夏の夕暮れに沈みそうな都会は、ひとびとの熱気と熱狂で茹だっているように思える。 イベント会場についた。やっとのことでついた。 隣の県まで電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、来てしまった。 身体が熱い。頭の後ろで髪の毛をシニヨンにしていたが、そのお団子から汗が落ちるのがわかった。滴る水滴で背中がしっとりと、いや、ぐっしょりと濡れている。 昼間は勤めに行っていたので、アイシングは持ち歩けなかった。駅の自販機で水を買い求めて飲み干しながらの道中で彼からメッセが入る。 「こんにちは。 も
はたして、2016年の夏。 私は何年かぶりに海沿いのイベントホールにいた。 電車を2回乗り継いで、熱線がぎらぎらと降り注ぐ都会の海辺に立っていた。 15年ぶりくらいの知人に会えるかもしれない。 しかし、確実ではない。 そんな不確かな動機付けで、陽射しの鋭さが紫外線よりも市街戦を思わせるこの街並みのなかにいる。 駅前のコンビニで水を買う。 財布の中には1,000円ほどしかない。 「…なにしに来ているんだろうか」 以前にこのイベントに参加
「で…繰り返しになるけれどね、あなた、そのヒトと寝たの?? 寝てないの??」 さっきからこの質問をなんどもなんども訊かれている。普段なら怒り出す。普段の短気な私だったら。 しかし、ここで怒るわけにはいかない。 「…寝ていません。キスすらさせていません…」 私の声が、ぼよんぼよんと、天井近くでうつろさを伴って響いているような感じがしていた。人生で初めて入った取調室は、テレビドラマのものとは違い、世間でささやかれているうわさどおり、ちいさくて窓がなかった。 目の前の机に
夏の終わりの夜。 駅の改札、別れ際に右腕をぐっとたぐられ、気がついたら私は彼の胸の中だった。その右胸に私の額はふわふわと、しかし確実に沈んでいく。 「姉ちゃん、頼む。…ずっとそばに居てくれ」 大きな身体から発された弱々しくか細い声が、私の耳元で響く。 暗くなった川沿いの街には銀の糸を束ねたような雨が降り出していた。 「孤独の最小単位はひとりでなく、ふたりだと思う」 そう言っていたのは誰だったっけ? 広くて頼りなげな腕の中で、私はぼんやりとそんな言葉を思い出していた
2017年4月、私たちふたりは区役所に婚姻届を提出した。 式も指輪もない、ごくごくシンプルな結婚だ。 お互いの両親に顔を合わせてはいる。 どこからも援助は期待していなかったし、実際籍を入れてもそのようなものはなかった。 届を出したその日にしたことは、洋食屋さんでハンバーグを食べ、曇天の下に咲く桜を観に行き、夜に交じり合った、そんなかんじ。 なんだ、昨今じゃ在り来たりなジミ婚じゃないの? と、あなたは思っているだろう。 私は「そうかもしれないし、けれどそうじゃない」と返す