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【映画感想】解釈と解像度の度合いは己で決めればいい
2月の頭、公開してすぐ観に行った映画がある。
さらに数ヶ月前、予告編を観てからというものずっと楽しみにしていた映画だ。
作品名は『ファーストキス 1ST KISS』。
出演は松たか子さん、松村北斗さん。他に吉岡里帆さん、森七菜さん、リリー・フランキーさんら。脚本は坂元裕二さん、監督は塚原あゆ子さん。
お互い好き合って結婚しながら、いつしか気持ちがすれ違ってしまった中、夫が事故死。日々に追われて悲しみに暮れる間もない妻だったが、突然のタイムトラベル! そこで若き日の夫に出会い、もう一度彼に恋をする。そしてその先に待っていたのは……。
予告を観た時すぐにこれは恋愛映画、泣けるものだと理解した。そしてほんの数秒の予告だけの映像に一気に惹かれ、しばらく余韻が残った(そのあと普通に映画が始まるというのに)
私は泣ける映画が好きだ。それは恋愛ものに限らずで、感情がドバッと外へ溢れやすい特に感動ものが好きだ。それに比例して泣くという行為が素直に出せるのもいい。
ただ、個人的に恋愛映画は少し注意が必要だ。それは切ないという感情があるから。
でもこの切ないはお話のスパイスとしてとても重要なものなので決して外すことはできない。というかもったいない。
しかし切ないだけだと、どうも納得できないのだ。そう、私はバッドエンドがとっても苦手なのである。
どうして彼らは幸せになれないの?
なんでそんな選択をしてしまうの?
どうすれば良い最後を迎えられるの?
そんな想いが止まることなく湧き上がり、非常にモヤモヤとした気持ちで悪い意味での余韻が残ってしまう。
そりゃあ「それが恋愛ものだし、お話(フィクション)の醍醐味でしょ!」と言われれば否定はできない。私もそう思う。
でも駄目なのだ。私が、私の心がそれを受け止めきれないのだ。信じたくない、なんならあまりに無理になると脳内妄想でハッピーエンド風に変えてしまうほど。
これをハッピーエンドと言えるか微妙だが、映画の内容からそのままメイキング(現実)へとシフトさせるやり方をよくしている。
例を挙げると、とある登場人物が亡くなってしまう映画の内容があったとする。私はその話の続きを妄想で作っていくのだ。
その続きとは例えば「カット!」と映画監督が言うと亡くなった人物(役者)が何事もなかったかのように立ち上がって普通の日常へ戻っていく=亡くなった事実を誤魔化す(なかったことにする)みたいなこと。
我ながらめちゃくちゃな妄想だ(笑)
でも意地でもバッドエンドを掻き消そうとする。だっていますぐ記憶消せないんだもん!
そんなすぐ耐えきれなくなる私がこの映画をおすすめするということは……?
※以下、本編に触れます。ネタバレにご注意ください。
これを果たして何エンドと捉えるのかはきっと観た人に委ねられるている。
私は先ほど言ったとおりバッドエンドがとても苦手だ。だからこの映画を観て何とも言えない気持ちになっている。
それはハッピーエンドではなかったからではない。どちらの解釈もできてしまうからだ。
だからこの感想文を書くことに時間を要してしまった。気持ちの整理がなかなかつかなかったために(笑)とっても楽しみにしていた映画なので絶対感想書くぞと意気込んでいたのにこの有様よ……。
台詞のない日常描写
まず私が好きだと思ったところ。それは数分間に描かれた夫婦の日常だ。
朝起きて、ほぼ同時に動き始める二人。しかし彼らの会話はなく、ただそれぞれ朝の支度をしていくだけ。同じ台所を使っているのに別々の朝ごはんの用意している。同じ場所なので何度もすれ違うというのに一切もたつく事なく淡々と用意を進めて別々で席に座り食べ始める。しかも食べているものはご飯とパンで違っている。
そんな割と長い流れがあるのだが本当に台詞がない。なのにこの夫婦の現状が痛いほど伝わってくるのだ。彼らのことを全く知らないのに、どこかこんな夫婦を見たことあるなという既視感があって妙な親近感が湧いてくる。
個人的に面白かったのが朝の支度で見事に二人の動線が被らないところ。
「いやいや!仲が悪いのか息がぴったりなのかどっちだよ!」と思わず脳内ツッコミをしてしまった。
硯カンナという妻
松たか子さんが演じる硯カンナ。
とにかく彼女の言動がいちいち可愛らしい。
冷え切った妻の姿から一変、タイムトラベルをする度に愛おしくなる人物なのだ。
意図せず夫と初めて出会った15年前に戻り、最初はやはり周りの環境に違和感を覚え、次第に過去の記憶と結びつけていく。
若い頃の夫に出会うことでさらに昔の感覚、好きだったこと、そして本当は今も好きなのではと思えるような行動をとる。でなければ何度もタイムトラベルを繰り返しはしないし、未来を変えようとこんなにも奮闘はしない。
このタイムトラベルは前半と後半で大きく視点が変わっていく。前半はカンナが15年前の夫にときめき、未来を変えるために頑張る姿。後半は夫、硯駈から見たカンナをよく表現していると思う。そしてこれが映画ラストへ向けた大掛かりな序章のようにも思えて仕方がない。
前半は未来を変えるためにタイムトラベルをしているだけのに女という生物の生態を上手く描いている。好きな異性に会う時に服装や化粧に気合いを入れている姿、好きになってもらうために色々考えて迷走してしまう姿、キュンとした言葉を何度も聞きたいが為に何度もタイムトラベルをやり直す姿など恋した女性なら思わず頷いてしまうようなところがたくさんある。特に何度も言われたい、何度も聞きたい欲が凄すぎてタイムトラベルを繰り返したときのカンナの言動を是非とも観て欲しい。そこに彼女の愛らしさが詰まっている。
硯駈という夫
松村北斗さんが演じる硯駈。
最初はやはり冷え切った夫婦なのでカンナに対して興味のない夫にしか見えず、あまりいい印象がない。
しかし映画を観終わって正直、彼の魅力は異常すぎると思わずにはいられない。その理由の一つとしてよく表れているのが15年前の姿だ。
突然現れた女性(カンナ)に興味がないように見えて実は一目惚れしているのでは?と思うほどに急展開な好意が画面いっぱいに溢れ出している(私は“え、いつどこで好きになった!?”と思わず振り返ってしまった)
出会って間もないのにもうカンナのことが気になっている姿、離れたくない、どうにか距離を近づけようと奥手なのに頑張っている姿がとっても可愛い。ピュアいただきました、ありがとうございます!
