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有給休暇の取得率を上げる!中小企業が実践すべき管理と運用のポイント

=労働基準法改正に対応しながら、社員が休みやすい環境をつくるための実践的ガイド=

有給休暇を取得しやすい職場環境をつくる!中小企業の人事担当者が知るべき運用ルールと改善策

「有給休暇を取得しにくい」と感じる中小企業は少なくありません。特に、「人手不足で休ませられない」「有給休暇の取得管理が曖昧」「社員が有給を使いたがらない」といった課題を抱える企業では、労働基準法の「年5日取得義務」への対応も難しくなりがちです。

本記事では、有給休暇の基本ルールから、取得率向上のための実践的な施策、成功事例、そして有給管理に関するよくある疑問とその解決策までを詳しく解説します。
特に、「計画的付与制度の活用」「有給休暇の取得状況の見える化」「業務の属人化を防ぐマネジメント」といった、中小企業でもすぐに取り入れられる具体策を紹介します。

また、有給休暇の消化順序についても、企業が一方的に決めることはできないという点を明確にし、「労働者の意思が最優先であること」と、実務的に最も合理的な「FIFO方式(古いものから消化)」の運用についても詳しく解説します。

中小企業の人事担当者が知っておくべき「有給休暇の管理と運用のポイント」を、法令遵守と実務のバランスを考慮しながら具体的に紹介します。
「有給休暇の取得率を上げたい」「社員が気兼ねなく休める環境をつくりたい」と考える人事担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。


第1章: 有給休暇の基本ルールを理解する


1. 有給休暇とは?—労働基準法で定められた権利

(1) 有給休暇の基本概念
有給休暇(正式名称:年次有給休暇)とは、労働者が給与を減額されることなく取得できる休暇のことです。これは労働基準法に基づいた労働者の権利であり、企業側はその取得を拒否することはできません。

企業によっては、特別休暇やリフレッシュ休暇などの独自の休暇制度を設けている場合もありますが、年次有給休暇は法律で義務付けられた最低限の休暇であるため、労使双方が正しく理解し、適切に運用することが重要です。

(2) 有給休暇の目的
有給休暇の目的は、労働者の健康維持とリフレッシュです。過重労働の防止や生産性の向上を目的とし、労働者が自由に利用できる制度となっています。
日本は有給取得率が低い傾向にあり、政府は「休みやすい職場環境の整備」を推奨しています。

(3) 企業側の責任
企業は、以下の責任を果たす必要があります。

  • 労働者に有給休暇を付与すること(労働基準法第39条)

  • 取得を妨害しないこと(パワハラや過度な業務負担による取得抑制は禁止)

  • 年5日の有給取得を義務化(2019年施行の改正労働基準法に基づく)


2. 付与要件と日数—入社6か月後から発生するルール

(1) 有給休暇の付与要件
年次有給休暇は、以下の要件を満たした労働者に対して発生します。

① 継続勤務期間が6か月以上あること

  • 入社日から6か月間、勤務が継続していることが条件となります。

② 全労働日の8割以上出勤していること

  • 6か月間の総労働日の80%以上出勤していれば、有給休暇が付与されます。

  • 例えば、週5日勤務のフルタイム労働者の場合、半年間で約120日勤務が想定され、そのうち96日以上出勤していれば要件を満たします。

  • ただし、産休・育休・病気休職などの一部の欠勤は出勤率に影響しないため、個別のケースごとに確認が必要です。


(2) 有給休暇の付与日数
年次有給休暇の付与日数は、勤務年数と労働日数によって変わります。

引用:厚生労働「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」

この表の通り、最初の付与は10日間ですが、勤続年数が増えるごとに日数が増加し、最大で年間20日まで付与されます。

(3) パート・アルバイトにも有給休暇はある
「有給休暇は正社員だけのもの」と誤解されがち
ですが、パート・アルバイトを含むすべての労働者に適用されます。
ただし、付与日数は勤務日数に応じて異なります。短時間勤務者でも適切に有給休暇を取得できるよう、管理することが重要です。


