進化心理学から考えるホモサピエンス - 第4章〜第6章 〜 中編 〜
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前回の記事の続きです。
先に言うべきだったことを今更ながら気づいたので、
まずそれについて触れたいと思います。
進化心理学という分野の仮説は、
「検証不可能」であり、「反証不可能」だと、進化心理学に批判的な人はよく言うのですが、(Gould and Lewontin 1979)
実際にこの分野は完璧な証明というのが極めて難しい分野です。
ですので、この本に書いていることを
盲目的に信じるのは危険というのは、頭のどこかに入れておいてください。
では、第4章からレビューしていきます。
第4章
病める時も貧しき時も
本章を読み進めていく前に
まず進化生物学の研究成果によって得られた、1つの前提を抑えておきましょう。
それは、
「自然の状態では人間の婚姻形態は一夫多妻であるということ」
です。
反対に
一妻多夫は事実上この世に存在しないこともわかっています。
これらがなぜかを本章では、様々な観点から書かれています。
まず一妻多夫が存在しない理由について。
それは、ズバリ
妻の産んだ子が自分の子かどうか確信を持てないために子供にあまり投資する気になれないからです。
父親は自分のお腹から子どもを産むわけではないので、ただでさえ自分が子どもの父親かどうかが心配なのです。
その中で、夫がたくさんいたら、いよいよ子育てをする気にはなれないですよね。
また
進化の歴史を通じて、女性は常に浮気性であり、
婚外セックスは、雌の繁殖戦略として進化してきたこともわかっています。(Bellis and Baker 1990)
(恐ろしい。。)
実際に、
現在の一夫一妻制度の中で
夫が他の男の遺伝子を受け継ぐ子供を自分の子供と信じて養育する確率は推定で、
アメリカで、13 - 20%
メキシコで、10 - 14%
ドイツで、 9 - 17%
(Celda-Flores et al. 1999 Gaulin, McBurney. And Brakeman-Wartell 1997)
だと言われています。
こんな数字を見ると、
男性としては自分の子どもができたときは遺伝子鑑定したくなりますね。。
しかし、
女性の浮気性に対して、人間の男も黙って屈従してきたわけではないのです。
進化の過程で、とった雄の対策は何なのか??
それは、一回に出せる精子の量を増やすことです。
つまり
精巣の大きさで、その種の雌の浮気性がわかるのではないかと言われています。
そんなバカな。と思うと思いますので、
具体的な例を紹介していきます。
ゴリラは
一匹のアルファオスが常に監視しているので、
雌は浮気しにくい環境です。
そんなゴリラの精巣は、体重比で0.02%です。
それに対して
チンパンジーの雌は、非常に浮気性であることが知られています。
そんなチンパンジーの精巣は、体重比で0.3% (Cartwright 2000)にもなります。
なんと体重比にして、ゴリラの約15倍です。
では、
人間の男の精巣はどうなんでしょうか。
人間の精巣は、体重比で0.04 - 0.08%です。
つまり
人間の女は進化の歴史で、
ゴリラよりは浮気性だったが、チンパンジーよりは貞淑だったと考えられるのです。
おもしろすぎる。
またペニスの形と性行動からも、
人間の女が浮気性であったことが示唆されています。
人間のペニスには、カリがありますよね。
あれによって、
「他人の精子を子宮頸管から排出でき、射精の前に他人の精子をかき出すことができる」ことが、研究によってわかっているのです。(Gallup 2003)
何じゃそりゃ。という感じですよね。
続いて、一夫多妻について書いていきます。
祖先は一夫多妻だったということが言われています。
なぜそんなことがわかるのでしょうか。
それは、一夫多妻の度合いと体の大きさの性差に明らかな関連がある(Alexander 1979)ということがわかっているからです。
実際に単婚であるテナガザルは雄も雌も身長、体重はあまり変わらない。
では、なぜ一夫多妻の度合いと体の大きさの性差に明らかな関連があるのでしょうか?
