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思い入れのある絵本とご紹介の絵本を10選取り上げる、絵本っていいですよねという記事
昨年末の話なのですが、
つぶやきの方で、このようなものを上げました
その中で頂けたご質問の中で、思い入れのある絵本を教えて欲しいという有難いものがあり、つぶやきのコメント欄でも回答しているのですが、改めてご紹介を記事のかたちでまとめたくなりました
また、フォローしている方の記事で拝見して新しく読んでみた絵本のご紹介も行っています
冊数が多めですが、よろしければご覧下さい
また、ご紹介して下さってる方の記事も引用させて頂いてるので、是非ぜひそちらもご覧ください
『ユとムとヒ』 斎藤隆介・作 滝平二郎・絵
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とても不思議な話です
はっきりと暴力や流血表現があるし、盛り込まれている教訓は難しく、世界観も異国情緒溢れすぎていて、すごい絵本です
タイトルの ユとムとヒ は、ユとムが表紙の青年二人、そしてヒは、ユとムが狙う猛獣の名前です
ユとムがヒ退治をする、というのがメインのお話なのですが、それと平行して優れた能力を持つ者の身の処し方や謙虚さについての教訓が語られているお話です…
けど、その解釈で良いのかは自信がない、とても斬新で他に似てる物語が思い浮かばない話です
そんな展開のストーリーがとても癖になるというか、躍動感が溢れている滝平二郎さんの切り絵が冴え渡っていて独特で、物語のテキストを口に出して読んでいると、より楽しく、この物語は友情がテーマなのだろう! という事が素直に感じ取れます
そして、巻末の小西正保さんの『ユとムとヒに添えて』を読むと、滝平二郎さんと斎藤隆介さんの熱い絆も共に知ることができるのです
素敵なふたりぐみの、素敵なおはなし絵本です
ところで、話は少しズレますが
滝平二郎さんの切り絵作品のLINEスタンプがあるのはご存知でしょうか
これがもう、素晴らしい傑作そろいのLINEスタンプで、絵本としては古典にあたる作品の切り絵が、すごく今どきのセリフをしゃべってくれているのが楽しい、使っても眺めても嬉しいスタンプなんです
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この、いい意味です↑や、ヒマ?が『ユとムとヒ』の本文中にあるんです
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原作ではしっかりシリアス
スタンプではとびきりコミカル!
そんな多様な楽しさもある、傑作絵本なのでした
『チリンのすず』 作・絵 やなせたかし
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アンパンマンなどの作者さんで知られる、やなせたかしさんのほのぼのとした絵本、と表紙からは見える作品ですが
描かれているのは、暴力と“報復”のお話です
暴れものの狼のウォーに、お母さんを殺されてしまった、ひとりぼっちの羊の子チリンが、仇をとるために当の狼ウォーに弟子入りをし、狼に鍛えられ育てられる、という話です
狼がチリンの慕う演技を真に受けてとても喜ぶところ
チリンが強くなるための修行にはげみ、羊とも狼ともつかない不気味な姿に変わってしまうところ
そしてついに復讐を果たした時に、狼ウォーが告げた言葉…
全編が辛くやるせない出来事ばかりで、救いは全くない話です
でもこの話が伝えているのは、何かを憎む気持ちを否定することではなく
何かを憎む気持ちを一番に生きることは、己を怪物に変えてしまうこと、復讐を果たしても、そこに残るのはひとりぼっちの怪物だけ
憎む気持ちは、大きな代償を支払わなければいけないのだと、それをする覚悟はあるのかと、訴えているのだと思うのです
ウォーといた頃の怪物のような姿のチリンは、見方によってはとても幸せそうに見えたことや、復讐を果たしたチリンがウオーを失ったことを泣いていることも、すべてが悲しくてたまらないお話です
チリンはどうすれば良かったのか?
ウォーと一緒のままでいれば良かったのか?
それとも、ウォーとは接しないまま、かよわい小さな子羊のままでいれば良かったのだろうか?
