英国で博士号を取るということ〜「赤と青のガウン オックスフォード留学記」彬子女王
話題の本。ちょっと前にSNSで話題になって、あ、そうそう、これ、私も読みたかったのよねーと思っているうちに、文庫版が決まって、やった!とさっそく手に取った。
オックスフォードの博士課程で美術史を研究する、彬子女王なる方がいらっしゃるのは、ずいぶん前に、たまたま雑誌の記事をお見かけして知っていた。
立場や身分はもちろん、年代も場所もレベルも違う、だけど、同じヨーロッパで美術史を研究されている女王さまというのは一体どんな方なのか、どんな研究をされているのか、興味があった。留学記が出た時から気になっていたのだが、そのころはあいにく、すぐに手にすることができなかった。
今回初めて、ようやく読むことができて、まず最初に、何よりもご本人に心より、博士号取得おめでとうございます、と言いたい。内容を拝読して、想像の何倍も何十倍ものご苦労をされての結実であることを知った。
もちろん、日本人で、国外で博士号を取得された学者さんは、これまでにさまざまな分野で数多くいらして、美術史も例外でない。その国や大学のシステムや規則に翻弄され、睡眠不足と戦い、不安にさい悩まされ、胃に穴があく思いをしながら、学位を収められたのは、彬子女王さまおひとりではないよ、と言われるだろう。オックスフォード大学に在籍し、大英博物館で研究をし、アメリカではあの、伊藤若冲の「発見」者プライス夫妻と懇意にされ、と、いかにも華やかなキャリアで、格も段違い。皇室のメンバーであることで、やはり何かしら優遇されることもあったのかもしれない、と率直に思う。ただ、誰彼問わず、こんな風に頑張っている人の前で、それまで立ち塞がっていた壁が突然崩れ、次々と扉があくことは確かにあって、それは彬子女王さまに限ったことではない、とも思う。もちろん、エリザベス女王に突然、単独でお茶に招かれる件などは、まったくもって、さすが英国、さすが皇室と笑ってしまうくらいだけれど。
ただ、そうしたごく一部の例外を除けば、そう多くは述べていらっしゃらないけれど、むしろ皇室メンバーであるが故のご苦労の方が、おそらくより上回っていたのではないか、と想像する。
英米の日本美術コレクションについて、その特徴と傾向を分析する、という研究テーマは非常に興味深く、もしいつかどこかで、講演など拝聴する機会があればぜひ伺いたい、と思う。(オックスフォード英語の論文を拝読する勇気と能力は全くない。)と同時に、大英博物館の日本コレクションは、約3万点とあったが、そういうならば、ヴェネツィアの国立東洋美術館の所蔵品は、全部で約3万点、うち7割ほどが日本の美術・工芸品であり、十分に比較対象になり得るのではなどと思った。イタリアには、さらにジェノヴァのキヨッソーネ美術館もある。明治以降に日本を訪れたのは英米人だけではなく、なので、イタリアやフランス、ドイツなど各地で同様の研究が進めば、さらにおもしろいのではないだろうか・・・。もう実際に取り組んでいる研究者もあるのかもしれない。ぜひ誰か、よろしくお願いします!
タイトルにある「赤と青のガウン」に代表される、さまざまな形式やしきたりが、これまた想像以上で、そんなところは、皇室から留学した彬子女王さまにはむしろ抵抗が少なかったのかもしれない。何から何まで、同じヨーロッパといえどイタリアとは全く違う文化に、文字通り異世界を垣間見た。おもしろかった。
赤と青のガウン オックスフォード留学記
彬子女王
PHP文庫
25 ago 2024
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