【夜間中学へようこそ】を読めばわかる勉強の意義とおもしろさ
あなたは、
🍓「なんで勉強しないといけないの?」
…と、生徒や我が子に聞かれたら、ちゃんと答えられますか?
今日は、この問いへの答えを考えるヒントとなる1冊をご紹介します。
『夜間中学へようこそ』(山本悦子さん著、岩崎書店)児童文学。
☆夜間中学とは?
夜間中学とは、公立の中学校の夜間学級のことをいいます。
現在、10都府県に34校が設置されています。うち8校が東京都にあります。
ただその分布には、かなり偏りがあるようです。
夜間中学に通学するのは、主に次のような方々です。
🍑戦後の混乱期に、十分に義務教育を受けられなかった高齢者
🍑不登校などの理由で、形式的には卒業したが学び直しを希望する方
🍑十分な教育を受ける機会のないまま日本にやってきた外国人の方
本書『夜間中学へようこそ』の登場人物たちも、まさに上に挙げたようなタイプの方々です。
☆見どころ
「わたしも4月から学校だから」ある日突然、おばあちゃんが宣言します。
孫で中学1年生の優菜(ゆうな)は、ひょんなことから、ともに夜間中学へ通うことになり、知らない世界へ足を踏み入れます。それは、かけがえのない日々の始まりでした。
おばあちゃんのクラスは、おばあちゃんを含めたった4人しかいません。
🍑おばあちゃんのように、戦争経験者であるおじいさんの「松本さん」。
🍑17歳のかわいい女の子「ミオちゃん」。
🍑何かと悪態をつく16歳の男の子「和馬くん」。
🍑そしておばあちゃん。
他のクラスには、いろいろなタイプの外国人がたくさんいます。
みんな、それぞれの事情を抱えて、夜間中学へ来ています。
本書の特徴の一つは、現役中学生の目線で夜間中学が語られるところです。
例えば、優菜の通う昼間の中学では、授業中の集中力がイマイチで、
授業中に手紙が回ってきたり、こっそり携帯をいじったりしている生徒がたくさんいます。
それを当たり前だと思っていた優菜が、夜間中学で、生徒のみんなが熱心に授業に取り組む姿を見てとてもびっくりするシーンがあります。なかなか問題提起と示唆に富む印象的な場面です。
☆戦争について
本書は、戦争の悲惨さについても多くを教えてくれます。
少し長くなりますが、おばあちゃんがなぜ子ども時代に学校に通えなかったのかを孫の優菜に語る場面を引用します。
(引用開始)
「家が貧しくて、働いてる子どもだっていた。子どもも働き手だったんだ。働かなきゃ食べていけない時代だったんだよ」
(※中略)
「戦争が終わったからっていって、1年や2年で元どおりになるなんてことはなかったんだよ。死んじゃった人は帰ってこないしね。父親は戦争に行って、そのまま帰って来なかったんだ。ゆうなは知らないと思うけど、あたしにはふたつ下の弟がいてね。母親がひとりで、あたしたちと体の悪いおばあさんをみてくれたんだよ。母親が働きに行っている間、洗濯したり、ごはんを炊いたり、弟のお守りをしたり、おばあさんの世話をしたりするのは、あたしの役目だったんだ」
(※中略。おばあちゃんが当時5歳だったことが語られる。)
「ごはんひとつ炊くのも、今とは比べものにならないくらい手間がかかったんだよ。うちは貧しくてガスなんてなかったからさ、木で炊くんだよ。かまどでね。ごはんを炊いて、お汁を作って」
(※中略)
「洗濯でもなんでも、機械なんてないからさ、みんな手洗いで。冬はつらかったよ。弟はぐずぐず泣いてばかりだし。ちょっとでも時間があるときは、くず拾いをしたんだ。釘とかネジとかを拾って『くず屋さん』に持って行くと、お金をくれるんだ。農家に手伝いにも行った。農家には、わたしと同じように学校に行かないで働いている子が何人もいたよ」
(※中略)
「あたしはね、学校に行くより、弟の世話をしたり、ごはんを作ったりしてるほうがよかったんだよ。合間を見て働くこともつらくなかった。自分が家族を支えていると思うと、うれしいくらいだった。ずっと、そう思ってた。でもね、あるとき、ごはんを炊きながら、炎を見てたんだ。めらめら薪が燃える様子をさ。そしたら、急に涙がぽろぽろ落ちてきてさ。気がついたらおいおい泣いてた。あのとき、なんで泣いたのか自分でもわからなかったけど、もしかしたら、胸の奥のほうではつらかったのかもしれないねえ」
(引用終わり)
いかがでしょうか。涙なしには読めないと思います。
ちなみに私が本書を知ったきっかけは、家庭教師の関係で、和光中学が入試でこの部分を出題していたのを見たことでした。
さすがは和光、良い目のつけどころです。
戦争は、決して美化して描いてはならぬものです。
本書に出てくるおばあちゃんのように、戦後の混乱期で十分な教育を受けられず、小学校で学習する漢字を読んだり書いたりできない、というご高齢の方は実はとても多いのです。
また、これからの日本は多文化・多民族な国家となることは不可避でしょうから、ヘイトやレイシズムは撲滅される必要があります。そのためには、さまざまなオリジン(起源)を持った人々が共に学べる場である、夜間中学(や夜間定時制高校)の重要性はどんどん増していくことは間違いないでしょう。
☆おわりに 勉強は受験のためにのみするものかは。
※徒然草からの借用です。~かは、は反語で「いやそうではない」の意。
日本人は勉強を以下のように捉えがちですが、完全に間違っていると思います。
✅嫌なもの。できればやりたくない、つまらないもの。
✅歯を食いしばって、苦しみに耐えながらやるところに価値がある。
✅人と競うためのもの。テストや受験のためにやるもの。
酷い教師になると、例えば忘れ物をした罰として漢字や計算のプリントを課したりしています。勉強は罰としてやらされるものではなく、楽しくて自らやりたくなるものです。
試験に出ることには興味を持つけどそうでないことには興味を持たない、という方も散見されますが、そのような態度は結局は試験対策としてもマイナスに作用します。
『夜間中学へようこそ』を読めば、ヒトはなぜ勉強をするのか、勉強の意義とおもしろさをとてもよく理解することができます。
勉強は入試やテストのためにやるものではありません。生活や恋愛に役立って、人生が潤って幸福度が増してこそ勉強です。受験生も先生方も保護者の方も、そのことを決して忘れないでください。
Passing the exam is not an end itself but just a means to an end.
(テストに合格することはそれ自体が目的ではなく、目的のための手段に過ぎない。)
長らく家庭教師をしてきた私がつくづく思うことがあります。
私は、子どもには「勉強しろ」と言いながら自分は内容をまったくわかっていないという大人は大嫌いです😝我が子や地域の子ども達と勉強のことについて語り合えるように、大人自身がまず勉強を楽しむ必要があると痛感します。
知性や学術が軽視、いえ、軽視を通り越して蔑視されがちな今の日本。こういうときだからこそ、本書を読んで勉強の意義とおもしろさをみんなで実感できたらステキな世の中になると思いました。
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