村崎柘榴

美術館巡りとゲームが趣味の北陸民。訪れた美術展の感想や食べ物の話などを書いている。

村崎柘榴

美術館巡りとゲームが趣味の北陸民。訪れた美術展の感想や食べ物の話などを書いている。

最近の記事

柳に逢うては柳を

「民藝はよく分からん!」と匙を投げるのは簡単だが、投げ出すことを許せるほど掘り下げてみた訳でもない。第一それでは進歩がない。 ところで「匙を投げる」の匙は薬匙のことであり、カレースプーンのことでは無いのだが、デザインと民藝を結ぶ匙は多分これだろうからヨシ。 さて、無印良品と民藝を繋ぐヒントは深澤直人氏の哲学にあるのでは、と思い氏の本をポチったことは前回書いた。実はその際に高木崇雄氏の『わかりやすい民藝』という本も併せて購入した。高木氏がどういう方なのかは全く存じ上げなかっ

    • 民藝 MINGEI 美は暮らしの中にある 展@富山県美術館

      民藝は昔から好きになれない。何事も理屈で考えがちで、矛盾があればそこを突きたくなる性分だからだろうか。貴族院議員の御令息が、低学歴な貧乏人の日用品になぜか興味を持ち、東大で学んだ仏教思想を援用して自分の「ゲテモノ趣味」をもっともらしく聞かせるための理屈を捏ね回しただけじゃないか、と嫌味を言いたくなる。 それなのに民藝がテーマの特別展に行くことに対して「嫌なら見るな」とか「お、ツンデレか」とか言われるかも知れないが、べ、別に民藝の事なんてぜんっぜん好きじゃないんだからね! さ

      • 大阪市立東洋陶磁美術館 ~浪速の夢~

        思えば青磁という言葉は「どうぶつの森」で知った。「せいじのつぼ」という名前で、子どもの身丈程の水色の壺が家具として登場する。それをきっかけに私は「青磁って焼き物があるんだなあ」ということを学んだ。その後しばらくして「太閤立志伝V」をプレイし、馬蝗絆や千鳥の香炉なども知った。関心があればゲームや漫画からでも学べるものはあるし、関心がなければ教科書を読んでも身につかない。などとゲーマーなりに擁護してみる。 さて本題。青磁のことは「どうぶつの森」で知ったが、青磁の美しさは「大阪市

        • 池波正太郎と寺山修司とカレーライス

          ヘッダー画像  寺山修司「街に戦場あり(13):歩兵の思想」  『アサヒグラフ1966年12月9日号』個人蔵 富山市に池波正太郎が愛したカレーライスの店がある。著名人行き付けの店をありがたがるのは趣味ではないが、食べ物に関心の強かったことで知られる池波正太郎の名前を出されてはちょっと事情が変わってくる。何年か前に富山市在住の友人からそのことを聞いて以来、何度か訪れようと試みたのだが、その店は平日の昼しかやっておらず、最近まで縁が無かった。 先日、偶々都合が付いたので食べに

          福井県の、あるいは越前松平家の思い出

          この記事を投稿したまさに今日、福井県は敦賀市まで北陸新幹線が延伸された。大阪へ行く際に30分の時短と引き換えに敦賀での乗り換えと数千円の値上げを求められるのは釈然としない面もあるが、甘んじて受け入れる他はない。 北陸三県、とは言うけれど福井を訪れた記憶はそこまでない。富山にはちょこちょこ行っているのとは対象的である。確かに富山の方が近いとは言え、所詮20~30kmの差でしかないのだから、ここまで差がつくのは我ながら少し不思議である。 福井は確か、魯山人展を見るために行った

