10分で読める!「本の未来と復刊の可能性」 イベントレポート
2023年3月29日(水)に開催された、オンライントークイベント「本の未来と復刊の可能性」に潜入!
AIビジネス・コンサルタントの橋本大也氏をお招きし、復刊ドットコムの未来を語っていただきました。90分間のイベントをぎゅっと凝縮し、ダイジェスト版で当日の様子をレポートします!
開始を前に、今回のセミナーへの期待を復刊ドットコムの岩本社長に伺いました。
「復刊ドットコムという会社をデジタルな視点から分析してもらえるのは楽しみですね。普段とは異なる切り口から見てもらうことで、新しい発見が生まれることを期待しています。」
当日は、復刊ドットコムの紹介、橋本氏の「復刊ドットコム」に関するデータ分析、と、それぞれプレゼンテーションを行った後、お互いに気になった点などをディスカッションする3部構成で進行しました。ぜひ気になるパートからチェックしてみてください!
登壇者紹介
・ゲスト:AIビジネス・コンサルタント 橋本大也氏
デジタルハリウッド大学教授/メディアライブラリー館長
ビッグデータ領域のリーディング企業を創業。データサイエンス人材育成の第一人者。
デジタルハリウッド大学教授とメディアライブラリー館長を務める。ビッグデータと人工知能の技術ベンチャー企業データセクション株式会社の創業者。同社を上場させた後、顧問に就任し、教育者、事業家に転進。教育とITの領域でイノベーションを追求している。著書に「データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人」(SB 新書)「情報力」(翔泳社)など。書評ブログを10年間執筆しており、書評集として「情報考学 Web時代の羅針盤 213 冊」(主婦と生活社)がある。多摩大学大学院客員教授。早稲田情報技術研究所取締役。最新刊は『英語は10000時間でモノになる ~ハードワークで挫折しない「日本語断ち」の実践法~』(技術評論社より4/20発売)。
・株式会社復刊ドットコム 代表取締役社長 岩本利明
・株式会社復刊ドットコム 取締役 吉田淳
復刊ドットコム プレゼンテーション
「売れ筋から読み解く 復刊ドットコムの世界&復刊事情」
このパートでは、復刊ドットコムの事業や、復刊した書籍の事例、復刊リクエストで実際に寄せられた声などが紹介され、これらを踏まえた事業課題について話題が及びました。復刊ドットコムのことをよく知っていただいている方も、意外と知らないことがあったかもしれません。当日使用されたスライドを引用しながらご紹介します!
これまでの復刊ドットコム
復刊ドットコムは2000年に国内唯一の復刊リクエストサイトとして登場し、会員数は現在までに55万人、復刊リクエストの累計投票数は95万票を数えます。出版社としても数々の書籍を復刊してきた中で、復刊の一つの基準となるのは、リクエストが100票を超えていること。多くのリクエストを集める作品は、復刊ドットコムのユーザーが自身のSNSサイトなどで署名活動を行い、そこへ賛同者が集まることが多いようです。
例えば、復刊ドットコムサイトのリクエスト第1号でもあり、2407票という投票数を集めたのが『藤子不二雄(A)ランド 全149巻』。100票以上のリクエストがある作品は今や約2100タイトルもある中、1000票以上集めているのは数タイトルと、同シリーズの人気がいかに高いかということが分かります。
復刊してほしい理由は作品によってさまざまですが、『藤子不二雄(A)ランド 全149巻』の場合は、子どもの頃にアニメで見た作品を、あらためて本として読んでみたい、といった声が寄せられていました。
では次に、リクエストが集まったものについて、復刊の検討はどのように行われるのでしょうか。次の図を参考にご覧ください。
復刊ドットコムにリクエストが集まると、著作権関係者や出版社の方に相談をし、そこで、実際に復刊が可能かどうかを検討する、という流れとなります。
ちなみに、出版社や関係者に対しては、復刊ドットコムに集まった情報を閲覧できるサービスも無料で行っており、そこでは個人情報を消した上で、年齢層や性別、リクエストコメントをチェックすることができます。自社でも他社でも、1冊でも多くの本が復刊することを目指しているということですね。
さて、リクエストが集まり、晴れて復刊されたものの中で、近年ではどのような本が人気なのか、復刊ドットコムサイトの売上ランキングも紹介されました。売れ筋の本では、ゲームやアニメ関連など、エンタメ色が強いとのこと。(注:復刊ドットコムでは一部新刊も出版・販売しているため、ランキングの一部は新刊となっています。)
その他、復刊ドットコムに寄せられたリクエストから復刊が実現した作品が、その内容や復刊当時のエピソードとともに紹介されました。各作品の詳細ついては、ぜひ復刊ドットコムサイトの商品ページをご覧ください!
