DX の心技体【3】顧客志向で提供価値を表明すること(「ならではの価値」を提供しよう)
顧客志向の意味
【1】でDXの目的は、新たなビジネスの創造や新たなサービスを顧客に提供することで組織力・競争力を強化し、組織の生き残りと永続的な成長を図ることと言いました。
今回着目すべきは、「新たなサービスを顧客に提供すること」ということです。これが不可欠かつ非常に重要なテーマになります。
ビジネスを行うにあたって、商品やサービスをお客さまにお届けし、買ってもらう、選んでもらうことがなければビジネスは成立しません。自分がどれだけ精魂かけてつくったものでも、その素晴さを自負し絶対に後悔させないといって提供したとしても、数ある似たようなものから選んでもらえるとは限りません。
そうならないためにはお客さま側の視点に立って見ていく必要があります。単に良い製品や機能を提供するのではなく、そこに流れる生き方・スタイル・コンセプトといった思考を伝えること、共感を得られることが重要になってきます。同じように見えても、ここで違いが生まれてくるのです。
GAFAMの一角として席巻する「Amazon」は、その経営理念として「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」とし、「変わることのないお客様を起点に考える」を精神として掲げ、それを徹底していることで知られています。
カスタマーエクスペリエンスの質と利便性の向上を追求したサービスが効いているのは確かであり、Amazonの品揃えや、便利なサービスを利用する際にそれは実感できます。(最近、特にそう感じています。)
最高峰のおもてなしで知られる「リッツカールトン」も有名ですね。そうした企業では明確なプリンシプルやクレドが組織内に浸透されていることも背景にあります。※「お客様が言葉にされない願望やニーズを先読みする」ことも重要な要素です。
Apple社がオンラインや代理店販売だけでなく、アップルストアといった直にお客様とふれあえる場を設け、お客様の声や思考を吸い上げているのも、クレドが浸透しているのだと言われていますね。
※これは「No.10の組織力を上げること」に繋がります。
顧客のハート(的)を射ること
顧客志向ということは、お客さまの声を聞くだけではなく、顧客視点で考えることです。お客様にとって、何がうれしいか、本当の価値は何なのか。社会や消費者の多様性を踏まえると、助かる、便利だ、楽しい、おいしい、感動する、といった様々な思いに対し、目を凝らして、声なき声にも反応して探っていくことも必要でしょう。
お客様のハートに響く様な、心の的に届くことが必要です。そこにある的を射ることです。※ナイアガラトライアングルの冬の季節の名曲「A面で恋をして」の「ウィンクのマシンガンで、僕の胸打ちぬいてよ」的な感じでしょうか。
でも、見えている的は一つとは限りません。いくつもの的がある場合はどこを狙えばよいでしょうか。ちょうどいい感じに真ん中あたりを狙ったところで、結果としてどの的も外してしまうようなことも容易に想像できます。VUCAの時代ですので、少し斜めからなど先を見た違った角度からの狙いが功を奏するのかも知れません。一箭双雕、2枚抜きって感じでしょうか。
それにはいくつかのシナリオ・プランを練っておくことが重要です。※これは「No.7の戦略的に考えてみること」に繋がる話です。
バリュープロポジションを思考する
自身の経験の話をすると、企業へのコンサルティング提案を行う際に重要なポイントの一つが、今回の提案の「バリュープロポジション」を明確に言えているかということでした。Why?他社の提案じゃなくこちらの提案の何がお客様にとって価値あるものとして訴求できるのか、何度も自問しながらメッセージを見直したものでした。提案者の都合の良いロジックで紡ぎ上げた話だとそんな簡単にはお客様の心には届かないよ!というケースが多かったですかね。
AppleがiPhoneの開発で着目したバリュープロポジションは、「スマートフォンを単なる機能の集合体にするのではなく、美しいデザインと直感的な操作が可能なUXを兼ね備えた製品にする」ということでした。多くの機能を使いこなすことよりも、直感的に操作しやすい優れたデザイン性とスマートな使用感が、利用者の日常生活に無くてはならないもの、常に手放せないものとして、特に日本市場での吸引力になっている印象です。
バリュープロポジションを考える際には、お客様サイドの思惑と提供者サイドの思惑がマッチするかを整理することが有効です。そこを可視化するフレームワークとして、「バリュープロポジション・キャンバス」が良く使われるようです。顧客のニーズと提供価値の相関を整理でき、提供価値の機能の選定や訴求ポイントの把握に役立ちます。
顧客セグメント
顧客のしたいこと(仕事)(Customer Jobs)
顧客が嬉しいこと(メリット・恩恵)(Gain)
顧客が嫌なこと(障害・リスクや悪い結果)(Pain)
提供価値
提供する製品、サービス&特徴 (Product&Services)
提供サービスによって得られる嬉しい要因 (Gain Creators)
提供サービスによって減らすことのできる嫌な要因 (Pain Relievers)
こういったツールを使うなどして、整理するのも良いでしょう。
三方よしからエコシステムへ?