3. 時効と持ち越し—有給休暇の有効期限は2年間

(1) 有給休暇の時効
労働基準法では、有給休暇の有効期限は「2年間」と定められています。
これは、労働者が権利を行使しない場合、時効により消滅することを意味します。
例えば、2024年4月1日に付与された有給休暇は、2026年3月31日までに消化しないと消滅します。

(2) 有給休暇の持ち越しの考え方
企業によっては、
当年分の有給を使い切った後に前年度の有給を消化するルール
前年度の有給を優先的に消化するルール
を設けることがあります。

しかし、基本的に労働者の意思が優先されるため、会社が強制的に消化順を決めることはできません。
一般的な実務としては、「古い有給から消化(FIFO方式)」を推奨します。これは、消滅リスクを防ぐためです。

(3) 会社としてすべき対応
企業は、従業員が計画的に有給休暇を取得できるよう、次のような施策を講じることが重要です。

  • 有給休暇の残日数を定期的に通知する(年1~2回以上)

  • 計画的に取得するように促す(業務の繁閑に応じた有給取得推奨期間の設定)

  • 取得率を上げるための施策を導入(計画的付与制度、長期休暇の推奨など)

有給休暇の取得をスムーズに進めるためには、従業員への適切な情報提供と企業の積極的なサポートが欠かせません。


まとめ

  • 有給休暇は労働者の権利であり、企業は取得を拒否できない

  • 入社6か月後に付与され、最大20日まで増加

  • 時効は2年間で、消滅する可能性があるため計画的な取得が重要

  • 持ち越し時の消化順は「古いものから」が合理的

  • パート・アルバイトにも有給は発生する

この基本ルールを押さえておくことで、企業側も適切に有給休暇の管理ができ、労働者の働きやすい環境づくりにつながります。


第2章: 有給休暇の取得義務とは?(5日取得ルール)


1. 2019年施行の「年5日取得義務」とは

(1) 改正労働基準法により「年5日取得」が義務化

2019年4月に施行された改正労働基準法により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、企業が「年5日以上の取得」を義務付けることが明確化されました。
これにより、有給休暇の取得が少なかった企業でも、最低限5日間の取得を確保しなければならなくなりました。

対象となる労働者:

  • 年10日以上の有給休暇が付与された全ての労働者(正社員・契約社員・パート・アルバイト含む)

  • 週4日勤務でも勤続3年6か月以上の場合は対象

  • ただし、すでに5日以上取得している場合は追加の義務なし

(2) 「年5日取得」の具体的な運用ルール

企業は、以下のいずれかの方法で有給休暇の取得を確保する必要があります。

  • 従業員本人が自主的に5日以上取得(企業は管理のみ)

  • 計画的付与制度を活用して取得日を指定

  • 企業が「時季指定」して取得日を決定

(3) 「時季指定義務」とは?

従業員が5日取得していない場合、企業側が**時季指定(取得日を決定)**し、強制的に有給休暇を取得させる必要があります。

注意点:
✔ 会社は従業員の希望を考慮して指定しなければならない
✔ 業務の繁忙期を避けるなど、バランスを考えて運用
✔ 時季指定の前に、従業員へ取得状況の確認と通知を行う


引用:厚生労働「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」


2. 企業の義務—未取得時のリスク(罰則・是正勧告)

(1) 企業の管理責任
有給休暇の取得義務に関する企業の責任は、以下の2点が大きなポイントです。

  1. 「年5日以上の取得」を確保する

  2. 取得状況を記録し、適切に管理する(労働基準監督署の指導対象)

有給取得の状況は出勤簿・勤怠管理システム・年休管理簿などで正確に記録し、監督署の調査に対応できるようにしておくことが必要です。

(2) 違反した場合の罰則
企業がこの義務を怠った場合、労働基準法違反となり、罰則の対象になります。

特に中小企業では、労働基準監督署からの是正勧告を受けると、経営リスクや信用低下につながる可能性があるため、適切な管理が求められます。

(3) 適切な取得管理を行うための対応策
企業がこの義務を果たすためには、以下の対応が重要です。

  • 有給取得状況を定期的に確認し、従業員へ通知

  • 有給休暇管理簿を作成し、取得履歴を明確化

  • 5日未取得者へのアラートを社内で徹底

  • 「取得推奨日」や「休暇促進キャンペーン」の実施

  • 計画的付与制度の導入を検討


3. 取得義務を満たすための運用ポイント

(1) 計画的付与制度の活用
企業が有給休暇の取得義務を果たすために、「計画的付与制度」を導入する方法があります。

計画的付与制度とは?