それとも復讐を果たせた事は、ある意味幸せだったと解釈するのが良いのだろうか…
本を閉じる前の巻末にある、チリンの小さな頃の姿があまりにも悲しい作品です
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『とらのゆめ』 タイガー立石 さく・え
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ぐう ぐう ぐう
とらの とらきちは
ゆめを みます
ねむい ねむい
という語りではじまる絵本です、難しいです
読み方、解釈の仕方がさっぱり分かりません
そのつかみ所のなさや、展開の前衛的でトンデモ感が強いお話に、子どもの頃は恐怖を感じていました
改めて読み返しても、やはりちょっとこわいです
でも自分で声に出して読んでいると、現実ではあり得ない状況であっても夢の中では受け入れられる時のような、面白い白昼夢を見てる時のような、不思議な心地になります
西瓜みたいな寝姿のみどり色の、とらのとらきちは、夢の中でも夢をみたりするんだろうか
そんな、夢がどこまでも続く、怖いような愉快なような、難しい絵本です
『麦撃機の飛ぶ空』 作・神林長平 挿絵・ヲバラトモコ
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SFのショートショート集ですが、さらりと読むには難しい濃密さがある作品です
神林長平さんは日本のSF作家であり、自分は滅法好きな作家さんなのですが、文体が独特でかっこ良すぎる方で、この作品でもその魅力が遺憾無く発揮されています
そして、そんなかっこいい文章だけども、絵がとてもかわいいのが何とも魅力的な本なんです
本文中の絵だけでなく、箱の絵と本体表紙の“麦撃機”のぬいぐるみの写真がめちゃくちゃかわいいです
収録されている“麦撃”はとても過酷な戦場の話ですし
“射性”はわりと性的な話ですし、好きだけど読んで読んで~とはなりにくいのですが、あと、現在は入手が難しいのですが、個人的には神林長平さんのファンブックのような気持ちで、思い入れを持っている作品です
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『にんじんばたけのパピプペポ』 かこさとし
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とっても有名な名作ですが、改めて読み返してみると凄く啓蒙思想に溢れている作品です
不思議なチカラをもつ、とっても美味しくて素敵な野菜であるにんじんを食べて、みんなハッピーだ! という話のように子どもの頃は思っていたのですが、実はにんじんは、この作中では魔法のような万能の野菜では決してないんです
子だくさんの豚の一家は頑張って、おいしいにんじんを育てられるように、まずは土地を開墾し、井戸をほり、たくさんのにんじんを生産できたらそれを販売し、困窮している方には無料で配ります
土地開墾の井戸を掘る時に出た泥や粘土を使って、暖かなにんじん色のレンガをたくさん焼き、保育園、図書館、劇場を建設して最後に余ったレンガで、自分たちのおんぼろだったおうちを立て直すのです
野生の公共事業と福利厚生の力をめちゃくちゃ発揮する、にんじんばたけの豚さん一家なんです、すごい
あと読み聞かせをする時に、この豚一家のたくさんいる子どもさんの名前を、噛まないで言えるとめっちゃ達成感あります
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バコビコブコベコボコ
パパコピピコププコペペコポポコ
ババタビビタブブタベベタボボタ
『11ぴきのねことへんなねこ』 馬場のぼる
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11ぴきのねこシリーズは、シリーズがあると知っていながら、なかなか『11ぴきのねこ』以外のタイトルが読めてないままでした
このたび『11ぴきのねこ』を読み返した上で、こちらの『へんなねこ』を読みましたが、あらためてすごくいいなあ! と感動しきりでした
まず、11ぴきのねこたちの、のぼーんとした立ち姿、はんぺんをのばして作ったようなふわふわでぽよぽよしてそうな質感、とぼけた表情に(こう言っては難ですが)ボンクラ揃いの性格、11ぴきもいるのに、それぞれで名前があったり見た目がちょっとずつ違ったりすることはなく、唯一柄が違うおやぶんも、柄が違うだけで性格に大きな違いもなく、そっくりなねこたちが、何となくつるんでるところが凄く好きです
この『へんなねこ』では、11ぴきのねこたちとは違う、変な柄のねこと出会う話で、最初はへんなねこを遠巻きに見てる11ぴきですが、なんやかんやで仲良くなります
そしてめっちゃSFな展開で終わる、癒しの物語なんです
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『街どろぼう』 Junaida
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とおいとおい国の 大きな山のてっぺんに
ひとりの巨人がくらしていました
ひとりぼっちの巨人が、さみしさに耐えかねて、ふもとの街から人間の暮らすおうちを持ってきてしまい、そのうち巨人のくらしていた山の高台は、ふもとの街とそっくり同じの、街ができあがってしまいます
しかし巨人のこころはさみしいままでした…
そんな、ひんやりとしたさみしさに溢れた物語です
表紙にもある、巨人の民家の持ち方と、どんどん運ぶ軒数がエスカレートするところは、怖くもちょっと楽しいです
家を運ぶシーンがいつも夜なのも、その夜の空気がさみしげなのも、高台の街がにぎやかに変わってゆくところも、見ごたえがあります おうちも街の人たちも、みっちみちに集まってて、そのきゅっとした絵柄が素敵です
巨人の独特のデザインも、わりと怖いのに悲しげでもあって、その巨人が最後に見上げる空がそれまでにない高く青い空で、美しくて…
巨人さんが、ちゃんと嬉しそうなラストシーンの作画がすごく美しいんです
彼の表情はあまり変わらないんですが、大きな耳の動きで、さみしくなくなった事がしっかり伝わるんです!
