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素朴でどこか懐かしい『秘密のケーキづくり』に挑戦!

親から子へ、さらには孫にまで受け継がれるレシピの本が、いったいこの世にどれだけあるでしょうか。

マドモアゼルいくこさんの『マドモアゼルいくこの秘密のケーキづくり』が初めて世に発表されたのは、半世紀近くも前、1978年のことでした。
当時、主婦と生活社から出版され、その後2002年に同社が復刊、復刊ドットコム社からは2010年に復刊を求める多くの声を受け、再び復刊されました。2023年現在までに7度の重版を重ね、今もなお新たなファンを獲得し続けています。


近年では、ネット記事で本書掲載のレシピ「ヨーグルトポムポム」が紹介されたことにより、Twitterでのトレンド入りや、Instagramの関連ハッシュタグの投稿が1000件以上など、SNSを中心に再注目されました。

■FRaUweb
「伝説のデザート「ヨーグルトポムポム」超簡単なのに美味しい「秘密」 レシピ」

本書はなぜ、世代が変わっても色褪せず、人々を魅了し続けるのでしょうか。お菓子作り初心者で、苦手意識すらある筆者(今回、初登場です!)がその秘密を探ります!

どんなお菓子か、作ってみないと分からない!


「ヨーグルトポムポム」というチャーミングな名前には誰しもが興味を惹かれると思いますが、本書には他にも、「ポンムノアールパイ」や「ロンドココリン」、「マロンロンロン」など、目を引くレシピがいくつも掲載されています。

どんなお菓子が出来上がるのか、気になりますよね。
ですが、その全貌を知るには作ってみるしかありません。
この本には写真が一枚も載っていないないからです。そこにあるのは文字と、手書きのイラストだけ。

たくさんの美麗な写真が載っているレシピの本とは違って、本書には完成品、いわば“正解”となるイメージがありません。

これは、一見不便のようでいて、実は素晴らしく自由の世界であるとも言うことができるでしょう。写真は美しく、便利ですが、強烈な印象を残すものでもあります。正解がないからこそ、創作意欲をかき立てられる。試行錯誤してみる。そうして出来上がったお菓子は、自分だけの思い出として、大切に心の中にしまわれていくのではないでしょうか。

読んでいるだけで、ワクワクしてくる


筆者はお菓子作りは得意ではありませんが、料理は結構得意です。本屋さんに行くと、新たなレシピを求めて、よく料理本のコーナーの本をぱらぱらとめくります。ところが、お気に入りの本に出会うのはなかなか簡単ではありません。そんな中で、筆者がこれまでに出会い、大切に使っている本の共通点は、著者の人柄がレシピに表れていて、レシピを知るだけでなく、読んでいて楽しいと言うことです。

実は、『秘密のケーキづくり』もまさにそんな本なのです!
マドモアゼルいくこさんのお菓子作りへの溢れんばかりの愛情と、散りばめられたお菓子作りのエッセンス。ハードルをグッと下げてくれるプロローグに、お菓子作りに苦手意識をもつ筆者も、ちょっとやってみようかな…?と、まるで魔法にかけられるように、お菓子の世界に吸い込まれていきます。

筆者が何より惹かれた「ケーキサーバーのお話」を一部ご紹介。

おいしそうにでき上がったケーキを、切り分けて、その一つずつをやさしくとり出してくれるケーキサーバー。ケーキは作っても、まだケーキサーバーはないのよ、ほかのもので代用しているの、という人は、今度ぜひケーキサーバーを使ってみてください。お皿によそうとき、うれしくてウキウキしちゃいます。せっかく美しくできたケーキなんですもの。くずくずになってしまったら、ケーキが泣いちゃうわ。・・・
『マドモアゼルいくこの秘密のケーキづくり』ケーキサーバーのお話 P.45

「バナーヌガトー」を作ってみた!


さて、どんなに素敵な本だとはいっても、やはりレシピの本ですから、掲載されているレシピは、お味はもちろん、誰にでもきちんと再現できるものでなければなりません。

長年のファンが多い本書をわざわざ検証するのも野暮な話ではありますが、おそらくヨーグルトポムポムに次いで簡単なレシピ「バナーヌガトー」を作ってみました!

バナーヌガトーとはつまり、バナナケーキのこと。フランス語でバナナをバナーヌ、焼き菓子をガトーといいます。直球ではなく、あえて耳馴染みのない言葉で書かれたレシピの名前に、マドモアゼルいくこさんの遊び心が光ります。

※レシピは記事の最後に掲載しています。

まずは、下準備。主役のバナナは3本使います。レシピは分かりやすく、迷うことはありません。
なめらかにしたケーキ用無塩マーガリンに砂糖を加えたものに、卵黄を合わせているところ。
泡立てた卵白を潰さないように、ドキドキしながらつぶしたバナナを混ぜ込んでいきます。
全部をひとつに混ぜ合わせたら、生地が完成。
バナナを一面に散らして、これでいいのでしょうか・・・。
イラストはこんな感じ。多分合っているのでしょう!
予熱したオーブンに行ってらっしゃい!ここから45分間、焼けるのを待ちます。