これには、
「男が大きくなった説」と「女が小さくなった説」があります。
雄が雌を巡って争うから、大きいやつが生き残る。というのが男が大きくなった説であり、
早く妻になるために、初潮が早くなったというのが女が小さくなった説です。
なぜなら、一般に初潮を迎えると身長の伸びがほとんど止まるからです。
どっちにしても、納得感があっておもしろい。
いずれにせよ、
どうやら人間は、きわめて最近まで一夫多妻だったということがこの章からわかります。
第5章
親と子、厄介だがかけがえのない絆
裕福な親は息子を、貧しい親は娘を作るというような説を訴えている
「トリバース・ウィラード仮説」
という仮説があります。
この仮説は、
いくつかの研究で、事実ベースでそうなっています。
では、なぜこんなことが起こるのか。
それに対する答えは、
「貧しい息子たちは、女から相手にされず、子どもを残せないが、娘は若さと美しささえあれば、貧しくても子どもを残せるから。」
です。
この仮説をさらに発展させた
「一般化トリバース・ウィラード仮説」によると
暴力的な男性は息子を多く持つ (Kanazawa 2006b)ということや、
美しい女性は、第一子が娘である可能性が高い。(Kanazawa 2007)
ということも明らかになってきました。
これらは、どれも後世に自分の遺伝子を残すための最適な戦略だと考えられるのです。
ただこれらのことは、
各研究において事実としてはそうだったんですが、
筆者らも論文中で更なる検証が必要だと言っているので鵜呑みにするのは危険です。
まあでも、納得感はありますよね。
ここでわかっていただきたいのが、
男の子が生まれるか、女の子が生まれるかは
全くの偶然によって決まる訳ではなさそうだ。ということです。
多くの要素がある中で、
親の外見とか性質とかも子どもの性別に関係ありそうだということがわかったのが、
これらの研究の意義なのかなと僕は思いました。
さて、次は4章でちょろっと出てきた「父性の不確実性」についてです。
これは、
お母さんは自分のお腹から子どもが生まれてくるので、自分の子であるということがわかるが、
お父さんは自分の子であることを「確信」はできないという意味です。
まず
なぜ赤ちゃんはパパ似と言われることが多いのか?
という問いに答えていきます。
この問いに答える前に、
複数の写真から親と子を結びつけるクイズをやらせた研究から紹介します。(Christenfeld and Hill)
この研究で正解率が33%であったことから、子どもは親とそれほど似ていないんじゃないかということがわかりました。
この結果を見ると
パパ似と言われる子どもが多いことがますます謎になりますよね。
これからゾッとする話をします。
30年間にわたるカナダ、アメリカ、メキシコでの研究で、
母親とその親族が、赤ん坊を見て父親似だと言う確率は、母親似だと言う確率よりはるかに高いということがわかりました。(Daly and Wilson 1982, McLain 2000, Regalski abd Gaulin 1993)
これは、
「父親が生まれた子どもを自分の子どもだと思うようになる」ために、そう言っていると考えられます。
つまり、
父性の不確実性への不安を払拭するために、
世間では「パパ似だね~」と言うことが多いのです。
これが本当だとしたら恐ろしい。。
最後に
なぜ母親の方が子育てに投資するのか?について答えていきます。
それは、
女の生涯の繁殖可能性に対して、一人の子供が占めるパーセンテージは、男のそれよりはるかに大きいからです
。
つまり
一人の子どもの重要度が、女の方が圧倒的に高いからだと言えます。
では、
この記事での最後の章、第6章に入っていきましょう。
第6章
男を突き動かす悪魔的な衝動 犯罪と暴力について
なぜ暴力的な犯罪者はほぼ例外なく男なのか?
進化の歴史を通じて、人類(ホモ・サピエンス)は事実上一夫多妻であった。(Daly and Wilson 1988)
雄にとって、
死より恐ろしいもの。それは、繁殖に失敗することだと本書では言っています。
つまり競争して、闘って死ぬリスクをとってでも、自分の遺伝子を次世代に伝えようとするのです。
暴力的な犯罪の中では、
殺人とレイプは、全く違ったものに思えます。
しかし、進化心理学的なメカニズムは同じなのです。
これら2つの行動の動機は
「自分の遺伝子を次世代に残したい」ということです。
実際に
レイプ犯の圧倒的多数は、合法的な手段では配偶相手を確保できる見込みがあまりない人たちであることもわかっています。(Thornhill and Palmer 2000)
この章の最後に
進化心理学の非常に重要なコンセプトを紹介します。
それは、
「配偶関係を決めるのは雌である」
というコンセプトです。
雌が雄よりも子どもに多くの投資をする動物では、
配偶関係は雌の選択で決まります。
つまり、主導権は雌が握っているのです。
雌が望んだときに、望んだ相手と交尾をするのであり、雄が望んだときではない。(Trivers 1972)
これは、全男性が覚えておくべき事実ではないかと思います。
いやー、盛り上がってきましたね。
では、次回は
第7章、第8章、最終章について書いていきます。
政治や経済、社会、宗教、戦争の観点から見た進化心理学なので、これまでの2記事とは少し毛色が変わるかもしれません。
お楽しみに。
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