          福井県の、あるいは越前松平家の思い出

          本阿弥光悦の大宇宙 ~見えないものを見ようとして~

          覗き込む単眼鏡を持っていない村崎柘榴です。今回は、東京国立博物館で現在好評開催中の「本阿弥光悦の大宇宙」を観覧した感想を記す。会期等の詳細については下記のリンク先を参照のこと。 同展は「本阿弥光悦」という総合芸術家(というレッテルを貼るのは不適当かもしれないが)を、所縁の品々(刀剣、扁額、経典、謡本、漆器、書、陶器など)を通して観せることをテーマにしている。錚々たる展示品はどれもが恒星のように輝いており、それはまるで本阿弥光悦という1つの銀河系を思わせるものだった。 会場

          本阿弥光悦の大宇宙 ~見えないものを見ようとして~

          古伊賀と古備前 ~2つの「破格」~

          前回のゴッホ展の際にちらっと書いた、五島美術館で開催されていた「古伊賀ー破格のやきものー」展の感想を今回は書いていく。 実を言えば、今回上京した目的はゴッホ展よりもむしろ古伊賀を見る方だった。『陶説』の特集記事で同展の情報を掴んですぐさま「これは何としても見に行かねば」と決意したものである。従って、まず古伊賀ありきで、次に梯子する美術展としてゴッホ展を選んだのである。他にも静嘉堂文庫美術館の「宋磁と清朝官窯」展や出光美術館の「青磁」展も候補だったが、時間的にも体力的にも苦し

          古伊賀と古備前 ~2つの「破格」~

          ゴッホと十万石まんじゅうとコーヒー

          「日本人って印象派が好きだよね」って言葉には、大抵の場合侮蔑の感情が含まれている。「聖書も美術史も知らない無教養な連中(笑)」あたりが本心だろう。いつだったかネットで見た何かのコラムで「フランスに行くなら鞄にプッサンの画集でも忍ばせておいて、ホテルでチラ見せしろ。扱いが変わるぞ」なんてアドバイスを見た際はスノビズムここに極まれりと思ったものだ。そりゃ教養ある大人を演じた方が得な場面もあるだろうが、それ以外の場面で人の好き嫌いにケチをつけるのは教養も大人げもない振る舞いだ。そも

          ゴッホと十万石まんじゅうとコーヒー

          御大礼とザリガニスープ

          私の記憶が確かならば、ザリガニ料理を初めて見たのは芸能人を格付けするバラエティ番組だった。確か伊勢エビのエビチリとザリガニのエビ、いやザリチリを食べ、どちらが伊勢エビかを当てるという内容で、当時は「うわぁゲテモノだぁ……」と引いた覚えがある。フランス料理ではザリガニが高級食材だと知るのは、それから何年も先の事になる。 今回は11月3日に石川県立美術館で開催された「皇室の食フォーラム」の感想を「皇居三の丸尚蔵館収蔵品展」の感想を色々書いていく。同フォーラムの講師は料理研究家の

          御大礼とザリガニスープ

          皇居三の丸尚蔵館収蔵品展/伝統工芸展 ~権威主義の時代~

          昨年の11月3日、石川県立美術館および国立工芸館で開催されていた「皇居三の丸尚蔵館収蔵品展」を観覧してきた。副題が「皇室と石川 ー麗しき美の煌めきー」であり、前田家所縁の品々や石川所縁の工芸家の作品にも重点を置いた展覧会であった。また当日は県美で料理研究家の脇先生による「皇室の食フォーラム」と題した講演会が行われたので、こちらも大変興味深く聴講してきた。ついでと言っては何だが「第70回日本伝統工芸展」も見てきた。 展示美術品リストには俵屋宗達、円山応挙、伊藤若冲、横山大観と

          皇居三の丸尚蔵館収蔵品展/伝統工芸展 ~権威主義の時代~

          無印良品のある生活

          私は無印良品が好きだ。買うのは台所用品と食べ物が中心だが。後は美術展巡りでメモを取るためのノート。背表紙が堅いので、立ったままメモを取りやすいのが気に入っている。 最近は無印でフライパンを新調した。これまで使ってたフライパンはコーティングが剥げて食材がくっつきやすくなっていたので。便利な世の中になったもので、ネットで少し調べれば色んなフライパンの情報が得られる。ル・クルーゼや取手が取れるティファールのように前々から知っていたブランドのものもあれば、初めて聞く名前の北欧のキッ