慣れないお菓子作りに作業台は粉まみれ、やっぱりお菓子作りってちょっと苦手かも…と思いながら調理器具を洗っていると、オーブンから甘い香りがふわふわと漂ってきました。覗いてみると、生地が少し膨らみ、ほんのりと焼き目がついています。

思わず口元が緩みました。焼き上がるまで、あと20分。
ボウルを洗う時間が、うきうきした時間に変わったことに気づき、お菓子作り、悪くないかも、と感じた筆者。

出来上がったバナーヌガトー

我ながら、美味しくできました!
家で作るからこその、素朴でどこかほっとする味です。

バナナがたっぷりと練り込まれた生地は、自然な甘みが引き立ち、濃厚ながらもさっぱりといただける仕上がり。ふわふわ、というよりも、ずっしりとして食べ応えがあり、翌日の朝食にもぴったりなケーキでした。

ケーキ自体の甘さが控えめなので、定番の紅茶やコーヒーだけでなく、時間帯に合わせてホットチョコレートやホットミルクと一緒に食べてみるのも美味しそうです。

マドモアゼルいくこさんは本の中で、「なぜか雨の日の午後、熱々のココアとともに食べてみたい。」と書かれています。残念ながらこの日は快晴だったので、これは次の機会のお楽しみ。

作る人によって食感や焼き加減は少し変わるかもしれませんが、
見た目も味も、筆者にとってはこれで正解です。

懐の深いレシピ本


『秘密のケーキづくり』は、マドモアゼルいくこさんの、やさしくてハイカラな語り口とは裏腹に、一冊まるっと自信を持ってコンプリートするには骨の折れる本です。なにせ文字がびっしり、130種以上ものレシピが紹介されているのですから。でも、たくさんのお菓子作りを楽しみながら、このレシピの本が少しずつ自分の手に馴染んでいくのもまた楽しみの一つ。筆者もプロローグでこう語っています。

どうか、この本をボロボロになるまで使ってください。
台所にも気軽に持ち込んで、卵をこぼしてしみをつけたり、マーガリンやバターの油がついたり、そんなふうにして使っていただけたら、私としては最高の幸せ、本を出すかいもあるというものです。
『マドモアゼルいくこの秘密のケーキづくり』プロローグ P.12

全てのページがモノクロで、文字とイラストだけを頼りに、自分なりのお菓子作りを楽しむことがきる本書は、「映え」の時代にあって、どこか安心する一冊。時間をかけて、世代を超えて、長くお付き合いしていけるレシピの本には、たくさんの人の思い出を受け止めるだけの懐の深さがありました。

バナーヌガトーのレシピ

■材料(直径18cmのスポンジ型1個分)
・薄力粉 200g
・ベーキングパウダー 小さじ1
・ケーキ用無塩マーガリン 200g
・砂糖 100g
・卵 2個
・ラム酒 大さじ1
・バナナ 3本
・レモン汁 少々
■はじめに
・焼き型に紙を敷いておく。
・薄力粉とベーキングパウダーはあわせてふるっておく。
・卵は卵黄と卵白に分けておく。
・バナナ1本を5~7ミリの輪切りにしてレモン汁をかけておく。
 残りの2本はこまかく刻むかスプーンですりつぶしておくこと。
■作り方
(1)ボールにマーガリンを入れ、木べらでクリーム状にする。
(2)(1)に砂糖(大さじ1杯分だけ残しておく)を少しずつ加え白っぽくなるまでかきたてる。
(3)(2)に卵黄を加え、さらに刻んだバナナとラム酒を入れてよくまぜ合わせる。
(4)卵白に残しておいた砂糖を加え、ピンと角が立つくらいに泡立てる。
(5)(3)のボールに泡立てた卵白を加え、むらなくまぜ合わせる。
(6)(5)にふるっておいた粉を切り込むようにして加え、型に流し込む。
(7)上一面に輪切りのバナナを飾り、あたためておいたオーブンに入れ、180度で約45分焼く。竹串をさして何もついてこなければOK。
『マドモアゼルいくこの秘密のケーキづくり』バナーヌガトー P.30.31

本書に掲載されているレシピは、ケーキやクッキー、パイなどの焼き菓子に加え、ゼリーやムース、シャーベットなどの冷たいスイーツ、白玉粉を使った少し和風のお菓子など、130種以上にのぼります。著者であるマドモアゼルいくこさんの言葉を借りると、この本で紹介されるのは“人生をエンジョイする”ためのお菓子たちです。気軽に作れるレシピから、時間のある時に挑戦したいレシピまでがずらりと並びますが、どれも難しい工程は省かれ、1~2ページに収まってしまうものばかり。美味しくするために自然と減ったという砂糖の量も嬉しい部分で、せっかく作ったお菓子のカロリーばかりを気にしながら食べる必要はありません。著者のお菓子作りへの愛が詰まったこのレシピの本には、手書きのイラストやコラムが散りばめられ、ぱらぱらとめくってみるだけでも楽しい一冊です。


■この記事を書いた人
Akari Miyama

元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、物事の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/
Instagram:@okuyuki_info

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