復刊事業の課題
多くの作品を再び世に送り出してきた復刊ドットコムですが、復刊する上では課題も生まれてきます。今回は大きく3つの課題について言及がありました。
たくさんのリクエストに応えることができていないこと
本の調査にとても時間がかかること
(どんな本なのか、内容、関係者、原本や原稿の入手の検討など)新しい本や印刷と異なり、古い原稿や原本を修復してから印刷作業する必要があること
ユーザーの方々に支えられ、復刊も徐々に増えてきているなかで、今後も日々課題の改善に取り組んでいきたいとの意欲を見せたのち、最後に岩本社長は復刊ドットコムのビジョンについて次のように語りました。
「『復刊ポータル』の地位を確実に!ということを掲げて、復刊にまつわる全ての情報や商材が集まり、それを発信する場になれば良いなと思っています。」
橋本大也氏 プレゼンテーション
「データで見る『復刊ドットコム』」
膨大なデータを人の目でひとつひとつ確認・集計していく作業には限界がありますが、AIを搭載したツールを用いることで、その作業を代替し、さらに精緻な分析を加えたり、有益な情報を抽出したりすることが可能となります。橋本氏が今回のトークイベントのために分析してくださったものの中から抜粋したものをご紹介します!
Twitterのつぶやき×復刊ドットコム
データセクション社 Insight Intelligence Qを利用し、「復刊ドットコム」というキーワードと一緒に頻出する品詞別の言葉や画像にはどのようなものがあるのか、また、特徴語の抽出(テキストマイニング)の結果はどのようになったのか、橋本氏作成のスライドを引用してご紹介します。
ちなみに、「復刊」というキーワードが使われたツイートのうち、13.7%は、「復刊ドットコム」に関連しているそう。書籍の復刊に対して、復刊ドットコムが一定の影響力を持っていることが明らかになったのは嬉しいことです!
特徴語の抽出では、「復刊ドットコム」と「復刊」、両者の抽出結果を比較していただきました。頻出する言葉ほど大きい文字で表示されています。「復刊」の方には、実際に復刊された作品に加え、復刊してほしい作品のタイトルも含まれているようです。
また、ツイート内容の分析の他、ツイートを行ったユーザーの属性についても分析していただきました。そこで分かったのは、若い年齢の方のツイートも多いということでした。SNSを使用するのは比較的若い層であるという特性を加味しても、同じ結論に至るそう。岩本社長は、「復刊ドットコムの会員層は40代が主なため、あまり馴染みがないと思っていた若い方がつぶやいてくれているのは驚きです」と話していました。
復刊ドットコムに寄せられたリクエストをAI分析
次に橋本氏が紹介してくださったのは、KHCoderというツールを使用し、復刊ドットコムに寄せられたリクエストのコメント(以下、リクエスト)を分析した結果です。
ここでも、リクエストにはどのような言葉が使われているのか、品詞別に抽出され、さらに、言葉同士のつながりも視覚的に示されました。また、言葉単位だけでなく、おおよその内容ごとにクラスター化した図も紹介していただきました。
データ分析を受けて(ディスカッション)
復刊ドットコム、橋本氏のそれぞれのプレゼンテーションを踏まえ、ここからはお互いに気になった点などを自由に語り合う時間となりました。以下では、さまざまな話題の中でも特に興味深かった部分を抜粋して対談形式でご紹介します。
なお、このパートではモデレーターとして株式会社オプンラボの小林氏にも加わっていただきました。
データが、感覚を裏付けた
小林:膨大なデータを分析していただきましたが、何か思うところや、確認してみたいなというところはありますか?
岩本:(復刊リクエストを8つのクラスター化した中で)「手」というクラスターがすごく面白いなぁと。デジタル化が進むなかで、手というもので本を感じるというのか、そういうのが言葉として出てくるっていう。
橋本:電子書籍ではあまり言わないかもしれないですよね。
岩本:やはり、パッケージとして持っておきたい、手元に置いときたいと。(中略)なんとなく頭にはあったかもしれないですけど、はっきりとデータで見て理解できたところではありますね。
紙の本の需要について
小林:オーディオブックや電子書籍を読む人もいるなかで、紙の本の復刊をリクエストしてくるということについてどのように見られますか?
橋本:子供の頃に読んだ、紙の本の体験をまたしたい、ということで、高いお金を出してでも買いたいっていうのが自分にはあるので、電子書籍だとダメかなっていう気がしますね。(リクエストに)絵本なんかが多いのも、子どもの頃に自分が読んでもらったものを、親がまた子どもに読みたいとすると、やっぱり紙じゃないと同じじゃないっていうことがあって。紙にはまだそういう需要があるのだなと思うんですよ。
岩本:そうですね、昔、子どもの頃に読んだ絵本などは、母親・父親になって、もう一度自分の子供にも読ませたいとか、今の子どもに読んでほしいといったリクエストが多いですね。
小林:(復刊ドットコムは)コンテンツがちゃんと循環していく仕組みというか、そこをサポートしている感じですよね。
復刊ドットコムの可能性
小林:橋本さんから見て、復刊ドットコムにはどのような可能性を感じますか?
