主人公は天才酒乱科学者!?SF小説短編集『ロボットには尻尾がない』の魅力
お久しぶりです、古河なつみです。
いつの間にか6月になっていて、驚いています。
図書館に司書として勤めていた頃は季節に合わせた展示やイベントを企画する事が多く、四季や時間の流れを意識できる仕事だったんだなぁと改めて感じました。
さて、今回は私が通勤中に読んでいてふふっと何度も笑ってしまったおかしな天才科学者が主人公のSF短編小説集を紹介したいと思います。
『ロボットには尻尾がない』〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集/ヘンリー・カットナー著/山田順子訳/竹書房
書店で並んでいるのを見かけたのですが、パッと目を惹かれる装丁が気になって手に取ると、背面のあらすじまでぐにゃぐにゃと酩酊しているかのように歪んで配置されている凝りように、ジャケ買いを決めた一冊です。
あらすじはギャロウェイ・ギャラガーという「前後不覚になるほど酔っぱらっていれば」超天才の科学者が困り事を抱えた依頼人たちからその問題を解決するための道具の発明を引き受けるのですが……ここでネックとなるのがギャラガー氏は酩酊状態の時に仕事を引き受け解決用の道具を作り出してしまうので、酔いのさめた状態のギャラガー氏は「前金を受け取った状態で」「誰から」「どんな仕事を引き受け」「どういう機能の道具を作ったのか」を全て忘れてしまっているのです!
そのせいである時は何故か未来の自分の死体が定期的に現れる現象に苦しめられ、またある時は名も知らぬ三人の依頼人から「約束を果たしていない!訴えてやる!依頼料を返せ!」と追い回され、さらには謎のナルシストロボット「ジョー」を相棒にする羽目になるというドタバタ泥酔SFミステリーという楽しいジャンルのお話です。
(※ただし、最初に収録されているギャラガー氏が初登場したお話「タイム・ロッカー」だけは毛色が違っていて星新一さんのショートショートのようなちょっと怖いオチになっています。この後にシリーズ化の打診があったらしく方向転換が行われたようです)
とにかくこの小説は主人公の科学者、ギャロウェイ・ギャラガーの吹っ飛んだキャラクター性が醍醐味です。朝目覚めて、訳の分からない機械を目の前にしても「もう一回酔っぱらえば思い出せるはず」と酒を呷りだし、何が起こったか聞き込み調査をしようとしても「とりあえず一杯」と飲み始めるという徹底した酒乱ぶり。さらには窮地に陥った時の己の身の上の嘆きっぷりや悪態の語彙力の豊富さ……こんな面白くて図太いダメ男がいるなんて!と終始笑いっぱなしでした。
このギャロウェイ・ギャラガーシリーズは1943年~1948年――今から80年前に発表された小説なのでSF要素の部分はややファンタジーに寄ってはいます。が、それにしたって今この小説を翻訳して出版しよう!という企画が持ち上がる竹書房さんってすごい出版社だなぁ……と感動しました。
何より、訳者の山田順子さんの手腕によってコミカルな文体で綴られた文章がまさしくキャラ萌えを推奨するような軽快な悪ノリをしてくるので本当に「いいぞいいぞ~!」とこっちも囃し立てたくなる雰囲気があり、読んでいて本当に楽しかったです。どうやら著者のヘンリー・カットナーは「発想は素晴らしいが、悪文な所がある」という評価もある作家だったようです。確かに海外小説を読んでいてこんなにとっ散らかった印象を受ける文体は初めてだったので、それも含めて今回は山田さんの翻訳のお力がすごかったんだろうなぁと感じる一冊です。
本日の紹介は以上になります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。
古河なつみ
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