帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part1】
作:小出
「帰るたび実家が縮んでいくなあ」
しみじみと自らの家を傍観し、マサハルは言った。僕は何と言っていいか分からず黙っていた。
マサハルの家は、僕たちが中学生の頃には、家とは別に、敷地内に大きい庭とはなれがあった。しかし今は、はなれと家のあった土地は売られて別の家が建っていて、マサハルの家と呼べる区画と言えば、あの頃の庭の一画くらいの広さの、こぢんまりとした小綺麗な一軒家だけになった。コンクリートのブロックで積み上げられた玄関先だけが当時のまま残っていて、何となく違和感のある見た目だった。
「お前ん家はどんどんデカくなってくけどな」
今度は笑って、マサハルが付け加えた。
「やめてくれよ。」
やっぱり何とも言えなくて、野球部の先輩にいじられた時の高校生みたいにぎこちなく笑って僕はそう言った。たしかに僕の実家は物理的に大きくなった。
「ユリも結婚するしよぉ」
ぐーっと手を上に上げ、手に持った大袈裟な紙袋の重さで肩を伸ばしながら、マサハルは言った。居心地が悪くて、空気を変えたくなった。
「何だよお前、狙ってたのか?」
あり得ないとわかっていて茶化した。
「ああちょっとな」
これほど見えすいた嘘はない。言ったそばから笑いが漏れている。
「お前、失礼だぞ」
言いながら僕も笑っている。
「旦那、接骨院の先生らしいな」
僕たちの手にはその2人の内祝の引き出物がぶら下がっていた。
「骨折した男を自転車で接骨院まで運んだのがきっかけか?」
「それお前じゃねえかよ」
小学4年の時、ユリと2人でマサハルの家に向かう途中、2人乗りで坂を下ってる時に転けて、僕だけが腕の骨を折った。ユリはそんな僕を後ろに乗せて、マサハルの家まで僕を運んでくれたたくましい女だ。
「まじあいつあれで無傷なのすげぇから」
「見たかったわ、転けるなら先言えや」
「先言えるか。まあでも今日でユリも生物学的に女だということが証明されたからな」
「俺はそれが昔から一番の不思議だ。なんであいつ女なんだ?」
マサハルが本当に不思議そうな表情を作るから笑いを堪えきれない。
「お前言い過ぎだ」
僕だけが笑っている。
「ユリに言うなよ」
僕が笑うのを満足そうに見てマサハルは言う。
「言うかよ」
こうやって笑うのはいつぶりだろうか。あの頃もよくこうやって、なんとなく別れが惜しくて話をきり上げられずに、いつまでもマサハルの家の前でだらだらふざけあっていた。明日も学校で顔を合わせるのにだ。きっと、あの頃は1日の終わりが、すなわち世界の終わりだった。
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【旧友】Part1は以上です!
マサハルという友人の名前は歌手の福山雅治さんからとり、ユリは、テレビドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」の石田ゆり子さんが演じた主人公の叔母の名前から取りましたが2人ともキャラクターとは全く関係ありません笑
よく男2人女1人の幼馴染で男が女を取り合うというスタイルのドラマってよくありますが、実際そういう3人の関係は男女の仲になり得るのでしょうか??
それでは次回Part2もお楽しみに!