  • 労使協定を締結することで、特定の日に有給休暇を取得させることができる制度

  • 5日を超える部分に関して適用可能(5日は本人の自由)

  • 例:会社一斉の「夏季休暇」「年末年始休暇」として有給を充てる

  • 事前にスケジュールを確定することで、業務への影響を最小限に抑えられる

(2) 有給休暇の取得を促進する工夫

単に「休んでください」と言うだけでは、有給取得率は上がりません。
取得を促進するための具体策を実施することが効果的です。

「有給休暇取得推奨日」の設定

  • 会社全体で推奨日を決め、取得を促す

  • 例:「毎月第3金曜日は有給取得推奨日」

業務の繁閑を考慮した休暇の奨励

  • 忙しい時期と閑散期を明確化し、閑散期に積極的に取得

有給休暇の取得状況を「見える化」

  • システムで取得状況を確認できるようにする

  • 取得率をチーム単位で管理し、上司が適切にフォロー

管理職に有給取得の重要性を啓発

  • 「部下が有給を取得しやすい雰囲気を作る」ことが管理職の役割

  • 「上司が率先して有給を取得する」ことで、部下も休みやすくなる

(3) 社内規則への反映とルール明確化
有給取得の仕組みを円滑にするために、就業規則や社内ルールに明確な指針を示すことが必要です。

  • 就業規則に「有給取得促進の方針」を明記

  • 「時季指定のルール」を明確にする(何日前までに通知するか等)

  • 計画的付与制度の活用を労使協定で決める

  • 取得しやすい環境を作るための社内通達を実施


まとめ

  • 2019年の改正労働基準法により、有給休暇の「年5日取得」が義務化

  • 対象は年10日以上の有給休暇が付与された全ての労働者

  • 取得が5日未満の従業員には、企業側が時季指定を行う必要がある

  • 未取得の場合、企業には罰則(6か月以下の懲役・30万円以下の罰金)が適用

  • 適切な取得管理を行うため、計画的付与制度の活用が有効

  • 有給取得推奨日や業務調整など、取得を促進する施策を導入

有給休暇の「5日取得義務」は、単なる法律遵守のためだけではなく、従業員の健康維持やエンゲージメント向上にもつながる重要な制度です。
中小企業の人事担当者としては、法令違反を避けるだけでなく、従業員が安心して有給を取得できる職場環境を整えることが求められます。


第3章: 有給休暇の消化順序の考え方


1. 労働者の意思が最優先

(1) 有給休暇の消化順序に関する基本ルール
有給休暇は、労働者の権利として「いつ取得するか」を自由に決めることができるため、
企業が取得の順序を一方的に決定することはできません。

労働基準法第39条では、「労働者が請求した時季に与えなければならない」と定められています。
そのため、企業が「新しい有給休暇から優先的に消化する」と強制することは、労働者の権利を制限することになり、適切ではありません。

(2) 労働者が自由に選べる
従業員が「新しい有給休暇を先に使いたい」と希望した場合、
企業はこれを拒否することはできません。
例えば、
✔ 「新年度分の有給を使いたい」
✔ 「前年の有給休暇は保存しておきたい」
という希望がある場合、それを尊重する必要があります。

(3) 企業が一方的に決めることのリスク
もし企業が「新しい有給から使う」と強制すると、
以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 古い有給が消滅する(時効2年)
    → 労働者が「古い有給を使いたかったのに使えなかった」と訴えた場合、トラブルになる。