だが普通に一般的な誘い方や好意の表し方ではなく独特の言葉、言い回しで伝えるのが硯駈という人間だ。多分彼はこれが普通なのだろうけど(笑)
言い方もそうだが彼独特の解釈や世界観が面白くて段々と癖になってくるので特にそこを観て欲しい。彼が言葉を発するたびに硯駈の解像度が上がる。
因みに私が1番好きな台詞は「“二人でパン屋を始めましょう”という概念は“結婚しましょう”という概念とほぼ一致します」です(笑)
このあたりの会話の流れや駈の表情が面白い。私は騙された……。
夫婦の在り方とは?
独身でしかももう生涯おひとり様確定イベント開催中の私が言っても何だかなぁって感じなんですがとりあえず独断と偏見を言わせて欲しい……。
この映画のテーマといえる夫婦の関係性。互いに好きになって生涯一緒になる、みたいなのが簡単な結婚のイメージなのだが、現実はそんなもんじゃねぇ。
そもそも血の繋がりのない赤の他人同士が惹かれ合うこと自体、奇跡なのだ(哲学みたいな話になるが人を好きになることが、どれほどのことかと考えてしまう)
繋がりが深くなればなるほど、つまり結婚すると色んなものが見えてくる。物理的にも心理的にも。相手の好きだったところや興味のあったところが、嫌いになったり無関心になったりする。
他人なのだから違う価値観なのは当たり前で、それを上手く受け止められないことだってあるはずだ。
恋をしていた時に付いた好きフィルターが日が経つにつれ、薄れて消えていく。恋人から夫婦へ、好きの形が変わったといえば聞こえはいいが果たしてそれだけが夫婦のいざこざの原因なのだろうか。
ずっと変わらない夫婦関係がないとはもちろんいえない。ほっこりするような人たちだっているし、互いに恋をしてるような人たちだっている。変わらないことは本当に素晴らしいことだ。
でもそうじゃない人たちも絶対いる。良い悪いじゃなくて現実にいるという事実。
そんな人たちにこの映画を観て欲しいと思う。
ただこれは別にこれを観て教訓にしろといっているのではない。単純に私のような独身よりも夫婦の方がより楽しめると思ったのだ。
そりゃあこれがきっかけでいい方向へ向かっていくのに越したことはないけど、実際の夫婦にしか分からないことが伝わることがきっとあると思うから。
おひとり様確定で夫婦や家族というものにあまりいい印象がない残念な私でさえ「夫婦っていいなぁ」「愛するってこういうことだよな」って不思議と思えたのだから。
絶対使い方間違っているけどこの映画を観てからというものパートナーロスみたいな感覚が取れやしない。もともと恋人いないからロスも何もないけどな!ハハ!
最後に個人的おすすめポイント
くそう。この映画の魅力が上手く伝わらねぇ!言い足りねぇ!完全に拗らせてしまっている!
全ていうと楽しみがなくなるのであと少しだけお許しいただきたい。他に個人的に好きなところを箇条書きで挙げていく。
カンナの写真の撮られ方
会話のテンポ、流れ
独特の言い回し
駈の仕草
浮気の概念
靴下の履き方
終盤の二人の長い会話
カンナの選択と駈の選択
変わっていく未来(夫婦の日常)
餃子の頼み方
いや!言い出したキリが無い!!
約2時間ある映画でしたが最初から最後まで楽しめたのが単純にすごい。いくつも緩急はあるのに飽きることなくどんどん登場人物に感情移入していく。
終盤の電話が鳴ったシーンで「どうか、どうか……!」と脳内で必死に叫んでいたのも我ながら入り込み過ぎてて面白かった。
初めに言ったようにこの映画は観る人によって解釈を変えられます。幸せや人の愛し方の基準が問われているのような感じがするのです。
切なすぎる話にアレルギーのある私が何とかここまで生きていられるのはお話の素晴らしさだと思います。
そして演出、役者さんたちの表現が優しく包んでくれています。ありがとう。たとえ独りでも強く生きていくよ。
観た直後はしばらく放心状態ですぐには感想をまとめられませんでしたが、というかこの日もう一つ別の感動する映画を観ていたので自ら追い討ちをかけてしまった1日でした(笑)
泣き過ぎて顔が涙でびしょびしょで心身ともに疲れ果ててました(タオルはやはり必須であった)
あと最後に。
パンフレットも芸が細かくて観た後に開けるとまた涙でびしょびしょになるので注意おすすめです!
ここまでお読みいただきありがとうございました。伝わるといいな、本当マジで奇跡的にどうにか伝われー!
もし観たいと思ってくれたのなら幸いです。
(また拗らせて後日、別の感想文書き始めてたらすみません)
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