桜の頃に私たちは結婚した—序文にかえて
2017年4月、私たちふたりは区役所に婚姻届を提出した。
式も指輪もない、ごくごくシンプルな結婚だ。
お互いの両親に顔を合わせてはいる。
どこからも援助は期待していなかったし、実際籍を入れてもそのようなものはなかった。
届を出したその日にしたことは、洋食屋さんでハンバーグを食べ、曇天の下に咲く桜を観に行き、夜に交じり合った、そんなかんじ。
なんだ、昨今じゃ在り来たりなジミ婚じゃないの? と、あなたは思っているだろう。
私は「そうかもしれないし、けれどそうじゃない」と返すだけだ。
私たちの恋愛はある意味異端かもしれない。けれども、誰も自分たちのことをつまびらかにしていないだけで、既にある意味当たり前かもしれない。
端的に私たちの結婚にまつわる特徴をいくつかしるす。
まず、私たちは共に40代だ。
そして初婚同士。
さらに、私たちが初めて出会ったのは1998年。その間15年以上のインターバルがあって、再会したのは2016年。ふたたび顔を合わせてからこの日を迎えるまでは、1年間もなかった。
その間に起こったことを、日記帳を繰ったり、SNSのメッセージのやりとりで見返すたびに、良くも悪くも
「これは他人に伝えても、ネタとしか思ってくれないだろうなあ…」
といったことばかりだとしか考えられない。
私たちの愛の日々のこれまでは、いろんなことが世間の規格から外れていて、インターネットに転がるアドバイスの数々とかノウハウ本とか、友人の自慢話とか愚痴とか、そんなものはあまり役には立たなかった。
この1年足らずは、私たちは必死に手足をばたばたさせて、息継ぎをする機会はすべて逃さないように気を配りながら、ぬばたまのような暗い海を泳いできたような感じでいる。そんな日々のことを綴っておこうと思う。
繰り返しになるけれど、単なる「それ、ネタでしょ?」的な書き付けに思われる可能性は承知だ。それでも、誰にとってもネタでしかない、ということはないだろう。
在り来たりではない、似たようなニッチな恋愛をしている、この世のどこかのふたりの役には立てる、と確信している。
そう信じて、いままでの記憶と記録をしるしていく。