  • 有給の管理が不透明になる
    → 取得ルールが不明確だと、従業員の不満が高まる。

  • コンプライアンス違反の可能性
    → 労働基準監督署の調査で問題になることもある。

そのため、企業側は、労働者の希望を尊重しつつ、適切に消化を促すことが求められます。


2. FIFO方式(古いものから使う)が合理的な理由

(1) FIFO方式(先入れ先出し)とは?
「FIFO(First In, First Out)」とは、先に付与されたものから順番に消化するという考え方です。
これにより、有給休暇の未消化による時効消滅を防ぐことができます。

例えば、

  • 2023年4月1日に付与された有給(期限2025年3月31日)

  • 2024年4月1日に付与された有給(期限2026年3月31日)
    がある場合、2023年分から先に取得することで、消滅を防ぐことができます。

(2) FIFO方式を採用するメリット

① 時効消滅を防ぐ
有給休暇の有効期限は2年間です。
FIFO方式を採用することで、時効で消える前に有給を計画的に消化することができます。

② 労働者にとっても有利
労働者自身も、気づかないうちに有給が消滅してしまうことを防げます。
会社が「古いものから取得することを推奨」すれば、トラブルを回避できます。

③ 企業側の管理がしやすい
有給休暇の管理簿を作成する際、古いものから消化するルールを適用すると、
計算がシンプルになり、管理が容易になるという利点があります。

(3) 実際の運用方法

従業員が取得順序を指定しない場合は「古いものから」消化する
取得状況を可視化し、消滅しそうな有給を早めに通知する
「有給休暇取得推奨期間」を設け、時効消滅を防ぐ


3. 会社が新しい有給から消化させることのリスク

(1) 労働者の権利を侵害する可能性
会社が「新しい有給休暇から消化する」と決めると、
労働者の「古い有給を先に使いたい」という意思を無視することになります。

労働基準法上、有給休暇の取得は労働者の意思が最優先されるため、
会社が一方的に消化順を決めることは労働者の権利を侵害する可能性があります。

(2) 労働基準監督署の指導対象になる可能性
もし労働者から「古い有給を使いたかったのに、新しい有給から消化された」と労基準監督署に相談があった場合、是正指導の対象になることがあります。

会社が有給消化のルールを明確にしていないと、問題が発生しやすい
労働者が納得しないまま有給を消化させると、トラブルにつながる

(3) 労働者との信頼関係の悪化
会社の有給休暇の運用が不透明だと、従業員の不信感につながります。

「会社が勝手に新しい有給から消化するルールを作っている」と思われると、
✔ 労働者のモチベーション低下
✔ 職場のエンゲージメントの低下
✔ 従業員満足度の低下
といった問題につながる可能性があります。

信頼関係を維持するためにも、会社側は「合理的なルール」を明示し、
労働者の意向を尊重する姿勢を持つことが重要です。


まとめ

  • 有給休暇の消化順は「労働者の意思が最優先」

  • 企業が「新しい有給から使う」と強制することはNG

  • FIFO方式(古いものから消化)が最も合理的(時効消滅を防ぐため)

  • 労働者が希望しない限り、新しい有給から消化させるのは避ける

  • 労働基準監督署の指導や、従業員とのトラブルを回避するためにルールを明確化する

企業としては、「労働者の意思を尊重しつつ、時効消滅を防ぐ仕組みを整える」ことが求められます。
そのため、FIFO方式を基本ルールとし、労働者が自由に選択できる仕組みを整備するのが最も適切な運用となります。


第4章: 計画的な有給取得を促すための施策

有給休暇は労働者の権利ですが、実際には「忙しくて休めない」「有給を申請しづらい」という状況が多くの企業で見られます。特に中小企業では、従業員が少なく業務の調整が難しいため、有給取得率が低くなる傾向があります。
そこで、本章では、従業員が計画的に有給休暇を取得できる環境を整える方法について解説します。


1. 取得しやすい環境づくり(業務調整、フォロー体制の構築)

