大事にしていることについて、最後に教えていただけますでしょうか。
「候補者体験はメンバー全員がつくりだすもの」という考え方です。採用は面接官や課題のレビューなどで、あらゆるメンバーが関わりますよね。当然、候補者からのリアクションやフィードバックを受け取るのもメンバーです。だからこそ、HR以外のメンバーからも採用における課題を拾い上げてもらって、日々改善しています。
「全員採用」という言葉がありますが、これは「全員でブログを書く」というようなことではなく、メンバー全員が候補者体験や採用の成果にコミットすることだと思っています。
かつてはGaudiyでも「全員採用」=「全員で採用アクションをすること」と捉えてしまってさまざまな課題が生じていました。スカウトやブログの運用がとまりがちになったり、責任の所在が不明瞭なためにイベントの登壇を呼びかけても意思決定する人がいなかったり…。
このときにHRとして注力したのは全員採用がしやすいカルチャー醸成や仕組みです。noteでもご紹介したのですが、全員採用とは「全員が最高の仲間集めにコミットすること」だと改めて社内にアナウンスしたり、HRと各チームの役割を言語化したり、会議体を見直したりしました。こうした細かな環境づくりが、ひいては良い候補者体験にもつながっていくんじゃないかなと考えています。