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今こそ学びたい【刑事訴訟法】伊藤詩織さんの置かれた状況を正しく理解しよう!

※この記事は内容部分は無料で全部読めます。

ネット上で「伊藤詩織さんが書類送検」と報道され、ネトウヨが歓喜しているようです。この機会に刑事訴訟法について、一般の方も知っておきたい程度のことをできるだけわかりやすく解説します。

私は元司法書士で、実際に告訴状や告発状も作成した経験がもちろんあります。刑事訴訟法は司法試験でも受けない限りなかなか学ぶ機会がないのですが、ある程度は常識として知っておいたほうがよい法律です。では始めます。

☆伊藤詩織さんが告訴された?

ネット番組やFacebookの書き込みなどを総合的俯瞰的に判断すると、どうやら元TBS記者で同局元ワシントン支局長の山口敬之が、伊藤詩織さんを虚偽告訴罪(刑法172条)、及び名誉毀損罪(刑法230条)で告訴し、告訴状が受理されたようです。いわゆる「書類送検」されたということです。そこで、このことをどう捉えるべきかについて説明していきます。

☆告訴・告発とは?

告訴も告発も、検察官及び司法警察員に対して犯罪事実を申告し、国による処罰を求める法律行為です。

告訴と告発の違いを簡潔に書くと、犯罪の被害者本人がするのが「告訴」(刑事訴訟法230条)、そうではなく犯罪の事実に気づいた人が誰でも行えるのが「告発」(刑事訴訟法239条1項)です。

第230条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

第239条1項 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

ですから、今回の件では山口敬之は自らが伊藤詩織さんによって虚偽告訴や名誉棄損の被害を被ったと主張しているので、「告訴状」を提出したことになります。

これに対して、例えば自民党が公職選挙法に違反しているのではないかと考えた国民や市民が提出するべきは「告発状」です。

ちなみにこれらと似たものに「被害届」がありますが、被害届は単に犯罪の被害に遭ったという事実を申告するだけで、犯人を処罰してほしいという意思表示が含まれず、捜査するか否かは警察の判断となります。

以下、本件に絞って「告訴(状)」とのみ表記していきますが、誰が行えるのかが異なるだけで告発(状)でも基本的には同じことです。

☆告訴状は原則として「受理」される!

ネトウヨどもは、本件において告訴状が受理されたことを以って、いかにも虚偽告訴や名誉棄損の事実(=山口敬之の無実)が確定したかのように歓喜し、あるいはもっと悪質なものになると伊藤詩織さんのことを容疑者や犯罪者のように扱う書き込みなどがネット上にあふれていますが、まったくもって間違った認識です。

なぜならば、出された告訴状は原則として受理しなければいけないからです(刑事訴訟法242条、犯罪捜査規範63条1項)。

✅刑事訴訟法第242条 

司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。

犯罪捜査規範63条1項

司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。

ですので、単に告訴状が受理されたというだけでは、伊藤詩織さんについて何も評価することはできません。

もちろん、現実には何だかんだ理由をつけて告訴状を受理したがらず(この後ご説明するように、受理するといろいろ面倒くさいことが発生します)、なるべく受理しなくて済むように誘導しがちという事情はありますが、本来は受理されないほうが異常なのです。

☆「書類送検」とは?

報道では「書類送検」という言葉がよく使われますが、実はこれは刑事訴訟法上の正式な用語ではありません。

一般に、司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査します(刑事訴訟法189条2項)。告訴状が出された場合も「犯罪があると思料するとき」に当たるので、捜査が開始されるわけです。

ここで捜査の在り方は大きく2つに分かれます。逮捕される場合と逮捕されない場合です。一定の要件を満たす場合には逮捕されます(刑事訴訟法199条、刑事訴訟規則144条の3)。ここでは詳細は省略しますが、罪を犯したからと言って必ず逮捕されるわけではありません。ましてや、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなければ逮捕できません(裁判官が逮捕状を出しません)。

単に告訴状が出されたというだけでは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」にはなりませんから、逮捕できません。それこそ虚偽告訴かもしれませんよね。もちろん、伊藤詩織さんは逮捕されていません。

さて、逮捕してもしなくても捜査自体はなされ得ます。そして、司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、原則として速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければなりません(刑事訴訟法246条)。

そして、逮捕はせずに捜査だけが行われ、事件を刑事訴訟法246条の規定に基づいて検察官に送致することを、俗に「書類送検」というわけです。

ここまでの説明で、いわゆる書類送検は告訴状が出され受理された以上は当然になされる手続きに過ぎず、伊藤詩織さんが実際に虚偽告訴や名誉棄損をしたのかどうかという評価とは一切関係がないということをご理解ください。

☆伊藤詩織さんが有罪となる可能性は限りなくゼロ

この後、検察官が起訴すると判断し、かつ裁判所が有罪判決を出して、その判決が確定して初めて伊藤詩織さんは有罪となります(無罪推定の原則…国際人権規約B規約14条2項、憲法31条、刑事訴訟法336条など)。しかし本件では、起訴される可能性自体がかなり低いものと思われます。

山口敬之は民事訴訟で控訴しているのでまだ確定ではないものの、第一審の判決理由において

「被告(アヤ注:山口敬之)が、酩酊状態にあって意識のない原告(アヤ注:伊藤詩織さん)に対し、原告の合意のないまま本件行為に及んだ事実、及び原告が意識を回復して性行為を拒絶した後も原告の体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる。」

