偏差値以外の視点で受験大学を吟味しよう:研究が活発な経済学部はどこか

 この記事では、経済学系の学部を持つ大学を学部単位で比較します。評価軸となるのは、所属研究者の科研費の獲得件数です。研究が活発な大学であれば、所属教員の科研費獲得数も比例的に多くなりますから、そこから「研究力」「研究活発度」を推し量ることができます。

 世の中に良く出回っている科研費獲得件数や金額のランキングでは、大学全体のことしか分からない、あるいは経済・経営分野というやや広い分野区分でしか分からないという不満点があります。そこで、科研費データベースを用いて、さらに細かく学問分野を経済学に限り、さらに学部別に比較してみました(2018~2024年度に限る。かつ執筆時点のデータ)。

 ただし、そうすると内部機構が複雑な大学だと教員の所属先も複雑になりますので、集計に困難が生じます。したがって機構が複雑な大学は除きました(ただし一部は末尾に参考値として件数を掲載)。

 経済学に関連する学部を持つ国公立大学はかなり網羅的に掲載しましたが、私立大学は学力上位大学に絞りました。その際、私立大学の掲載基準は、関東・関西・愛知県の大学は河合塾の偏差値で45以上、それ以外はベネッセの偏差値で48以上を目安にしました。関東・関西・愛知県の方が厳しい基準なのは、そうしないと数が多すぎて見にくくなるからです。
(周知の通り、各予備校の作成した偏差値の数値は、データの元となった模試の受験者層に左右されます。河合塾の模試は受験者が都会の高学力者に偏っているのでベネッセに比べて偏差値が低くなります。ベネッセの進研模試は幅広い高校生が受験するので偏差値50の水準が高校生の真の平均にかなり近いといえます)

 国公立大学については、ベネッセの大学検索サイトで経済学分野に該当する大学にしました。そのため、経済学部以外の学部(必ずしも経済学がメインではないが少しは学べる学部)も含まれます。

 なお、日本の大学のほぼすべての「商学部」では原則的に経済学を深く学べませんが、その例外である小樽商科大学・慶應義塾大学・明治大学・早稲田大学の商学部はリストに含めました。慶應義塾・明治・早稲田の商学部は経済学部(政治経済学部)とは別途集計し、(※)マークを付けています。青山学院大学でも経済学部とは別に国際政治経済学部を集計して(※)マークを付けています。

【表示の形式】
・件数として記載する数値は、科研費の審査区分が小区分で審査される研究種目(基盤研究(B)・基盤研究(C)・若手研究など)をカウントした数値(経済学分野に限定)
・それ以外のより大型の科研費(審査区分が中区分以上)の研究代表者となっている場合は、それとは別に件数を並記(意味は下記の通り)

[特]特別推進研究:3~5年間(真に必要な場合は最長7年間)2億円以上5億円まで(真に必要な場合は5億円を超える応募も可能)…経済学分野では1件のみ採択されている
[S]基盤研究(S):研究期間は原則として5年間、研究費の申請総額は5,000万円以上2億円以下…経済学分野では少なくとも10件ほど採択
[A]基盤研究(A):3~5年間 2,000万円以上 5,000万円以下
[国B]国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
[海]国際共同研究加速基金(海外連携研究):期間3~6年間 2,000万円以下
[萌]挑戦的研究(萌芽):2~3年間 500万円以下
[開]挑戦的研究(開拓):3~6年間 500万円以上 2,000万円以下

※基盤研究(A)から挑戦的研究(萌芽)にかけてのカウントには、分野区分が粗いために経営学・商学・会計学・観光学分野の研究プロジェクトが除外されず含まれているケースがありますので留意してください。


関東

早稲田大学 政治経済学術院(≒政治経済学部):64件+(A×6、国B×3、萌×3、開×2)
慶應義塾大学 経済学部:61件+(S、A×4、国B、萌×3、開)
[公立]東京都立大学 経営学研究科(≒経済経営学部):35件
日本大学 経済学部:25件+(A)
法政大学 経済学部:25件+(萌)
早稲田大学 商学術院(≒商学部)(※):23件+(A×6、萌×10)
明治学院大学 経済学部:21件+(萌)
中央大学 経済学部:20件+(A、萌)
青山学院大学 経済学部:19件
明治大学 商学部(※):19件
立教大学 経済学部:19件
慶應義塾大学 商学部(※):18件+(、萌、開)
[国立]千葉大学 社会科学研究院(≒法政経学部):18件+(国B)
専修大学 経済学部:18件
成蹊大学 経済学部:16件+(海)
武蔵大学 経済学部:16件+(A)
上智大学 経済学部:15件+(国B)
学習院大学 経済学部:14件+(国B、海、萌×2)
東洋大学 経済学部:14件
神奈川大学 経済学部:13件
東京経済大学 経済学部:9件
[公立]横浜市立大学 国際商学部:8件+(萌)
成城大学 経済学部:8件
獨協大学 経済学部:8件
青山学院大学 国際政治経済学部(※):7件
駒澤大学 経済学部:7件
[公立]高崎経済大学 経済学部:7件
東海大学 政治経済学部:7件
明治大学 政治経済学部:7件
立正大学 経済学部:7件
武蔵野大学 経済学部:5件+(A、萌)
二松學舍大學 国際政治経済学部:5件
千葉商科大学 商経学部:3件
国士館大学 政経学部:2件
[国立]茨城大学 人文社会科学部:1件 (▲)

