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UFOキャッチャーの秘密

ここは南東アルプス山麓の村。
 
深夜。
屋根の上に2人の女の子。
 
「今日、来るかな?」
「今日は確率高いと思う」
 
「どうして?」
「去年もそうだったけど、
 ホタルの時期なんだよねぇ」
 
「そうだっけ?
 よく覚えてるね」
毎年楽しみにしてるから…
 
「じゃあ、間違いないね」
「そうそう始めようか?」
 
「落下防止の安全帯付けた?」
「もちろん。そうだ。
 念のためお互いもロープで、
 つないでおこう」
 
「去年みたいに暴れちゃダメだよ。
 目的は採取さいしゅなんだから」
「わかってるって。
 よし、準備はできたし…やる?」
 
「やろう!」
 
2人は立ち上がり、
虫取り網を手に取ると、
間隔を開けて、
ゆっくりゆったりと…網を振り始めた。
 
「これ地味にキツイよね」
「5分ぐらいで、1回休憩しよう」
 
「OK!」
 
2人は棒術の演舞えんぶのように、
ゆるやかに流れるように、
網をちゅうわす。
 
「よし!5分!」
「はぁ~!やっぱ疲れるね~これ」
 
「よし!確認しよう!
 ……
 ほ~ら、確認確認!」
「は~い。
 スマホの…ライト点けてぇ…
 ……ど~お?」
 
「う~ん、こっちにはいない…みたい」
「こっちも…いた!ほら!」
 
「いた?!やっぱり!
 そろそろだと思ったんだ!」
「いつも思うけど、ち~っさいね。
 こんなんよく見ないとわかんない」
 
「開けてみる?」
「どっち開ける?」
 
開けるゆずって。
 投げるの譲るから」
「いいよ」
 
「じゃあ、開けるよ」
「OK」
 
小さな銀色の物体の上部を、
指先でつまむと、
そこがふたのように外れる。
 
すると中から物体の数倍の大きさの、
丸まった紙のようなものが飛び出す。
 
「読んでみよう」
「これってパッと見ると、
 何書いてるかわからないけど、
 数秒間見つめてると、
 読める字になる
の…ほんと不思議」
 
「え~と、
 こんばんわ。エマです。
 お返事ありがとう。
 地球にもクラス替えがあるのビックリ!
 あと2人が書いてた地球の……
 ……
 ……
 この手紙が届く頃には、
 私は上の学校に進級します。
 違うエリアの子と
 仲良くできるか正直心配。
 でも少しワクワクもあります。
 また色んな話を聞かせてね。
 親愛なる 遠い星の友人へ
 エマより
 …だって」
「エマ可愛いよね。
 進級するんだ。
 こっちでいう何年生なんだろ?
 聞きたいことたくさんある!」
 
「またお返事書こう」
「OK!
 週末、また同じ時間に集合ね」
 
日曜日。
 
「書いてきたよ」
「私も書いたんだけど、
 気付いたら15枚になってた。
 これ入るよね?」
 
「大丈夫だよ。
 毎回、力作だね。
 まあ私も同じくらいだけど」
「そうなるよね。
 よし、じゃあ入れる?」
 
「うん」
 
また銀色の物体の蓋を取り、
中に2人の手紙を差し込むと、
みるみるうちに吸い込まれていく。

 
「よし、じゃあ任せた!」
「任せて!…行くよ~」
 
「ちょっと待って!」
「何?忘れ物?」
 
「ううん。
 これを投げるスピードがさ、
 もし大谷選手ぐらいなら、
 届くのも早くなるのかな?」
「どうだろ?
 投げたあとは自分で飛んでいくから、
 変わんないと思うよ」
 
「そうか!解決!」
「じゃあ、大谷選手ばりに投げるよ!
 ピッチャー振りかぶって~」
 
思いよ願いよ 飛んでいけ~!
思いよ願いよ 飛んでいけ~!
 
女の子の手から放たれた銀色の物体は、
一度、放物線を描き落下し始める。
 
しかし急に上方に角度を変え、
宇宙そらへ向かって登っていった。
 
「あれに乗って、
 エマの星へ遊びに行けたらいいのに」
「去年、試したけどお尻が、
 つっかえたじゃない。
 ダイエットするとか言ってたけど、
 せた?」
 
「無理だった…たぶん今年も無理。
 …それより今回は何書いた?」
「やっぱり学校のことや、
 エマへの質問が多かったなあ。
 あっ!でもひとつ特別なこと書いたよ
 
「何、特別なことって?」
好きな人ができたこと!
 
「それっ!私のことでしょ!
 なに勝手にバラしてんの~!」
「いいじゃない!エマなんだから」
 
宇宙規模の個人情報漏洩~
 
標高が高い場所…
この家の屋根でしか、
UFOが捕獲できないことは、
二人だけの秘密である…。


このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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