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tomekantyou1
詩)さようなら ねえちゃん
ICUで幸子ねえちゃんは
生命を維持するための装置によって呼吸をし
脈拍を維持していた
モニターに現れるリズミカルな波形が
「生きている」ことを示していた
「声をかけてあげてくださいね」という看護師に促され 「ねえちゃん、ねえちゃん、聞こえてる?眼覚まして、起きて」と声をかけて手を握って
手を握ると緑色の波形は少し数値が上がった その数値が上がると 「生」が少し浮き上がり ねえちゃんの眼が開いたりしないだろうか そんなことを思う 時々緊急を知らせるサイレンが鳴る中で
ねえちゃんは臨床検査技師として働きながら組合活動も取り組んできた 「誰か」がやらなくてはならない仕事 結局それはねえちゃんに回ってきた あれもこれも ねえちゃんは いやいややってる感じはまるでなく 組合も仕事も選挙も そんなことがいろいろと積み重なって ねえちゃんはいつも忙しかった
自分のことを後回しにしながら誰かのために動いて でも自分のことも少し気にしてもよかったかな 明るくて少しおっちょこちょいで 読書家で漫画も大好きで 歳よりもずっと若く見えて 10年前に夫が先に逝ってしまってもずっと変わらず明るくて 悩みがないのかなあと勝手に思っていた
そのねえちゃんがICUにいる
手をもう一度握る 握り返されることはないけれど 考えてみればこうやって手を握ったのは初めてだ まっすぐ生きてきたねえちゃん ねえちゃんの生はまるで「夢の中」のようだったね もしかすると人の生はこうやって終わるように設計されているのかもしれない その時まで気づかないそういうふうに
ねえちゃんはちゃんと生きた
あっちでも元気でね
さようなら ねえちゃん
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