関西

関西大学 経済学部:31件
京都産業大学 経済学部:31件
[公立]大坂公立大学 経済学研究科(≒経済学部):30件+(萌)
関西学院大学 経済学部:30件
立命館大学 経済学部:29件+(萌×2)
近畿大学 経済学部:23件+(萌)
大阪経済大学 経済学部:20件
龍谷大学 経済学部:16件
甲南大学 経済学部:13件
同志社大学 経済学部:13件
[公立]兵庫県立大学 国際商経学部(社会科学研究科):13件
[国立]滋賀大学 経済学部(経済学系):8件+(萌×2)
追手門学院大学 経済学部:5件
[国立]和歌山大学 経済学部:4件+(萌)
摂南大学 経済学部:4件
[公立]京都府立大学 公共政策学部:1件 (▲)
大和大学 政治経済学部:1件 (▲)

中部

[国立]名古屋大学 経済学部(経済学研究科):28件+(A、国B、萌×3)
[公立]名古屋市立大学 経済学部(経済学研究科):27件
南山大学 経済学部:20件
[国立]金沢大学 経済学経営学系(≒経済学域):17件+(萌×2)
中京大学 経済学部:10件
[公立]福井県立大学 経済学部:7件+(萌)
愛知学院大学 経済学部:5件
[国立]静岡大学 人文社会科学部:5件
愛知大学 経済学部:4件
[公立]新潟県立大学 国際経済学部:4件
名城大学 経済学部:4件
[国立]三重大学 人文学部:2件 (▲)
[公立]長野県立大学 グローバルマネジメント学部:0件 (△)

中国・四国・九州

[国立]九州大学 経済学研究院(≒経済学部):23件+(A、国B)
[国立]長崎大学 経済学部:10件 (★)
[公立]高知工科大学 経済・マネジメント学群:9件+(国B) (★)
福岡大学 経済学部:9件
西南学院大学 経済学部:8件
九州産業大学 経済学部:6件+(国B)
[国立]大分大学 経済学部:6件
岡山商科大学 経済学部:6件
[国立]香川大学 経済学部:6件
[国立]高知大学 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門(≒人文社会科学部):6件
[公立]下関市立大学 経済学部(経済学研究科):6件
広島修道大学 経済科学部:6件
[国立]佐賀大学 経済学部:5件
[国立]山口大学 経済学部:5件
松山大学 経済学部:4件+(萌)
[公立]北九州市立大学 経済学部:4件
[国立]愛媛大学  法文学部:3件+(国B、萌) (△) ←5件すべて同一人物
[国立]島根大学 学術研究院人文社会科学系(≒法文学部):3件
[公立]周南公立大学 経済経営学部(経済学部):3件
熊本学園大学 経済学部:2件
[公立]福岡女子大学 国際文理学部:2件 (△)
[国立]琉球大学 国際地域創造学部:2件 (▲)
[公立]尾道市立大学 経済情報学部:1件
[国立]鹿児島大学 法文教育学域法文学系(≒法文学部):1件 (▲)
久留米大学 経済学部:1件
[公立]長崎県立大学 地域創造学部:1件
[公立]島根県立大学 地域政策学部:0件

北海道・東北

[国立]東北大学 経済学研究科(≒経済学部):36件+(萌)
[国立]北海道大学 経済学研究院(≒経済学部):23件+(国B)
[国立]小樽商科大学 商学部:16件+(海)
東北学院大学 経済学部:11件
[国立]山形大学 人文社会科学部:8件
[国立]弘前大学 人文社会科学部:6件
[国立]福島大学 経済経営学類:4件
札幌学院大学 経済経営学部:3件
北星学園大学 経済学部:3件
北海学園大学 経済学部:3件
[国立]岩手大学 人文社会科学部:1件 (△)
[公立]釧路公立大学 経済学部:1件
[公立]青森公立大学 経営経済学部:0件
[公立]旭川市立大学 経済学部:0件 (▲)

参考値(学部として集計困難)