それが、こちらも嬉しくなる結末でした
ちなみにこの作者さんのJunaidaさんは、他の作家さんの本の表紙絵もよく手がけられてる方です
自分が分かる範囲だと、伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』などですね
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こちらからは、ご紹介記事を拝見して読んだ絵本になります
『旅館すずめや』 雨宮尚子
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こちらの絵本は、虹色のかめと花笑のさるさんの記事で拝見し読んでみた作品です
切り絵のくっきりした輪郭に、色とりどりの彩色が美しく可愛らしい、すずめの女将さんの優しく暖かなおもてなしが素敵なお宿の、冬の風景のお話です
竹林を抜けた先の旅館すずめやは、様々などうぶつが訪れる場所です
庭の生け垣、咲いた花、炭火鉢が置かれた玄関、廊下から見える松の木と灯籠が美しい庭、客室はすぐに入れるこたつが準備され、雪が降る竹林の庭の吊り灯籠が灯っていて、暖かな客室の床の間には白い椿が生けられています
客室では、すずめの女将さんの手作りの季節の練切と共に、点てられたお抹茶を楽しめます
暖かい室内で遊んでもよし、雪合戦がしたければ手編みの手袋とマフラーを貸してもらえます
お宿には、くまさんなどの冬眠をされるお客様が長逗留していて女将さんは湯たんぽを取り替えたりお布団を直してあげたりと、快適な冬眠のためのお世話をしてくれます
炉端で頂くお料理も美味しそうで、冬ならではの楽しみがつまったメニューは豊富で、泊まりたい! ぜひ泊まりたい! とバタバタしたくなる素敵さがいっぱいです
巻末には、作中に登場した可憐な和小物の解説が付いていて、漢字の勉強にもなります
和の旅館っていいもんだなあ~としみじみほのぼのする傑作絵本です
『旅館すずめや てくてく遠足日和』 雨宮尚子
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先ほどの冬の季節の旅館すずめやの物語は、旅館の屋内やお庭でのお話でしたが、秋の今作では野山に遠足に出掛けて秋の実りの収穫をして、旅館に戻ったら女将さんの秋の味覚のお料理に舌鼓を打ちつつお月見もして、たくさんの秋の趣向を凝らしたお土産も頂ける、変わらず素敵なすずめのお宿のお話です
このシリーズは現在まだ、冬と秋しか刊行されていないのですが、ぜひ夏と春の旅館すずめやさんのおもてなしも拝見してみたいです
夏は渓流釣りに川魚のお料理、縁日に花火大会、盆踊りに女将さんの手縫いの浴衣で参加できたりするのはどうでしょうか
春はやっぱりお花見にお団子、春山に山菜採り、山菜のお料理、溢れんばかりの春の花…
そんなすずめやさんも見てみたいです
『星をつるよる』 ぶん・え:キム・サングン やく:すんみ
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冒頭から、眠れなくてひとりぼっちの子が出てくるお話で、寝つき悪い人間である自分はめちゃくちゃ感情移入してしまいました
そして絵がすごい、寒々とした夜の冷たい藍色の寝室から、柔らかく光る月に引き寄せられて、まばゆく輝く星が海のように現れるシーンがすばらしいんです
まさにそのページが眩しく見える絵で、どうしてこんなに、輝いて見えるのだろう! と不思議でたまらないです
うさぎ うさぎ ってうさぎさんの回りに字が踊る漫画チックな表現も、眠れなくてひとりぼっちだった表紙のメンバーが集まる過程も、理屈を飛ばして、好き~! ってバタバタしたくなります
ラストの寝室の藍色は、暖かくてほっとする色合いで、みんなに幸せな眠りが訪れてることが分かります 良かったなあ~って幸せのため息がもれる、そんな作品です
ところで、こちらの絵本は傘籤さんのこちらの記事で拝見して読んでみた作品ですが、
こちらの記事の本題は、昔に読んでいて大好きだった、タイトルが思い出せない絵本を捜索するというものでした
そして、前述の虹色のかめと花笑のさるさんが寄せた情報が素晴らしい有力な手がかりとなって、捜索の3冊の絵本がすべて判明する! という、とても楽しく幸せな記事でした
まさに虹花さんは、絵本の安楽椅子探偵です
こちらの記事とコメントらんが好きすぎて、それこそ寝れない夜に読み返して、絵本の情報を寄せる様々な方の知見も、絵本に心当たりは無くても見つかるといいなあと祈る人も、皆さんいいなあ…とほっこりして眠りにつくことがしばしばなのです
と言うわけで、絵本の10作品のご紹介でした
ほんとに、絵本っていいもんですよね!
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