生老病死という。 人間は生まれて年をとって病気になって死ぬだけのことなので、ほかの余計なことは考えなくてよい、という意味です。 いまどき信じているひとはいないと思うが天国も地獄もあるわけがない。 エイリアンも空飛ぶ円盤もない。 死後の世界もない。 人間はこの荒漠とした世界に生まれて、ひとりでひょろひょろと生きて、どこかでぱったりと死んでしまう。 そーゆーことだけが現実で人間の一生というもののデザインを考えると、それだけが基本設計なのだから、あとは飾りというか、余計なことだ、と
「なにを考えているか判らない」 「言動や様子から次の行動の予測がつかない」 プーチンについて書かれたものを読むと、「頭のなかが窺い知れない人だ」という言葉がよく出てくる。 その結果は、プーチンに好意的な人にしろ、「あれは悪魔だ」と考えている人にしろ、次に何をするかが判らない、という結果になっている。 2014年のウクライナ侵攻が、より大規模な今回の全面戦争の予行演習だったことも世界の目は気付かなかった。 プーチンの政治家としての原点は、ベルリンの壁崩壊時の、東ドイツ
1989年の東ベルリンで、冷え込み始めた11月の夜の街を、ひとりの若い女の物理学者が、いつものようにサウナに入った帰り途、火照った身体が初冬の大気のなかで落ち着いてゆく感覚を楽しみながら自分のアパートに向かって歩いていくところだった。 通りは、いつもの静けさと打って変わってざわめいていて、群衆が詰めかけて、口々に、なにごとか叫んでいる。 なんだろう?と訝りながら、近付いてみると、たいへんな数の、老若男女の大集団が、少しずつ、押しあいながら、もみあいながら、検問所へ向かって動い
水木しげるの初期の傑作に「しびとつき」というマンガがあるが、これは、いまではよく知られているようにゴーゴリの小説「ヴィイ」が元になっている。 大学生が田舎の町で一夜の宿を請うと、そこでは若い娘の通夜が行われていて、教会のなかで死んだ娘と朝まで過ごしてやってくれと頼まれた大学生は、夜更けに起き上がった娘の死体に追いかけ回され、娘とやってきた精霊たちから視えないように描いた魔方陣のなかで戦(おのの)いていると巨大な目の姿の土の精霊があらわれて、大学生を指さして、「ここだ、ここにい
言語には「誤用」はない、ということを何度か説明した。 「その日本語は誤っている」と述べるのは、原則として、その言明自体のほうが誤っている。 原則として、というのは、いちいち定義しながら使うわけにはいかない日常語において意味が逆になってしまったりする場合には、便宜的に、あるいは暫定的に、「その意味で使われると困る」と宣言しなければその言語社会の日常生活が混乱してしまうときで、例えば最近の日本語では 元来、「(サービスなどの対価として)オカネの支払いを課する」という意味の「課金
寛容の代わりに非寛容が、言葉の代わりに暴力が世界のルールになるのは、ほぼ確実になっている。 アメリカの大統領選でいえば、ついこのあいだまで、やや勝ち誇ってさえいた民主党のブルーの輝きが急に褪せて、完全な五分、今日(10月30日)の朝のニュースでは激戦州だけに焦点を与えると、トランプ勝利の形勢ということでした。 もっとも伯仲した状況を反映して猫の目のようにメディアの分析と予測が変わる今回の大統領選なので、正直なところは、「どっちが勝つか誰にも判らない」というところでしょう。
ギリシャは税金がないので、大変に良い国だ、という話が流行ったことがある。 もちろん、冗談だが、ただの冗談ではなくて、実際にエーゲ海の島に移住する連合王国人が続出した。 どういうことかというと、ギリシャの税務署は、たいへんな非効率で、なにしろ、誰の書類がどこにあるのか、誰にも判らない。 マジメな人…話では日本の女の人ということになっている…が、あまりに何年も税金を支払えという挨拶がないので、ついに業を煮やして、税務署まで出かけていったら、数時間ごそごそやっていて、「申し訳
まず初めに、虚言癖があるが、本当の事を言っているかどうか人間が監視している限りにおいては、まとめ上手なChatGPTさんにMMPと日本の選挙制度の違いについてまとめてもらいましょう。 ChatGPTさん、保険のクレイムとかビジネス文書とか、生活のなかで生じる「余計な仕事」を減らすのに、すごいパワーを発揮するが、それ以外でも、AIとハサミは使いようだと言われている (ChatGPTによるまとめの始まり) ニュージーランド(NZ)とドイツで採用されているMMP(Mixed-