          無印良品のある生活

          樂翠亭美術館 ~White or Green〜

          地方に住んでいると、時々東京が羨ましくなる。都内の美術館で面白そうな企画展が開催されたとしても、北陸からでは「ちょっと行ってみるか」とはいかない。何せ相応の時間と金と体力を消費させられるのだから。1回の上京で得られる楽しさの最大化すべく、他に梯子したい美術館やギャラリーを探すなどしてようやく「東京さ行ぐだ」と決心するのだ。だからかがやきでの2時間ちょっとの移動中、自分が投じたリソースを思いながら「東京の人はこんな手間かけずに沢山の美術館を巡れるんだろうな」などと羨むこともある

          樂翠亭美術館 ~White or Green〜

          島根県安来市 民藝そば屋の割子そばと天ぷら

          足立美術館の話は前回で一旦終了。今回はシャトルバスで安来駅前へ戻った所から始める。美術館の話ではないけれど、たまにはそういう回があってもいいでしょう。いいよね。ダメと言われても書くがな。 さて時刻はちょうど昼飯時、井之頭五郎よろしく腹が減った私は観光案内所前で貰ったガイドとにらめっこ。私の腹は今、何腹なのか思案していると、そば屋の文字が目に入る。出雲そばといえば1000万円8件でお手軽独占、という訳でそばを食べることにしたのである。 その店の看板には『民藝そば』と書かれて

          島根県安来市 民藝そば屋の割子そばと天ぷら

          足立美術館・後編 ~器は料理の着物~

          前回は足立美術館で榊原紫峰の絵に感動したり、横山大観の富士山にげんなりしたり、テンションがジェットコースターよろしく乱高下した。今回はその続き、魯山人館のコレクションを見た感想を書いていく。 私が足立美術館を長年訪れたかった理由、それは同館が所蔵する魯山人の作品群が見たかったからである。3年前にそれらを集中的に展示する魯山人館ができて以来、その思いはコロナ禍の中で一層強くなるばかりだった。同館から取り寄せ、眺めては嘆息していた作品群をついに今日、生で見ることができる。魯山人

          足立美術館・後編 ~器は料理の着物~

          足立美術館・前編 ~紫峰と大観〜

          今年の6月頃、山陰方面に出張する機会があった。かねてより安来の足立美術館へ行きたいと思い続けてきた私はこの機を利用して数年来の夢を叶えることができた。今回はその感想を記す。 足立美術館は安来駅から結構距離があるが、幸い駅前から無料の送迎シャトルバスが出ている。これに乗り車窓の外に広がる長閑な風景を20分程眺めていると、足立美術館に到着する。周囲に数件のお土産屋とスシ・バーがある他は、一面の緑。こんな辺鄙な場所にある美術館といえば箱物行政の落し子と相場が決まってるもんだが、少

          足立美術館・前編 ~紫峰と大観〜

          織田有楽斎展 〜生きよそのままホトトギス〜

          「好きな戦国武将は誰ですか」と聞かれたら、あなたは誰の名前を挙げるだろうか? といっても大抵は興味が無いか、挙げたとしても三英傑か武田信玄、上杉謙信、伊達政宗あたりだろう。大河ドラマを見てる人なら真田信繁とか黒田官兵衛が出てくるかもしれない。それはさておき、私がそう聞かれたら蒲生氏郷と答えることにしている。 織田有楽斎じゃないんかい、と言われそうだが、残念ながら有楽斎はそこまで好きな訳ではない。勿論興味のある武将の1人ではあるが、好きかと言われれば……うん。 織田有楽斎、

          織田有楽斎展 〜生きよそのままホトトギス〜