ぐりこーげん

1000文字程度でちょっと不思議な掌編小説と日常エッセイを書きます。

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マガジン

  • 【掌編小説】魔女の戸棚

    美しいものとの出会いから生まれる、ちょっと不思議な掌編小説です。

  • 日常エッセイ

    日常での出来事や考えたことなど

  • 読書記録

最近の記事

【掌編小説】結婚指輪

長谷部史緒里は二人の男を思い出していた。 一人は、夫。もう一人は、昨日出会った 「八木真」だ。 史緒里に何やら不思議な「力」があることを見抜き、その力を伸ばすための場所に勤めているのだと言って名刺を置いていった。 …あの短いやりとりの中で、八木はどこまで分かったのだろうか。 昨日は酷く狼狽えてしまったが、よく考えてみれば、「全て」ということはないだろう。そもそも史緒里自身だって、「力」を使ったといい切れる自信はないのだ。 史緒里の脳裏に、真夜中に「おまじない」をしたと

    • 教室と着物と私

      昨夏。 「ご実家に着物ない?」 「結婚するときに誂えてもらわなかった?」と言われた。 卒業式の服装をどうするか、という話の流れからだった。 勤務先は、卒業生を担任する女性は皆、袴姿らしい。 以前勤めていた場所ではスーツ姿で卒業生を送り出していたので、わたしは着物も袴も着たことがなかった。 母が嫁入りするときは、祖母が嫁入り道具として用意しようとしたらしいが「絶対着ないから」と断ったらしい。 だから、わたしは実家に着物は無いし、嫁入り道具として持たされてもいない。 言って

      • 【掌編小説】琥珀

        「アンモナイト事件」から3日が過ぎた。 爽やかな秋晴れの朝、意外にも明るい声で依頼主から電話がかかってきた。 彼曰く、 「あれは夢で、寝たら元通りになるかもしれないと3日3晩待ってみたが、音沙汰はなかった」 「戻らないということは『本物』で、唯一無二の一級品!」 「ケースを『彼女』が戻ってきたくなるような形にさらにグレードアップして欲しい」とのこと。 電話をうけ、ちょうど午前は予定がなかったことから、担当者2人で再び依頼主の自宅を訪ねることになった。 *** 「あの

        • 【掌編小説】稲妻と馬蹄

          負けるものか、負けるものか 噛み締めるように心のなかで呟いて、駅の階段を下りる。 次々と地下へ吸い込まれていく人の流れは、まるで排水溝に流れ込む雨水のようだ。 心を無にして地下鉄に乗り込み、ぎゅうぎゅうと身体を押し込んでいく。 反芻したくないはずなのに、職場での会話を思い出す。 「いたっ」 隣のつり革を持っていた女性と手首が触れ合ってしまった。 小さく悲鳴をあげた彼女に、すみません、と呟く。 静電気だと思ってもらえますように。 まだ夏日なのに、無理があるかな。 感

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        • 【掌編小説】魔女の戸棚
          6本
        • 日常エッセイ
          10本
        • 読書記録
          3本

        記事

          働く三十六歌仙『うたわない女はいない』感想

          はじめに もし友だちに「最近読んだオススメの本って何?」と聞かれたら、絶対に勧めたい一冊。 36人の女性の歌人が「働くこと」をテーマに詠んだ短歌とエッセイが収録されている。 好き!と思った作品 その1 まず、MIKITAKAKOさんの装画がいい。 「働く女性」という言葉から一般的にイメージされるものが並んでいるイラストだが、いわゆる「OLさん」的なものだけではなく、軍手で握られたインパクトドライバーとビス、ビールと唐揚げ、スーツでつり革を持つ腕といった一見「働く男性

          働く三十六歌仙『うたわない女はいない』感想

          秋の味覚レシピメモ(じゃがいも、落花生、梨)

          1.じゃがいも食べ比べ 北海道展で変わったじゃがいもを購入したときの食べ比べメモ。 購入したのは、 インカのひとみ シャドークイーンノーザンルビー よりどり3袋1296円。 いっぺんに茹でて、コロッケの準備。 レシピは、白ごはん.comより。 味はインカのひとみが一番好き。 じゃがいもらしいホクホク濃い味。 他2つはあっさりめ? 味より食感の方が個性あるなと思った。 ホクホク系とネットリ系 濃い色はハロウィンの時期のメニューに良さそう(後日シャドークイーンをポテ

          秋の味覚レシピメモ(じゃがいも、落花生、梨)

          夕木春央『方舟』感想 ※ネタバレ注意!

          ※このnoteは、夕木春央『方舟』読了から間もないわたしが気持ちのままに感想を記したものであり、ネタバレに関して一切の配慮がありません。ご注意ください。 *** Xで絶賛の呟きを多数見かけて購入したものの、夏頃から積んでいた夕木春央『方舟』をようやく読んだ。 まずは、一切情報を漏らさず、けれどもその面白さとオススメする気持ちを呟いてくれていた先達に感謝を伝えたい。 ありがとうございました…!!! どこにどう驚いたかとか、どこがミステリー小説として巧みだったかとか、感

          夕木春央『方舟』感想 ※ネタバレ注意!

