【2021年本屋大賞ノミネート作品#8】『犬がいた季節』伊吹有喜
「何か大きな目標をパンと打ち上げて、そこに向かって突き進むことと、毎日コツコツ積み上げていって、気づいたら大きな何かが実現すること。自分がどちらのタイプか考えてみて。後者なら、うちの方がおすすめだよ。そして、あなたは後者なんじゃないかな。」
就職先に迷っていた頃、現職場の人に言われた言葉だ。
たしかに私は目の前のことを必死にやっていって、気づいたら次の景色が見えている、というタイプだなと感じ、今の職場に決めた。
本書も、地道に積み上げていくことの大切さ、そしてそれは無駄にはならなくて、誰しも時間の経過とともに成長していくことを教えてくれる。
進学校の「八高」にて
進学校の「八高」に迷い込んだ犬のコーシローは、学校で飼われることになる。
生徒会や美術部の生徒からなる「コーシローの世話をする会」に見守られ、美術部の部室で暮らすこととなった。
生徒たちは3年で卒業していくけれど、コーシローは変わらず八高にいる。毎年、生徒を見守り、見送ることとなった。
最初は、勉強を頑張り名門大学に合格し、周りのことを思いやる優しさも持っているのに、自分には何もないという優花や、絵の才能を持つ早瀬。
F1グランプリに夢中になったサツキやタカヤン。被災して自身の進む道を見つめ直す奈津子。そのほかにもたくさんの八高生をコーシローは見てきた。
コーシロー目線で描かれる部分もあり、本作で表現される高校生たちの毎日に厚みが出ている。
今をもがく高校生へ
進学校が舞台であり、頭の良さや努力する才能を持ちながらも思い悩む皆がリアルだ。何かを持っていても、誰しも悩むのだ。
悩んでいた一人一人は、最終話できちんと、大人になっている。
今をもがく高校生に届いてほしい一冊。
凡庸だろうがなんだろうが、自分にあるものを信じて磨いていくしかない。