(1) 有給取得を阻む要因
有給休暇が取得しにくい原因には、以下のようなものがあります。

  • 人手不足:休むと仕事が回らない

  • 業務の属人化:特定の人しかできない業務が多い

  • 職場の雰囲気:上司や同僚が休んでいないため取得しづらい

  • 有給の管理不足:取得状況を把握できていない

このような状況を改善するためには、組織として「有給が取得しやすい文化」をつくることが必要です。

(2) 業務の属人化を防ぐ
休暇取得をスムーズにするためには、「誰でも業務を対応できる体制」を整えることが重要です。

業務マニュアルの作成
→ 休んでも他の人が業務を引き継げるようにする
チーム単位での業務シェア
→ 業務の偏りをなくし、休みやすい環境を作る
システム導入で業務の効率化
→ 勤怠管理やタスク管理をデジタル化し、負担を軽減

(3) フォロー体制の整備
有給休暇取得中の業務フォロー体制を構築すること
で、「休んでも問題ない」という環境を作れます。

  • 事前に業務の引き継ぎを行う

  • 緊急時の対応ルールを決めておく

  • 休み明けにスムーズに復帰できる仕組みを作る

これにより、「休むと迷惑をかける」という心理的な負担を減らし、取得率向上につながります。


2. 取得状況の「見える化」—残日数の定期通知

(1) なぜ「見える化」が必要か?
多くの従業員は、「自分がどれだけ有給を持っているのか」を正確に把握していません。
そのため、取得率を上げるためには、有給休暇の「見える化」が重要になります。

(2) 具体的な「見える化」施策

定期的に有給残日数を通知
→ 半年に1回や四半期ごとに通知を送る
勤怠管理システムでリアルタイムに確認できるようにする
「有給休暇の取得状況」を全体的に把握し、社内に共有する

これにより、従業員が「有給休暇を使おう」と意識するきっかけを作れます。

(3) 会社がすべきこと
企業側は、以下のような対応を取ることで、有給取得率を向上させることができます。

  • 取得率が低い従業員に個別でフォロー

  • 5日取得義務に達していない場合はアラートを出す

  • 計画的に取得できるよう、業務の調整をサポートする

特に中小企業では、有給取得を管理する担当者が1人しかいないことも多いため、システムやツールを活用して管理の負担を軽減することが大切です。


3. 有給休暇の計画的付与制度の活用(就業規則への反映)

(1) 計画的付与制度とは?
計画的付与制度とは、労使協定を締結することで、有給休暇の取得日を会社側で決めることができる制度です。
特に、中小企業では「休みの分散化」「取得率向上」に有効な手段となります。

(2) 計画的付与のメリット

業務に支障をきたさないように調整できる
繁忙期と閑散期を考慮して取得時期を設定できる
従業員が取得を迷う必要がなくなる

例えば、以下のような方法で有給を取得させることが可能です。

  • 夏季休暇・年末年始休暇の一部を有給として付与

  • 会社全体で「計画的取得日」を設定

  • 繁忙期を避けた「有給取得推奨週間」を設ける

(3) 就業規則に明記するポイント
計画的付与制度を導入する場合は、就業規則に以下の内容を明記する必要があります。

  • 適用対象となる労働者

  • 計画的に取得する日数と期間

  • 労使協定の締結方法

  • 取得が難しい場合の例外対応(個別に調整可能かなど)

導入時には、従業員との合意形成をしっかり行い、納得感のある運用を目指すことが重要です。


まとめ

  • 有給休暇を取得しやすい環境を整えることが重要

    • 業務の属人化を防ぎ、フォロー体制を整える

    • 会社が積極的に「取得しやすい職場文化」を作る

  • 取得状況を「見える化」することで、取得率が向上

    • 定期的な通知や勤怠管理システムの活用が効果的

  • 計画的付与制度を活用し、取得しやすい仕組みを作る

    • 繁忙期・閑散期に応じた取得ルールを明確化

    • 就業規則に制度を反映し、ルールを明確にする

中小企業の人事担当者としては、単に「有給を取らせる」だけでなく、スムーズに取得できる環境を整えることが成功のカギとなります。
従業員が無理なく有給を取得できるよう、会社側のサポートが欠かせません。


