粥ご膳とカツとじ定食 「ちょっと今から人生かえてくる」北川恵海
「俺ら、いつまで働いたらいいんだろうな」
「死ぬまでだろうな」
「いつになったら給料上がんだろうな」
「定年ごろじゃね?」
夢も希望もない話だが、五十嵐と米田のこの会話に頷く世のサラリーマンは多いだろう。
人生100年時代とか、いくつになっても働ける社会とか、一億総活躍とか政治家やお役人は勝手に言うけれど、世の人間は働きたくて働いているのではなく働かないと生きて行けないから働いているのである。
営業部のエースでブラック企業でも上手く生きているように見える五十嵐。
しかしそんな彼も「必死に働いてきた。全てを犠牲にするほど仕事に打ち込んできた」のに「今の俺には、何もない」と感じ、毎日胃痛に苦しめられていた。
久しぶりに21時前に家に帰り、もう夕飯も外で済ませている事、後は風呂に入って寝るだけだという事に気付き「そうか……ラクだな」と漏らしてしまうくらいに追い詰められていた。
私も新卒で入った会社では、毎日朝6時や7時から深夜0時くらいまで職場にいたのでその気持ちはよく分かった。
12時間ほぼ休憩なしで働いたのに、そこからまた5~6時間働かないといけない。
終わりの見えない仕事に、毎日ほとほと気がめいっていた。
入社2年目にはほとんど追い詰められ、顔が「紙みたい」と言われるほど真っ白になっていた。人間の顔ってこんなに白くなるんだと思うほど白くなっていた。
だからもし、ヤマモトが五十嵐に紹介したような定食屋さんがあったらきっと通っていただろう。
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