さらわれて遊星
研究室。
「どうだ、調子は?」
「先輩~!
どうもこうもないですよ!
命令だからやってますけど、
段取りって言葉を知らないんですか?!
上の奴らは!!」
「まあまあ、落ち着いて…
いつものことじゃないか」
「そうですけど…
何回言っても、
はいはいって分かったふりして、
直した試しがないじゃないですか!」
「私の方からも…
進言してるんだけどねぇ…」
「まあ、先輩に愚痴っても、
しょうがないんですけど…
ここまで来るとさすがに私も…」
「いつも、すまないね。
特別ボーナス打診しといたから…」
「あ、ありがとうございます…
でも私、お金のために、
仕事してるわけじゃないですよ」
「分かってるよ。
君の飽くなき探究心は、
これまでの功績で理解してるつもりだよ。
で、今回の研究はどうだい?」
「誰も手を付けてない分野なので、
もう戸惑うことばかりです」
「焦らなくていいよ。
まだ研究開始から2日目だろ。
ほんと我が星のお偉方には困ったものだ。
地球人友好化計画…
何の相談も前触れもなしで発表…
地球人をさらってこい…
地球人を理解しろ…
地球人と意思疎通しろって…
無茶振りもいいとこだ…」
「ほんとですよ!
言うだけただって感じがイラッとします!
実際やるのはこっちだし!
金だけ出して何もしない態度が、
ほんと、頭にきます!」
「ごめんごめん。
また興奮させちゃったね。
ところで…
連れてきた地球人の様子はどう?」
「まあ正直…
怖がってますよね」
「だろうね。
急にさらわれてきたからね」
「でも…
思っていたより、
好戦的な生物ではないようです。
私は子供の頃から…
地球人を題材にした、
アニメや映画を見てきたので、
もう少し荒っぽい生物かと思ってました。
腕が伸びたり大きくなったり…
もっと巨大な孔雀のような出で立ちで、
歌いながら目からビームを出したり…
全身金色で…
白馬にまたがり刀を振回したかと思えば、
急にサンバを踊りだすような…
そういうのが地球人なのかと…」
「私もだよ。
見た感じ…
姿形はワレワレと遜色ないようだね」
「そうなんです。
でも、大きな問題が…」
「何だい、問題って?」
「はい…実は…
言葉が全く分からないんです」
「なんだって?!
そんなに難しいのか?」
「はい…とても。
今回のプロジェクトは、
秘密裏にという話でしたよね」
「そうだ。
地球側にもバレないようにと、
人を集める場所も分散させた。
そして、この地球人の拘束期間も3日。
記憶を消した後に元の場所に戻す。
そう決まったんだ」
「そうですよね。
その分散して集めたのが問題で、
地球は場所が異なると、
使う言語も異なるようなんです」
「な、何だって!
場所によって言語が違う?!
なのに同じ星の上で、
生活できているというのか?!
信じられん!
もしかして地球人とは、
高度なコミュニケーション能力を、
有しているのではないか!?」
「それも分かりませんが、
明らかに言語ごとに、
グループができています」
「なるほど…興味深いな。
他に分かったことは?」
「実は…
この手前にいる人間の言葉を、
一部…解読できました」
「ほんとか!
でかした!
これは大きな一歩だよ!
で、それはなんて言葉だい?!」
「こんにちは…
これが彼らの挨拶のようなんです」
「コンニチワ?
それって…
我が星では…
おしっこしたい…
って、意味じゃないか。
それが地球では挨拶なのか?!」
「そうらしいんです。
そう発音すると、
嬉しそうに同じ言葉を返してきたので」
「興味深い…実に面白い!
他に…他にはないのかい!?」
「あと、もうひとつだけ…
しまった…
これは失敗した時に使う言葉のようです」
「シマッタ?
それってうちでは…
ブッチョマゲロンチョのことだぞ。
本当か?」
「はい。
あそこにいる地球人…
おはようが通じた地球人なんですが…
あの地球人が、
自分の手荷物を落とした時に、
しまった…と言ったんです。
私も最初は…
ブッチョマゲロンチョを食べさせろ!
って、言ったのかと思いました」
「だよね?!
ブッチョマゲロンチョって言ったら、
私の故郷の郷土料理だからな」
「不思議です…
知れば知るほど地球人は不思議です。
アメージングです。
お偉方は嫌いですが、
この研究に携われたことには、
感謝しています。
久しぶりに研究者魂が震えるような、
素晴らしい研究材料に巡り会えた…
そんな気分です」
「そうか…
君のことだから、
やってくれるとは思っていたが、
そう言ってくれると私も救われるよ。
いつも無理なお願いばかりしてるからね」
「いえ、先輩には感謝しかありません。
私はこの人に付いていけば、
刺激的な毎日を送れる…
そう信じて、ここまで来たんです。
そして私の勘は間違ってませんでした。
まさか地球人と…
コンタクトが取れる日が来るなんて…」
「そうだね…
来る日も来る日も研究に明け暮れ…
お互いここまで楽な道のりではなかった。
でも行った研究に…
決して無駄なこと…
余計なことなどはひとつもなかった…
私はそう思ってるよ」
「先輩…」
「まあ話はそれぐらいにして…
どれどれ。
私も地球人とコンタクトを取って、
少しでも研究に貢献しよう…
挨拶ができたというのは、
あそこにいる地球人だね…。
よし、早速…」
「あっ!
先輩!
そのまま入っては…」
プシューーー!!
「地球のみなさん…
コンニチハ。
ワレは宇宙人です。
私はこの研究所の、
主任をしている者です」
ギャーーー!
ノォーーー!
キャーーー!
イヤーーー!
ダダダダダダ!
ダダダダダダ!
「おいおい!
どうした?!
みんな、私から逃げていくぞ!
これは一体どうしたことだ?!」
「先輩!
服!!
服着て下さ~い!!
地球人に、
余計な刺激を与えないで~!!」
「ブッチョマゲロンチョ~~!!」