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図書館司書が「こどもの頃に読んだ本」を探した話
こんばんは、古河なつみです。
今回は「こどもの頃に読んだ本探し」のレファレンス(調べ物)の依頼を受けた時の出来事を紹介します。
※紹介する事例の内容や単語は適宜差し替えてあります。
「ウィリアムなんとかさんっていう人の小説を探してるんですけど……」
ちょっと自信が無さそうな様子で若い女性の方がレファレンス相談のカウンターへやってきました。
「昔、学生の頃に読んだんですけど……エリー、みたいな名前の女性が出てきて、薔薇の花を渡すようなシーンがあって……雰囲気が暗くて、ちょっと怖い感じの内容だったんですけど……タイトルは、エリーへの薔薇、みたいなのだと思うんです」
かなり印象的な話だったらしく、もう一度読み返したいそうです。
本の装丁や内容についてもインタビューする
①本の見た目、大きさや表紙などは覚えていますか?
→普通の単行本と同じか、ちょっと小さかったかもしれない。表紙は絵が描いてあった事しか思い出せない。
②長いお話でしたか?短いお話でしたか?
→短かったです。他にも色々な短編が入っていました。
まずは利用者さんの言葉通りに検索してみる
私が図書館の検索用のPCで「エリー バラ(タイトル)」&「ウィリアム(著者名)」で検索をしました。ヒット数は9件。けれどズバリそのもののタイトルや似ているタイトルはありません。さらに書誌(本の詳しい情報)を確かめていくと、明らかに違っている資料の中に一冊だけ気になるタイトルがありました。
『短編ミステリの二百年1』(東京創元社)
収録作「エミリーへの薔薇」(ウィリアム・フォークナー著/深町眞理子訳)
図書館のPCはグーグル検索と違って似たような単語をサジェストしてくれたりはしません。基本的には入力した検索ワードと一致しないと結果に現れない仕様になっています。
「ちなみにウィリアム・フォークナーの「エミリーへの薔薇」って聞き覚えはありますか?」
「ああ、そんな感じでした!」
ちょっと手ごたえを感じたのですが、出版年を見て私はムムッと手を止めました。2019年刊……相談してくれている女性の年齢を考えると「こどもの頃に読んだ」という記憶と合致しません。
似たような資料がないか調べる
一旦検索画面へ戻り「エミリーへの薔薇」で調べると『フォークナー全集8』や『世界文学全集4』などがヒットしました。
とはいえ、こどもの頃にこの本を手に取るだろうか? という気がします。
念のため全ての本を見てもらいましたが、やはり彼女はうーん、と首を傾げていました。
「本の見た目が違うのと……あらすじは一緒みたいなんですけど、何か読んだ時の雰囲気が全然違ってて……」
有効な検索語(キーワード)を見分ける
この段階で「個人の全集や世界文学全集に掲載されているような大家なら、同じ小説が何度も違う方に翻訳されてちょっとずつタイトルが違っているんじゃないだろうか?」という仮定を私は立てました。
フォークナーの原題では「A Rose for Emily」となっているので「エミリー」と「バラ」はほぼ確定でタイトルに含まれているはずですが、接続詞は色々なバリエーションが想定されます。そして漢字の「薔薇」で検索するとカタカナの「バラ」やひらがなの「ばら」は候補から外れてしまいます。この三語を包括的に検索するのであれば「バラ」が有効です。
さらに先程調べた全集の著者名義を見ると「ウィリアム」は省かれて「フォークナー」のみになっている資料があったので、この著者の資料を調べる時に「ウィリアム」の文字を入れてしまうと「フォークナー」としか著者名を記載していない資料が検索結果に表示されない可能性があります。
そこで改めて接続詞を含めずに「エミリー バラ(タイトル)」&「フォークナー(著者名)」で検索をかけると……
「エミリーにバラを」「エミリーの薔薇」「エミリーへの薔薇」「エミリーへのばら」「エミリーのための薔薇」…etc
……多彩なタイトルが検索結果に表示されました。
ここから「出版年」「表紙に絵があるか」「こどもが手に取り易そうな形態か」を鑑みて資料を絞り込むと、必然的に一冊の資料に辿り着きました。
『南から来た男』(金原瑞人編訳/岩波書店)
収録作「エミリーにバラを一輪」ウィリアム・フォークナー
お渡しした時に「これです!間違いないです!」と喜んでいただけたので、見つけられて良かった~!と私も嬉しくなりました。
とは言え、ウィリアム・フォークナーはノーベル文学賞も獲っているすごい方で「A Rose for Emily」は彼の作品の中でも評価の高い名短編だったので、司書として知らなかったのはまずかったなぁ……と反省しきりです。
後日『南から来た男』を実際に読んでみたのですが「岩波少年文庫でもこんなに怖い話をこども用に出版しているんだ……!」と驚きました。フォークナーの作品もすごかったのですが、冒頭のエドガー・アラン・ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」は描写の恐ろしさに震えてしまいました。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。
古河なつみ
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