第5章: 有給取得率を上げるための具体策と成功事例


中小企業では、有給休暇の取得率が低いことが課題になりやすいです。「忙しくて休めない」「人手不足だから休みづらい」「取得率の管理ができていない」といった問題が多く見られます。しかし、適切な対策を講じれば、有給取得率を向上させることは可能です。本章では、有給取得率の低い企業の共通点、成功事例、そして従業員満足度を高めながら取得率を上げる施策について詳しく解説します。

1. 「有給消化率が低い企業」の共通点と問題点

(1) 有給取得率の低い企業の特徴
有給休暇の取得率が低い企業には、いくつかの共通点があります。

  • 業務が属人化しており、特定の人しか対応できない仕事が多い

  • 会社の風土として、有給休暇を取得しづらい雰囲気がある

  • 有給取得のルールが不明確で、管理が適切に行われていない

  • 繁忙期と閑散期の差が激しく、取得しやすい時期が明確でない

  • 管理職が有給を取得しておらず、部下も休みにくい

(2) 有給休暇を取得しないことによる問題
有給休暇が適切に取得されないと、企業にも悪影響が出ます。

  1. 従業員のモチベーション低下

    • 長時間労働が続くことで、疲労が蓄積し、業務の効率が低下

    • メンタルヘルスの問題が発生するリスクが高まる

  2. 生産性の低下

    • 十分な休息を取れないことで、パフォーマンスが落ちる

    • 休まないことが評価される職場になると、逆に業務効率が悪化する

  3. 企業のイメージダウン

    • 有給を取得しにくい企業は「働きにくい職場」として評価される

    • 採用活動にも悪影響を及ぼし、人材確保が困難になる


2. 中小企業での成功事例—どのように取得を促進したか?

(1) 計画的付与制度の導入(製造業A社の運用例)

背景:
A社は従業員50名の製造業で、有給取得率が30%未満と低迷していた。繁忙期が決まっており、計画的な休暇取得ができていなかった。

取り組み:

  • 繁忙期を避けて「計画的付与制度」を導入(夏季休暇・年末年始休暇の一部を有給消化)

  • 「有給取得推奨日」を設定し、管理職が率先して取得

  • 有給取得の状況を定期的にフィードバックし、未取得者には個別に促す

結果:
有給取得率が30% → 65%に向上し、業務効率の改善と社員満足度の向上につながった。


(2) 取得しやすい職場風土の醸成(IT企業B社の運用例)

背景:
B社は従業員30名のIT企業。プロジェクトごとに業務が発生するため、長期の休暇取得が難しかった。

取り組み:

  • 「有給取得を促す企業文化」を作るため、管理職が率先して取得

  • 「休んだ人が評価される制度」を導入(月間MVPなどを導入)

  • プロジェクトごとに交代で有給を取得できる体制を構築

  • 有給取得率が低い社員には、業務負担を軽減するサポートを提供

結果:
有給取得率が40% → 75%に向上し、社員のエンゲージメントが高まった。


(3) 「有給取得を可視化」して意識改革(サービス業C社の事例)

背景:
C社は小売業を展開する企業で、店舗ごとの業務負担が大きく、有給取得率が低かった。

取り組み:

  • 有給取得状況を全社で「見える化」

    • デジタル掲示板で各部署の取得状況を共有

    • 取得率が低い部門には追加フォロー

  • 取得目標を設定し、達成率を公表

    • 目標達成部門にはインセンティブを提供

  • 「リフレッシュ休暇制度」を導入

    • 3連休以上の有給取得を推奨し、長期休暇の取得を促進

結果:
有給取得率が25% → 70%に改善し、社員満足度の向上と離職率の低下につながった。


3. 法改正に対応しつつ、社員満足度を高める施策

(1) 管理職が率先して有給を取得
有給取得を促進するためには、管理職が率先して休むことが最も効果的です。

✔ 「部下に休めと言いながら、自分は休まない」という状況を防ぐ
✔ 管理職が有給を取得することで、部下も安心して休める
✔ 経営層が「有給取得を奨励する」メッセージを発信