多くの企業が、WIN-WINの関係を構築して、取引の維持・拡大を図ろうとする訳ですが、そこからもう一歩踏み込んだものとして「三方よし」という経営の考え方があります。
これは、江戸時代から明治時代にかけて活躍していた近江商人が持っていた経営理念で、「売り手、買い手、世間の3つすべてにとって良い商売を心掛けるべし」という意味を持つ言葉のことです。
「売り手よし」と「買い手よし」の両立だけでなく、「世間よし」も念頭におくこと。取引をしている両人だけでなく、社会も豊かになるようなビジネスをしましょうということですね。売り手、買い手含め世間のすべてにとって利益のあるビジネスという意味では、エコシステムの創造に繋がる話です。DX が進んだ先の、SDGsでいうところの持続可能な社会で成立する仕組みにも繋がる大切な考え方として意識しておきたいと思います。
提供価値を最大化しよう
提供価値を明確に表明しましょう。そしてその実現をコミットしましょう。その活動と結果を適切にコントロールしましょう。
まずは、源泉となる自社の存在意義・ミッションに基づいて、自社の競争優位性を再定義することが有効です。企業・組織の存在意義を明確化し、社会に与える価値を示す「パーパス」を軸にして社会に貢献する取り組みも、組織の行動原理として重要な要素になります。組織活動を継続することは、その活動と成果(価値)の最適化を図っていくことでもあります。
組織活動の最適化をはかる観点の一つとして、提供価値の最大化を捉え、下図に示す4つの軸で、継続的な価値の提供ができるようにコントロールしていきたいところです。
ならではの価値とは?
これまでを振返ってみて、価値とは感動に繋がるものじゃないかと思います。良い製品やサービスを通して、感動できること・そんなシーンを生み出すこと。
有名人による特別なショーでなくても、よく見れば感動できるシーンはいくらでも垣間見ることができます。何気ない言葉、思いやり、行き届いたおもてなしなど。例えささやかであってもできること、感じることは無限大です。
そのための自分ならではの、出来ること、やりたいこと、心の声にも耳を澄まして考えてみましょう。それが、素晴らしい明日に繋がっていくのだと。※「それは旅立ちの日さ。素晴らしい現実をつかむための。」という歌を思い出しました。
今回のまとめです。
DXの意義を自分なりの言葉で定義し、その過程を通して顧客に提供する自分なりの価値を見つめましょう。他とは違う自分だけが提供できるものがあれば、それを心の支えにして胸を張って生きていけるでしょう。ワクワクする様なインスピレーションを与えられるようにしましょう。※「絶対インスピレーション」の歌詞にあるように「ハートをふいに掴まれたんだ」と言ってもらいましょう。
大事なことは、オリジナリティであり、コンセプトをよく磨き、存在価値を訴求できること。
さあ旅する中で何を手にすることができるのでしょうか。
誰も知らなかった宝が見つかることを期待して、更なる旅を続けましょう。
DXの心技体【4】~はまた以降の投稿で!
【再掲】DX推進の心技体(10選)
まずは自分なりのDXを語ること(自身の言葉で定義してみよう)
未来ビジョンに向けたJourneyとすること(ありたい形、なりたい姿を追求する)
顧客志向で提供価値を表明すること(「ならではの価値」を提供しよう)
手っ取り早くデジタル武装すること(低コスト・短期間で効果を実感できるものがあります)
Small Start で始めて、失敗と成果を積み上げて進めること(勇気を出して1歩踏みだそう)
最新技術・ソリューションをうまく活用し、新しいビジネスを作ること(デジタル技術の活用で経営課題の解決へ)
戦略的に考えてみること(シナリオ、プランを練って先を見据えて動こう)
気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)
変革・変化に対応するものを巻き込むこと(抵抗勢力に対するチェンジマネジメントも必要)
組織力を上げること(横断組織、俊敏性、爆速、Agile)