[国立]横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院:38件+(国B、萌×3)
[国立]広島大学 人間社会科学研究科(社):21件+(萌×2)
[国立]岡山大学 社会文化科学学域:21件
[国立]信州大学 学術研究院社会科学系(経法学部):19件
[国立]埼玉大学 人文社会科学研究科:15件+(国B、萌)
[国立]富山大学 学術研究部社会科学系:15件 (★)
[国立]筑波大学 人文社会系:14件+(開) (△)
[国立]新潟大学 人文社会科学系:9件

その他の集計が困難であった大学:東京大学・京都大学・大阪大学・一橋大学・神戸大学


【コメント】
・科研費獲得件数は、所属研究者の人数にも左右されますが、学部の教員規模という要素を加味しても差が付きすぎている大学があることが分かります。もし受験生が入試難易度が同等でカリキュラム(開講科目)も似たり寄ったりである複数の大学で迷っているならば、こうした研究実態も比較要素に含めるべきです。教員がより研究に打ち込めていると学生が得るものも大きいでしょう。

(▲)は、偏差値は高いにもかかわらず科研費獲得実績が伴っていない大学です。また(△)は経済学以外がメインとなる学部であり経済学の専門的な学科等を持たない大学です。これらの大学では教員の陣容への過度な期待は禁物。経済学をよりアカデミックに学びたいのであれば、経済的・地理的制約などのご家庭の事情が許す限り、同等の偏差値の他の大学を選ぶことを個人的には推奨します。

・(★)は、河合塾の2025年度入試難易予想ランキングで大学入学共通テスト得点率が6割未満である一方、科研費獲得件数が10件以上と研究は活発である国公立大学、つまり入りやすいのに教員の質は良い「穴場」国公立大学です(高知工科大・富山大・長崎大)。もっと受験生や高校教育関係者に評価されても良いと思います。もっとも、富山大と高知工科大は経済学史の授業が見当たらないことに不満は残りますが。

・受験産業が作った造語であるGMARCHや日東駒専、関関同立や産近甲龍などの括り(世間が刷り込まれている序列)は、大学の研究の活発度にはあまり当てはまっていないなという印象です。科研費の件数で分類すると、例えば関西では関関立・近経・龍甲になりますし、関東だともはや元の呼び名をとどめられません。他の地方の私立大学では、中部だと南山大学・中京大学が1・2番手として盤石で他大は3番手争いに陥っている構図、東北以北では東北学院大学の一強という状況で、南山・中京・東北学院とその他の私大との間には偏差値以上の隔絶があります。一方、中国以西では福岡大学と西南学院大学の2強ですが、僅差で九州産業大学・岡山商科大学・広島修道大学が続いており、偏差値の差ほどの開きはありません。なお、関東以外の地域の有力私大であるこれらの大学は平均的な国公立大学より高い研究パフォーマンスを示します。関東の有力私立大学は言わずもがなです。

・明治大学では政治経済学部よりも商学部の方の件数が2倍以上多いことが純粋な驚きでした。早稲田大学商学術院や慶應義塾大学商学部も並みの経済学部よりも件数が多く、慶應義塾の方は大型科研費も獲得しています。これらの大学の商学部では経済学の教員が充実している証でもあるでしょう。

・「特別推進研究」「基盤研究(S)」「基盤研究(A)」といった大型の研究費を獲得している研究者は、経済学研究における国内のキーパーソンと認識してよいでしょう。

・国公立大学の多分野混成型の学部は、1つ1つの分野の教員は少数でも学部学科の教員数要件は満たせてしまうため、経済学の専門教員が他の大学よりも少なくなりやすく、科研費獲得実績を抑制する要因になっています。

・また、下記の記事で紹介した通り、実力ある教員が国公立大学を嫌って有力私立大学へ移籍していることも、国公立大学(特に非大都市圏の国公立大学)の研究力の抑制要因になっていると考えられます。
国立大学信仰は今や迷信?:大学関係者のつぶやきに見る国立大学の現在地|正力綾士 (note.com)


(データ出典リンク)※DBが更新されると上記の数値と合致しなくなります
件数のデータ
・特別推進研究
KAKEN — 研究課題をさがす | 研究種目: 特別推進研究 AND 開始年度: 2018 TO * AND 経済学 (nii.ac.jp)
・基盤S
KAKEN — 研究課題をさがす | 研究種目: 基盤研究(S) AND 開始年度: 2018 TO * AND 経済学 (nii.ac.jp)
KAKEN — 研究課題をさがす | 審査区分/研究分野: [審査区分:審査区分]大区分A AND 開始年度: 2018 TO * (nii.ac.jp)
・中区分
KAKEN — 研究課題をさがす | 審査区分/研究分野: [審査区分:審査区分]中区分7:経済学、経営学およびその関連分野 AND 開始年度: 2018 TO * (nii.ac.jp)