(2) 休みやすい職場文化の醸成
有給休暇が取りやすい職場文化を作ることが、長期的な改善につながります。

  • 有給取得率を会社の目標に組み込む

    • 「有給取得率80%以上を目指す」など、会社の目標として掲げる

  • 「有給取得奨励期間」を設定

    • 毎年特定の時期に、有給取得を推奨する(例:GW前後、夏季、年末)

  • 「休んでも評価が下がらない」制度を導入

    • 休暇取得率が高い社員を表彰する制度を導入


(3) 計画的付与制度の柔軟な活用
計画的付与制度を効果的に活用し、企業と従業員双方にとって有益な形で運用する。

全社的な休暇取得日を設定し、取得しやすい環境を作る
「繁忙期を避けた計画的取得」を徹底する
事前に業務の調整を行い、休暇取得のハードルを下げる


まとめ

  • 有給取得率の低い企業は、属人化や職場文化の影響が大きい

  • 有給取得の促進には「計画的付与」「見える化」「管理職の率先取得」が有効

  • 成功事例から学び、自社の環境に合った施策を導入する

  • 有給取得を企業の目標に組み込み、休みやすい職場文化を作ることが重要

中小企業でも工夫次第で有給取得率を向上させることは可能です。
本記事を参考に、貴社の有給取得制度の改善に役立ててください。


第6章: よくある疑問と実務対応のポイント(Q&A)


有給休暇に関する基本ルールや取得促進の施策について解説しましたが、実務では細かい疑問が多く発生します。
本章では、中小企業の人事担当者が直面しやすい実務的な問題や疑問をQ&A形式で解説します。


Q1: 労働者が「有給休暇を現金で買い取ってほしい」と言ってきた場合、応じることは可能か?

A: 原則として、有給休暇の買取は違法
労働基準法では、有給休暇は「休息のために取得するもの」とされており、使用者(企業)は労働者と合意しても買取することはできません

例外として認められるケース

時効で消滅する有給休暇の買取(2年経過した未消化分)
退職時の未消化有給の買取(任意での対応)

ただし、買取を推奨することは適切ではなく、計画的な取得を促すことが重要です。


Q2: 5日間の有給取得義務を満たすために、会社側が取得日を指定してもよいのか?

A: 可能。ただし、労働者の意向を考慮する必要あり
労働基準法の改正により、企業は労働者が5日間の有給休暇を取得できるよう「時季指定」を行う義務があります。

時季指定のポイント

労働者の希望を事前に確認し、取得日を調整する
繁忙期や業務への影響を考慮しつつ、取得を促す
いきなり「この日休め」と強制するのではなく、一定の猶予を持たせる

時季指定をする際は、従業員と相談の上、合理的な範囲で調整することが望ましいです。


Q3: 労働者が「有給休暇の申請をしたのに会社に却下された」と訴えてきた場合、問題になるのか?

A: 原則として会社は有給取得を拒否できない
有給休暇は労働者の権利であり、会社が自由に却下することは違法です。

「時季変更権」の適用条件

事業の正常な運営を阻害する場合のみ、別日への変更を求めることが可能(例:繁忙期に全員が同時に休む場合)
「休むと困るからダメ」という理由だけでは却下できない
変更する場合は、代替日を提案し、合理的に調整することが必要

労働基準監督署に相談されると是正勧告を受ける可能性があるため、適切な運用が求められます


Q4: 短時間勤務(パート・アルバイト)の従業員にも5日取得義務はあるのか?

A: 年10日以上の有給が付与される場合、5日取得義務あり
週3~4日勤務のパート・アルバイトでも、勤続年数に応じて有給休暇が付与されます。

具体例

  • 週4日勤務・勤続3年6か月以上の労働者 → 有給10日発生 → 5日取得義務あり

  • 週2日勤務のパート → 有給5日以下しか付与されないため、取得義務なし


Q5: 「午前だけ有給」「1時間単位で有給」は可能か?