          クリオネ屋さん

          金木犀の香りを胸いっぱいに吸い込み、美しい月を眺めて楽しむ芸術の秋。 この秋は、「おりがみ」と「アイロンビーズ」に手を出してみた。 秋だから、というよりは子どもがそれらをやってみたいという年齢になり、「わたしは苦手だからやりたくなーい」というのも大人として良くないな、と思ったので始めた次第である。 おりがみは、本を読みながらせっせと作っている(子どもがまだ一人では折れないので、頼まれたのをひたすら折っている)。 なぜか最多リクエストなのは、「クリオネ」だ。可愛い。 難

          クリオネ屋さん

          【掌編小説】金魚とビー玉

          ☆簡単な恋のおまじない☆ ビー玉を持って、ビー玉越しに相手の写真を見てください。 そして「(相手の名前)は(自分の名前)に夢中になる」と3回唱えてください。 ビー玉が壊されたり、誰かの手に渡らないように、大切に保管してください。 ビー玉が無事な限り、相手はあなたに夢中です。 *** 午前最後のカウンセリングを終え、次の勤務先へ移動しようと腰を上げたところで、誰かが相談室のドアをノックした。 「はい」 ドアを開けると、「来校者」のネームホルダーをさげたスーツ姿の男が立っていた

          【掌編小説】金魚とビー玉

          noteを始めてからの1ヶ月を振り返ると見せかけて、わりと惚気話

          noteを開設して1ヶ月が経った。 この1ヶ月で9つの記事を書いて、これが10 本目。 1つにつき1000文字程度で書いているので、およそ一万文字。 文章化したからこそ整理できた気持ちがあったと思うし、 ツイートで短文を投稿するのとは違った喜びや達成感があった。 思い返してみると、こうして自分が書いた文章をまとめて公開するのは高校生の頃以来だ(厳密には、Twitterの創作企画みたいなものに思いついたごく短いものを投稿したことはある)。 高校生の頃は、部活でブログを

          noteを始めてからの1ヶ月を振り返ると見せかけて、わりと惚気話

          【掌編小説】アンモナイト

          魔女では食っていけないので、普段はオーダーメイド家具会社の製作部に勤めている。 材料を集めて、別のものを作る。 流れを整えて、望む形に変える。 わたしの得意とする魔法と家具の製作工程には重なる部分が多い。 *** 「いやぁ!さすが、サイズピッタリ。それから台座の角度も。」 依頼主の男は、木製のコレクションケースの前で身体の高さや角度を変えて、宝石のように輝く巨大な化石の見え方を確認した。 ケースの中には、直径40センチほどのアンモナイトが収められている。 「ここ

          【掌編小説】アンモナイト

          【掌編小説】ヴィーナスの櫛

          わたしは、今日、初めて彼女に触れる。 「折れそうだ。」 緊張しながら身体を撫でて、両手でそっと包み込む。 「そんな、見た目ほど軟弱じゃないのに。」 くすぐったそうに笑う彼女を見つめて、顔を近付ける。 「痛っ」 近付き過ぎて髪先が絡まった。 「長いと大変だね、切らないの?」 「どんどん伸びるから…邪魔になったら切るけど。」 緩やかな曲線を描いて規則正しく揃った流れをゆっくりと撫でる。 「髪、梳かしてみたいな。」 「痛いからだめ。」 「憧れるんだけどなぁ。」 力を込めた指先

          【掌編小説】ヴィーナスの櫛

          白井瑶『全自動お茶汲みマシーンマミコ』感想

          すごく好きな作品ばかりのブログが書籍化した。最高。 初めて読んだのはいつだったか覚えてない。 どれがきっかけで好きになったかも覚えていない。 それぐらい、全部、何度も読んでいた。 著者ご本人のXアカウントで書籍化を知り、即日予約(サイン本があるのは告知を見落としていた…悔しすぎる)してゲット。 書籍の厚みと馴染みのあるタイトルの数々を目にして、 「これだけの数の作品を無料で読ませてもらっていたなんて…ようやく課金させてもらいました。」と両手を合わせて拝みたい気持ちになっ

          白井瑶『全自動お茶汲みマシーンマミコ』感想

          君の瞳に似たものを

          贈り物が好きだ。 何をあげるか考えるのも楽しいし、 「これ、あのひとにあげたい!」と思えるものに出会うのも幸せ。 惜しむらくは、富豪ではないので、そうひょいひょいと贈り物はできないのだ。 もっと軽率にあげたりもらったりしたい。 贈り物をもらったときには、贈り主から見た自分が見える気がして嬉しい。 「こういうものが好きそうって思ってくれているんだな」 「こういうのが似合いそうって思ってくれてるんだな」 とその美しい贈り物が自分の新たな一面(あるいは既存のわたしの補強)になっ

          君の瞳に似たものを

          いつかの「その時」に備えて

          2024年の目標として「身体にいいことを習慣にする」というものを密かに実践中である。 いざ必要になってから「これ、身体にいいらしいからやらないと!」と思っても、重い腰が上がらない可能性があるし、定着しにくい恐れがある。 それならば必要な「その時」がくるまえに、無意識にできるくらいまで日常の一部にしてしまえ、というのである。 あるいは日常の一部にしてしまえば、「その時」がくるのを限りなく遅らせられるのでは、という欲もある。 「その時」というのは、太ったとか禿げたとか何らかの数

          いつかの「その時」に備えて

          またひとつ大人になった

          小さな缶はあっという間に空っぽになった。 「2週間お世話になりました」と別れ際に渡された小さな焼き菓子の缶。 沢山の人の授業をみて欲しかったから、学年や教科を問わずお願いして教育実習生の参観をさせてもらった。 そんな人達に配ったら、わたしの手元には空き缶だけが残った。 あーあ。 とは思ったけど大人なので口には出さず、缶だけもらうことにした。家に持って帰ったら子どもが使うだろう。 *** 「こんなによくして頂いたので嘘はつきたくなくて…」 と切り出されたとき、わたしの手に

          またひとつ大人になった