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藪内亮輔『心臓の風化』感想

偶然手に取った歌集を読み終えた。 


作者がどのような人か全く知らないが、平成生まれの歌人らしい。同世代。
通勤時に読んでいたが、心の叫びを書き綴った日記を盗み見ているような気持ちになったので、深夜に静かに読み直した。


死を見つめ、死を想う。死を恐れる。
これらは生を渇望するがゆえ起こることだろう。

静かで、苦しくて、孤独。
でも、諦められない。美しい。
言葉にしたい何かが溢れて仕方ない。
執着して、焦がれている。
そんな世界の切り取り方だった。
切り取ってぐっと圧縮されて、
燻ったり、光ったりしてみえた。


好きだと思ってメモしていたもの。

なみださへやがて忘れるさればこそ言葉を つよく、残ることばを

p.13

31文字に込められた願いの重み。

地上へと落ちて枯れ葉は鱗なす死にたくて生きてゐたあの日々の

p.71

降り積もる枯れ葉を「鱗なす」と表現していたのが好き。
日常的に目に触れる死・死体として、魚が使われている歌もあったので、「鱗」もまたその一部か。
死にたくて生きていた日々を見つめていた葉が地上に落ちて、いま、枯れ葉。死。
あの日々の、自分は、いま?

咲(ひら)くとはこはれることで総身をふるはせ春を泳ぐさくらは

p.152

蕾を壊して破って花開いた桜が空を舞い泳いでいく様が目に浮かぶ。
そして散ったら、地に落ちたら、枯れ葉同様に「鱗」かもしれない。また魚が見えた気がする。

劫初よりわれらが胸にもつそれを火と呼び消さず焼かれずにゆく

p.105

心とか魂とか自我とか。
あるいは感情、願い。
これをみて、前にあった3首を思い出した。

空をゆく鳥、雪がふり傘をさすあなた 心臓は風化しない

p.28

だれかひとりの心奪へば薔薇が咲く巻きつき締める中心は〈虚無〉

p.29

くづれつつ最後に残る一片をそれでも薔薇と言はせてください

p.29

形はなくとも、存在はしている。
祈りのような、願いのような。


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