ジャシンダ・アーダーンは、ほんとうは首相になるはずではなかった。 選挙前は、経済政策に巧みで、いまのニュージーランドの繁栄の枠組みをつくったジョン・キーの後継者、ビル・イングリッシュが次政権でも首相を継ぐ予定で、ニュージーランド人は、当時の与党国民党支持者も、ジャシンダ・アーダーンを擁立して果敢に勝ち目がまったくない選挙(と、当時はみながおもっていた)に臨んだ労働党側も、「ま、次はビル・イングリッシュだろうな」と考えていた。 今年56歳になるジョン・キーが、成功の頂点で突
6 お互いによそよそしい気持ちになりながら、それでも何事もなかったかのように、荷物を下ろして、ハグを交わして憲郎が案内されたのは、古い石造りの建物の内部をリノベーションで現代風にアパートに改築した建物で、全体の雰囲気から、家賃がずいぶん高いアパートであるのが感じられる。 正面の集合玄関には朝からそこに置きっぱなしになっているらしい新聞の束がいくつもある。 18年も経ってから、あのときとおなじアパートに泊まることになるとは、神様も奇妙な悪戯をする。 憲郎は、Airbnb
3 とんでもないことになった。 従兄弟がマンハッタンに戻れなくなった、という。 出来れば、ひとりでなんとかしてもらいたい。 どうしてもダメならケンブリッジまで来てくれればなんとかするが、自分としては折角の機会だからマンハッタンで一ヶ月を過ごしてみてはどうか、とおもう。 ノリちゃん、ひとりじゃ怖い? ひとりで知らない危ない街に放り出すのもなんだから、ついては友達を紹介してやる、という。 会いに行ってもらえまいか。 ガビン。 「ひとりじゃ怖い?」と言われると、なにがなし
浜辺のベンチに腰掛けて、キッシュをふたつに割って半分ずつ食べたら、モニが「仲の良いおじいさんとおばあさんの夫婦みたいでいいね」と笑う。 見返ったぼくはなぜモニが微笑っているのか、もう忘れていて、ただ笑顔のうつくしさに見とれている。 ボケ老人みたい。 楽しいときがあって悲しいときがあって、がんばってみたり、めげそーになったりしながらここまできた。 海岸の遊歩道を歩いてゆくひとびとは、自分が生まれてからいままでに出会ってきたひとびとのようで、自分の個人の歴史がぞろぞろ歩いて移動し
1 まったくバカげていた。 初めての空の旅で、知識がないうえに、そのころは海外に渡航する人もいまに較べると格段に少なかったので、シアトルでの乗り換えが15分しかないことの意味に気が付かなかった。 着いて見ると、シアトル空港は、国際線ターミナルと国内線ターミナルは別の建物で、 あいだを自動運転のモノレールが結んでいる。 この移動だけで15分はかかる。 おまけにセキュリティスクリーニングに30分はかかるので、乗換え時間が15分しかない航空券などナンセンスでしかなかった。
正面から民主制を否定するという大胆さで、独裁肯定者としてのトランプ=ヴァンス=マスクの三者会盟ばかり注目されているが、この3人の反民主主義カルテルにはマスキュリズム(Masculism)という大きな原動力が秘匿されている。 日本語では普及している語彙かどうか心許ないので、マスキュリズムという言葉について説明します。 マスキュリズムは、1993年に出版された The Myth of Male Power: Why Men are the Disposable Sex の著者
コーヒー、よおーし コート、よおーし 双眼鏡、よおーし モニさんが日本で見て、説明を受けて、すっかり面白がっておぼえた「指さし点呼」で、持っていくものの確認をしている。 カメラは、別に要らないよね、iPhoneで十分だろう、と簡単に一致を見て、三脚もカメラも持っていかないことになったのは、モニさんはプロも真っ青になる写真の腕前だが、最近はソーシャルメディアを初め、インターネットに氾濫する画像に食傷気味で、「写真を撮る」ということの優先順位が、ぐっと下がっている、ということも
”Is God Dead?”という有名なTimeの特集が話題になったのは、1966年のことでした。 https://en.wikipedia.org/wiki/Is_God_Dead%3F だいたいこの頃から、「神を仮定した社会では、いろいろなことをうまく説明できないのではないか?」とひとびとは考えはじめて、たとえば40年経った2006年の連合王国は、クリスチャンの国というよりは無神論者の国であると呼んだほうが良い国になります。 1907年、アメリカ経済が大崩壊の危機に瀕した