とはっきり事実認定されています。伊藤詩織さんが故意に虚偽告訴や名誉棄損をしたなどということはおよそ考えられないですし、検察がそのことを立証するのはまず不可能でしょう。日本の刑法では、基本的には「罪を犯す意思」(=故意)がない行為は罰しないのです(刑法38条)。伊藤詩織さんを有罪にするには、検察は虚偽告訴や名誉棄損の故意を立証できなければなりません。

☆伊藤詩織さんを「容疑者」と呼ぶのは不適切極まる

「容疑者」という言葉もマスコミが作り出した言葉で、正式な法律用語ではありません。刑事訴訟法での正式な用語は「被疑者」です。

被疑者とは「捜査の対象になっており、まだ公訴が提起されていない人」のことです(検察が起訴し公訴が提起された後は「被告人」と呼びます)。ということは、書類送検の段階でも捜査対象ではあるので刑事訴訟法では「被疑者」という言葉を用いるわけですから、その意味では伊藤詩織さんは「被疑者」ではあります。

しかし、本件において伊藤詩織さんを「容疑者」扱いすることには重大な問題点があると私は考えます。

もともと日本では刑事訴訟法の知識や「無罪推定の原則」などが国民やマスコミの間で広く知られているとは言い難く(だからこそ私は今日のnoteお休みを宣言していたにも関わらず急遽この記事を書いているのです😝)、容疑者となったり逮捕されたりした人=犯罪者、という誤った観念がまかりとおっています。このことはしばしば深刻な問題を引き起こしています。特に誤認逮捕や冤罪であった場合には、被疑者・被告人とされた人は無罪であったにも関わらず、マスコミによる名誉毀損報道や社会の誤った認識のために職を失ったり転居を余儀なくされたり、一家が離散せざるを得なくなったりするケースが多発しているのです。

このような状況下で伊藤詩織さんを容疑者と呼ぶことは、悪質極まるセカンドレイプそのものであって、性犯罪の被害者が声を上げることの著しい妨げとなってしまうでしょう。加害男性が形式的な告訴をするだけで被害女性を「容疑者」と呼ばれる状況に追い込めてしまうのですから。それでなくても杉田水脈やはすみとしこらが低劣なヘイトをまき散らしているのです。

もともと伊藤詩織さんの事件をめぐっては、山口敬之に逮捕状が発令されたにもかかわらず土壇場になって執行されなかったり、他の事件に比しても十分な証拠があるにもかかわらず山口敬之が不起訴になったりなど、かなり不可解な動きがありました。今回の書類送検騒動もそれと似たキナ臭さを感じるのは私だけでしょうか。

☆まとめ

✅山口敬之が伊藤詩織さんを告訴したのは事実。

✅告訴状が出された以上、それが受理されるのも、いわゆる「書類送検」がなされるのも当たり前の話であって、そのことだけを以って伊藤詩織さんの嫌疑が強いことにはならない。

✅伊藤詩織さんが有罪となる確率は限りなくゼロに近い。

✅法令上は伊藤詩織さんが「被疑者」の立場にいるのは間違いないが、そのことを以って彼女を「容疑者」呼ばわりすることには大きな問題がある。

✅一連の動きにより、性犯罪の被害者が声を上げることを著しく妨げられてしまうことを強く懸念する。世界的な#Me Too運動にも逆行する。

法律自体を改正しないと改善できない部分もあるにはありますが、マスコミ報道の在り方・慣習やそれに対する私たちの反応など、法令以外の部分にも問題がかなりあると感じます。そもそも日本の司法制度とそれを取り巻く環境、とりわけ性犯罪の被害女性を守る仕組みは諸外国と比して何世紀も遅れていると思います。

これを機に刑事訴訟法について正しく理解し、その上で性犯罪の被害女性を守る社会づくりについても考えていただきたくて、急遽この記事を作成しました。伊藤詩織さんのみならず、少しでも女性をエンパワメントできたならば幸甚です。

☆最後に伝えたいこと

私は、映画「新聞記者」のスペシャルゲストとして壇上に現れた伊藤詩織さんを至近距離で拝見したことがあります。

とても美しくて、聡明で、強い意志を持っていると感じさせる女性でした。

伊藤詩織さんがこれまで歩んできた道のり、そして今置かれている状況は想像を絶する苦難に満ちていることでしょう。

そもそも自分をレイプした相手の処罰と損害賠償を求めるのに、どうして実名と顔を晒して記者会見しなければいけないのか。

どうして洪水のような誹謗中傷に遭い、日本での生活ができなくなるまでに追い込まれ、イギリスに拠点を移さなければならなくなるのでしょうか。

加害男性はのうのうと日本にいられるのに、どうして被害女性が日本を出ていかなければいけないのでしょうか。どうして刑事事件の被疑者という立場に追いやられなければいけないのでしょうか。

諸外国では同意なき性行為そのものに可罰的違法性が認められるようになりつつあります。イギリス、ドイツ、スウェーデンなどでは、暴行・脅迫などの要件がなくとも、不同意の性交をした者は処罰されます。これが世界の潮流です。女性の立場にしてみれば当たり前の話であって、何か特別にわがままなお願いをしているわけではないでしょう。

日本が1日も早く世界水準に追いつくことを願って已みません。最後までお読みいただき真にありがとうございました🙇‍♀️


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