橋本:まだまだ発掘の余地がありそうだなと思っています。(中略)復刊ドットコムを知らない人の潜在的な需要もまだまだあるんだろうなと。新しく本を作るのもリスクがあるので、復刊させる方がヒット率が高くなるんじゃないのかと思ったりするんですよね。
小林:復刊ドットコムとしては、将来どうしていきたいというのはありますか?
岩本:復刊というビジネスをする会社としてやってきて、新刊だけではなく、復刊というものも、なんとなく少しは知られるようになってきたかなというところで、復刊というものが本の一つの形として位置づけられていき、認知されていくといいのかなと思います。
吉田:復刊ドットコムのサイトにもっと情報を集めたいというのがあります。古い本はどこのサイトへ行ってもそのデータベースが入ってないんですよね。タイトルと著者、当時の出版社名ぐらいしか書いてなくて。一方で、復刊ドットコムのサイトでは、リクエストしていただける方のおかげでデータベースがどんどん集まっていきます。復刊のことを知りたいとか、昔の本のことを知りたいという時には、復刊ドットコムに来ればある程度情報が載っている、というサイトにできればいいなと思っています。
本の未来、読書スタイルを考える
小林:今後の読書スタイルについて、どんどん変わっていくのか、
あるいは紙の本がそのまま読まれていくのか、橋本さんはどのように見ていらっしゃいますか?
橋本:2010年に共著で『ブックビジネス2.0』という本を出して、
そこで、これからはこう変わっていくんじゃないかという予想をしたんですね。ですが、あんまり変わっていないというのが実は13年後の現在です。(中略)
ただ、理論的にはインタラクティブになっていく。例えば、人工知能と対話しながら 「チャットGPT」が新しい本みたいなこともあるかもしれないし、VRを体験しながら読む本とか、オーディオブックとか。あとは、パーソナライズされて読者一人一人に内容を最適化して読む。(中略)それから、AIにアシストされた読書。要約や、自動翻訳で洋書をリアルタイムにかなり読めるようになってきたり。文学はまだ全然ダメなんですけど ノンフィクションだったらかなりいけます。あと、注釈をつけてもらうとか、専門書などではそういう読み方もあるだろうなと思います。
テクノロジー的にはいくらでもまだ進化が可能な本なんですけど、出版業界が結構保守的なので、あんまり本の形を変えないっていうのがあるなと思いますね。
(中略)
今、TikTokで本を勧めるのが今すごく盛んじゃないですか。その利用とかはどうですか?
吉田:YouTubeやInstagram、noteとかTwitter まではやっていますが、TikTokはなぜか手を出してないですね。
橋本: BookTok(TikTok内で本を紹介する動画)というのがあって、かなり本を売る力になってきています。デジタル・ハリウッド大学のメディアライブラリもTikTokで面白い本の情報を発信しています。そうしないと若者がなかなか見てくれないっていうのがあって、TickTokいいんじゃないのかなと思うんですよね。
小林:学生さんは興味を持ってくれますか?
橋本:というか、他のメディアだと見てくれないです(笑)
岩本:入り口としてはすごく良いですね。
橋本:結構、若者は昭和だったり昔のものを新しく捉えたりするから、そういうのをうまくTikTokで広げていけると売れるのかなと思います。
岩本:社内でちょっと検討します(笑)
おわりに
復刊ドットコムと橋本氏の各プレゼンテーション、ディスカッションの3部構成でご紹介してきましたが、いかがでしたか?
橋本氏のデータ分析や対談を通して、今後はデジタルの力を活用しながら、読者のニーズを的確に汲み取ったり、あるいは、価値のある本がより広まる接点を持ったりと、読書体験が新たな広がりを見せる将来像が浮かび上がってきたのではないでしょうか。
岩本社長は、「復刊ドットコムの事業がスタートして20年がたち、創業当時に復刊された本が品切れになり、そこへまた新たなリクエストが集まるという循環が生まれつつある」と語ります。
本を取り巻く環境では、デジタルがアナログな本にとって変わるのではなく、共存し、時には後押しする形で、私たちの文化的側面を支えてくれるのかもしれません。
今回のトークイベントのテーマである「本の未来と復刊の可能性」が示唆するのは、私たちの読書体験は、求める本や情報によりアクセスしやすくなるという形で、ゆっくりと進化していくということ。紙の本とデジタル技術は今後どのように交差していくのか、本の未来に期待がふくらむ90分間でした!
■この記事を書いた人
Akari Miyama
元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、物事の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/
Instagram:@okuyuki_info
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