A: 法律上は「半日単位」の取得は可能。1時間単位は労使協定が必要

半日単位の有給休暇 → 労働基準法上、会社が認めればOK
時間単位の有給休暇 → 労使協定を締結すれば可能(年間5日を超える分に適用可能)


Q6: 有給休暇の取得率が低い社員に対し、ペナルティを課すことはできるのか?

A: ペナルティは禁止だが、取得促進の施策は可能
有給休暇は労働者の権利であるため、取得しないことを理由に人事評価を下げることは違法です。
しかし、取得を促すために、以下の施策は可能です。

有給取得率を管理職の評価項目に入れる
取得率の低い社員に個別で声掛けやフォローを行う
「有給取得奨励日」を設定し、取得しやすい雰囲気を作る


Q7: 有給休暇の消化順序を決めることはできるのか?

A: 会社が一方的に決めることはできないが、「古いものから消化」が合理的
労働者の希望がない場合、古い有給(時効に近いもの)から消化するのが適切です。

FIFO方式(古いものから消化)が一般的
労働者が新しい有給を優先したい場合、その意向を尊重する


Q8: 有給休暇の取得率を向上させるために、どのような制度を導入できるか?

A: 以下の施策が効果的

計画的付与制度の活用(夏季・年末年始休暇と組み合わせる)
有給取得奨励日・推奨週間の設定
取得状況を「見える化」して、従業員の意識を向上
管理職が率先して有給を取得する文化を作る


Q9: 年度途中で入社した社員の有給はどう管理すればよいか?

A: 入社6か月後から付与。月割り計算を活用
入社時期によって、有給休暇の付与日数が異なるため、就業規則に明確に記載しておくことが重要です。

入社後6か月経過時点で、週の勤務日数に応じた有給休暇を付与
年の途中で入社した場合、付与日数を月割りで計算する企業も多い


Q10: 有給休暇の取得率を上げつつ、業務への影響を最小限に抑える方法は?

A: 事前の業務調整とチームワークが鍵

業務の属人化を防ぐため、業務の標準化を進める
休暇取得の希望を早めに聞き、計画的に調整
業務負担が集中しないよう、シフトや業務の分担を見直す

「休みやすい環境」を作ることが、企業の生産性向上にもつながります。


まとめ

本章では、有給休暇に関する具体的な疑問と実務対応のポイントを解説しました。
人事担当者としては、従業員の権利を守りつつ、企業運営に支障が出ないよう適切に管理することが求められます。
これらの知識を活用し、有給取得率向上と働きやすい職場づくりを目指してください。


記事全体のまとめ


有給休暇は、労働者にとって大切な権利であり、企業にとっても従業員の健康維持や生産性向上につながる重要な制度です。本記事では、中小企業の人事担当者向けに、有給休暇の基本ルール、5日取得義務、消化順序の考え方、取得しやすい環境づくり、具体的な成功事例、さらには実務でよくある疑問への対応策を詳しく解説しました。

2019年の労働基準法改正により、年5日の有給取得が義務化されましたが、ただ取得を推奨するだけでは実際の取得率向上にはつながりません。業務の属人化を防ぎ、計画的付与制度の活用、管理職が率先して休む文化の醸成、取得状況の「見える化」などの施策を組み合わせることが求められます。

また、有給の消化順序に関しては「労働者の意思が最優先」とされており、企業が一方的に新しい有給から消化させることは適切ではありません。時効消滅を防ぐためにも、FIFO方式(古いものから消化)を基本ルールとするのが合理的です。

企業の成長には、従業員が安心して働ける環境づくりが不可欠です。有給休暇を適切に管理し、従業員の満足度を高めることが、ひいては組織全体のパフォーマンス向上につながります。

さいごに

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
本記事が、中小企業の人事担当者の皆さまにとって、有給休暇の適切な運用や働きやすい職場づくりの一助となれば幸いです。

労働環境の整備は、従業員の満足度向上だけでなく、企業の成長にもつながる重要な取り組みです。ぜひ、貴社の人事施策にお役立てください。


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