廃棄されるモノに価値を。地域の課題を解決して、小さい経済を生み出す「マガザンキョウト」
今回は、「マガザンキョウト(MAGASINN KYOTO)」のオーナー兼編集長である岩崎達也(いわさき たつや)さんに、「中書町(ちゅうしょちょう)青果店」や「お買い物袋広告」を実施することになった背景、今後の展望などについてお伺いしました。
要らなくなった買い物袋に“価値”を乗せる
ーーマガザンキョウトが取り組んでいる事業について教えてください。
「マガザンキョウト」は、2016年にできた“泊まれる雑誌”をコンセプトに掲げる1日1組限定の宿泊施設です。宿泊以外にもイベントスペースやギャラリーでの催し、雑貨類の販売を行うなど、京都のローカルカルチャーを体感してもらえる空間になっています。
持続可能なライフスタイルを実現する取り組みとして、2020年から「お買い物袋広告」という取り組みを行っています。これは、不要になったお店やブランドの未使用のお買い物袋や包装紙を、マサガンキョウトで使わせていただくという取り組みです。
ーーマガザンキョウトで買ったものを、他店の袋に入れてもらう、ということですか?
そうですね。実は買い物袋や包装紙って、リニューアルやロゴの変更がある度に廃棄されていることが多いんですよ。僕たちオリジナルの買い物袋をつくるよりも、お店の紹介を兼ねた「広告」にもなるし、買い物袋を再利用する仕組みをつくる方が面白そうだなと思って始めてみることにしました。SNSで呼びかけて、現在は10社以上から買い物袋を提供してもらっています。
お客様からの反応は上々で、「かわいい」「良い取り組みですね」と言っていただく機会が多いです。また、買い物袋を提供してくださっている企業からも「使ってくれてありがとう」と感謝の言葉をいただいています。
フードロス野菜を地域循環させる「中書町《ちゅうしょちょう》青果店」
ーー次に、フードロス野菜を販売するプロジェクト「中書町(ちゅうしょちょう)青果店」について教えてください。
昨年スタートした「中書町(ちゅうしょちょう)青果店」では、八百屋の西喜商店から仕入れた「食品ロス野菜」を取り扱っています。規格外のものだけでなく、七草がゆセットなどイベント食や用途が限定されているもの、珍しくて使い方がわからないがゆえ売れ残ってしまう野菜や果物があります。
西喜商店店主の近藤貴馬さんとは元々知り合いで、「まだまだ新鮮でおいしいのに、捨てられてしまう野菜が多すぎる」と悩まれていたんですね。「マガザンキョウト」があるエリアは、10分以上歩かないとスーパーがないため、近所の年配の方は買い物に苦労していました。それなら、試しにマガザンキョウトの軒先で野菜を販売してみようかなと。始めてみたら、立地の割にはそれなりの売上が出るようになりました。また若いスタッフが「これは〇〇という野菜で、こうやって食べるとおいしいですよ」と会話をするようになり、近所の方たちとの接点が増えたんです。
ーー地域の課題を解決して、小さい経済を生み出しているんですね。
そうですね。今、西喜商店さんと「京都市全域にこの取り組みを広げていこうという」と話を進めています。例えば加盟店を募って、西喜商店さんが週末の配達のついでに野菜を届けたり、「副産物産店(※)」で作った「無人販売キット」を貸し出したりするなど、さまざまな面白い仕組みを考えています。
※副産物産店:アーティストの作品制作の過程で生まれる副産物を商品化したアップサイクルのブランド
「ものを大切にする心」が根付く京都でやるからこそ意味がある
ーーさまざまなプロジェクトや事業を起こしていらっしゃいますが、大事にしている価値観はありますか?
自分が面白いと思うものを、形にしてやりきることですね。例えば「このアイデアを事業にしたら、これまでにないものができそう」「地域のみんなの課題が解消しそう」と感じる中にヒントがあると思っていて。難しい問題の解き方が見つかった瞬間に似てるかもしれませんね。当社のメンバーはクリエイターが多いので、特に「誰も解けない課題」にはテンションが上がります。
ーー日本各地の事業に関わる岩崎さんから見て、京都らしい脱炭素の取り組みだと思われるものはありますか。
京都はモノを大切にする文化や精神性が根付いていますよね。私は、「裏千家」でお茶を習っているのですが、ある時に先生が500年前の茶器を「これはたまたま、うちでお預かりさせていただいているものなんですよ」といって見せてくれたんです。普通なら「アンティークの茶器を購入したんです」というような言い方になると思うんです。こういうところにも、京都の古きを大切にする精神が表れていると感じましたね。
町家もそうですよね。今、京都では1日2軒ペースで町家が消失しているそうです。町家がなくなると聞くと「もったいない」って思いませんか。この”もったいない”という気持ちが、脱炭素に取り組むうえでも大事な感情だと思っています。
“コミュニティ”という手段で世の中を良くしていきたい
ーー市民の方が気軽に脱炭素社会の実現に取り組むには、どんな工夫が必要だと思いますか。
取り組みを広げるには、推奨する・応援する・お金を出す仕組みが必要なので、まずは行政の方々の力が必要不可欠ですね。今は、脱炭素の取り組み事例も一部だけが目立っている状態なのです。面白い取り組みを行っている方々を発掘して、「これなら私でもできるかも」と思ってもらえるような事例を、世の中に届けてもらいたいなと思いますね。
ーー確かに、もっと市民の方も共感できるような身近な事例があると良いですよね。
「脱炭素をすると、これだけ地球環境が良くなる」という話だけだと、興味を持てる人は限られてくるのかなと思うんです。先ほども話したように、届けるための工夫が大切かなと。例えば、「乗用車を電気自動車(EV)に変えると、CO2がこのくらい削減できてこういう未来につながる」みたいな身近な話題を、楽しく読めるコンテンツがあっても面白いなと思いますね。
ーー今後の展望について教えてください。
コミュニティ活動を通して世の中を良くしていきたいですね。直近の目標では、喫茶店「ラグタイム」の跡地を活用してカフェにする計画を進めています。マガザンキョウトはディープな方々が集まる空間であるのに対し、新しく立ち上げるカフェは、ファミリー層が気軽に集まれる場所にしたくて。当社は多様な”人”と出会い、その人の強みや魅力を理解して、一緒に課題解決に取り組むことを大切にしています。カフェなどコミュニティを通して、出会う人の裾野を広げ、地域課題を解決して、小さな経済を生み出せる存在になれたらと思います。
関連リンク
・中書町青果店
https://magasinn.xyz/project/nishikishoten