【ショートショート】削る
「これなあに」
「ふふ、開けてごらん」
小学校三年生になった長女へのバースデープレゼントに鉛筆削りを買った。
カオリの目が輝いた。
「面白そう」
と叫ぶと、筆箱を取りに走った。
「おっと、そこまで。ぜんぶ削ってしまったら鉛筆がなくなっちゃうからね」
「えーっ」
今度は24色の色鉛筆セットを持ってきた。
一本一本ていねいに削る。
「きれいねー」
と見惚れている。
そこで止まればよかったのだが、親の目の届かないところで、カオリは予備に買ってあった鉛筆もぜんぶ削ってしまった。
いくら買い足しても、鉛筆削り熱は止まらない。
とうとう学校に持っていって友達の鉛筆まで削り出し、問題になってしまった。
えらいことだ。なんとかしなきゃ。
私はあてどなく商店街をさまよい歩いた。
超細長い、3メートルくらいの鉛筆を売ってないものかと思ったが、そんなもの、あるわけがない。
「鉛筆、鉛筆」
と呟き、よろめきながら歩いていると、
「お客さんお客さん」
と洋品店のおばさんが声をかけてきた。
「鉛筆のことで悩んでいるのかね」
「ええ、娘が鉛筆削りにハマってしまって」
「よくあることさ」
「そうですかねえ」
「三軒隣のお店に行ってごらん。いいものがあるよ」
そこは乾物屋だった。文具と関係ないじゃんと思いつつ、店頭を眺めると、鉛筆型鰹節セットという缶詰を売っていた。胸がドキンとする。
「この鉛筆型鰹節ってなんですか」
「鰹節を鉛筆と同じ大きさにカットしてあって、鉛筆削りで削れるようになっているの」
「それだ」
私は思わず大声を出してしまい、あわてて手で口を塞いでから鰹節を購入した。
それ以来、カオリは毎朝、鰹節を削っている。
鰹だしの味噌汁はたいへん風味があっておいしい。
(了)
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