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『ザ・ペンシル・パーフェクト: 文化の象徴“鉛筆”の知られざる物語』 キャロライン ウィーヴァー (著), 片桐 晶 (翻訳)

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。429冊目。

鉛筆愛に溢れた素晴らしい本を見つけてしまった。

文具好きの方、買っておいたほうが良いですよ、絶版になってしまったら、古書でも手に入りにくい本になってしまうかもしれないので。

現在、日本語の文献で世界の鉛筆の歴史を調べようとおもったら、本書とヘンリー・ペトロスキーの『鉛筆と人間』くらいしか選択肢が無いのかもしれないし。とても貴重です。

ちなみに私は鉛筆が好きです。

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外には持ち歩かないけど、自宅にいるときは、日々のメモは鉛筆です。

最近はコロナの影響でずっと自宅で仕事をしているので、ここ半年はずっと毎日鉛筆を使っています。鉛筆ラブ。

本書の著者も、相当な鉛筆好きです。おそらく世界一の鉛筆好きで、鉛筆愛が溢れすぎて、腕に鉛筆のタトゥーを入れ、ニューヨークに鉛筆専門店である CW Pencil Enterprise まで開いてしまっている。

著者のお店は伊東屋の鉛筆コーナーも顔負けの品揃え

本書は、そんな鉛筆愛者による鉛筆本の決定版。

個人的な好みなんだけど、なんと言っても、表紙が洒落ている。

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描かれている602は私が所有するバージョンと近い

鉛筆画で書かれたこの鉛筆は、既に絶版になっているエバーハード・ファーバー社の「BLACKWING 602」で、現在売られているPALOMINOブランドのBLACKWINGのオリジナルとなったもの。

個人的に、このBLACKWINGを長年自宅メモ用に愛用していて、最近リモートワーク続きでかなりのヘビーユーザー化していることもあったので、本書で熱く取り上げられていてちょっとした大興奮です。

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最近の机上ラインナップ、馬ロゴバージョンでさりげない古参アピール

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Eberhard Faber BLACKWING 602と復刻版602と限定のERAS

この製品は、限定品が定期的に出てくるのも楽しみの一つ。四半期に一度のペースでVolumesシリーズとして、数字にまつわるエピソードと、そのエピソードを体現するデザインの限定版をリリースしています。これが、すぐに売り切れちゃうし、微妙に出来が良くて所有欲をそそるし、使っていてもアガるのですよ。なので新しいVolumesが出ると、ついつい買ってしまう。

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コレクションから。ほら、ちょっと集めたくなるでしょ?

まぁでもね、こういった限定品を出してくるところとか、直系ではない復刻のくせに歴史をちゃっかり頂いちゃうところとか、最近のビジネスのやり方的にもMOLESKINEに似ているので嫌いな人も多いかもしれない。PalominoのBLACKWINGでしきりに宣伝している「かつて著名人が使っていた」というコミュニケーションも、使っていたのは Eberhard Faber の602 であってPalomino の 602 ではないというツッコミもあるでしょう。

でもね、作りが良いし、唯一無二なので素直に課金しています。

何が唯一無二なのか? それは品質と消しゴムのあわせ技が唯一無二なんですよ。

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この消しゴムが決め手でした

BLACKWINGの消しゴムは長めに格納されたものが引き出せる仕組みになっていて、普通の使い方では鉛筆がちびるよりも長持ちするので、別途消しゴムを用意しなくても良く、机の上もスッキリする。それに、この消しゴムは他社の天然ゴムの固い消しゴムを使った鉛筆よりもよく消えてくれる。とにかく使っていて気持ち良いのだ。

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トンボの2558と比較してみると大きさがよくわかる。

個人的には、この消しゴムの存在が決定打になっていて、これがあるからBLACKWINGを使っているといっても差し支えないほど。

書き味が良い鉛筆は、それこそハイユニとかMONO100とか、沢山あるのだけど、品質の高い芯に削り心地の良い軸、そしてこのタイプの消しゴムをそなえたものは他にはありません。

ただ、価格の高さがネックで、レギュラー品は350円位、限定品は400円以上と高価。数年前は260円位だったと思うので、日本の国力の低下が原因なのかしら。悲しい。とはいえ数百円の世界なので、大人なら趣味への課金だとおもって払えるけど。値付けの強気さもMOLESKINEに似ているね。

私は、自宅への在庫を過剰にするのが好みなので、海外のオークションとか、海外ECのセールで安くゲットしたり、メルカリで掘り出し物みつけたら買ったりして、1本あたりの単価をなるべく下げて在庫するようにしています。おかげでVolumesのコレクションも相まって、相当量がストックされています。これだけ持っておけば、何かしらの理由で急に輸入が止まってもしばらくは使い続けられるので安心。良かった良かった。

ちなみに、ここまで書いておいてアレですが、BLACKWINGオンリーというわけではなく、気になった鉛筆はそれはそれで買ってしまうし、定番ハイクオリティ鉛筆の書き心地も、それはそれで好きなので、BLACKWING以外の鉛筆もなんだかんだで持っています。

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そのなかでも定番鉛筆の四天王、ハイユニ、MONO100、カステル、ルモグラフは、やはり書き味が抜群に良くて大好きです。このあたり、良いですよね。多分、これらの鉛筆の芯は、BLACKWINGよりも性能は良いだろうし、実際に使っていて気持ち良いのだけど、消しゴムがね、ついてないよね。

消しゴムを手元に用意する必要があるのがやっぱり面倒なんですよ。よって出番は少なめ。

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そして日々の読書生活や子供の宿題添削に欠かせない赤青鉛筆。これはもう日本製品の独壇場。とくに三菱鉛筆の学用品の朱藍鉛筆が発色も書き味もナンバーワンですね。いろいろなメーカーから赤青鉛筆がでていますが、どれも三菱鉛筆の定番品にはかなわない。この分野では三菱鉛筆が最強。

この定番の朱藍鉛筆のラインナップが色の濃さ、書き味の滑らかさにおいて、読書中に本に線を引いたり、子供の宿題に丸付けをするのにベストなんですよ。

赤5:青5の二色鉛筆はおなじみなんだけど、私は青が余りがち、多分皆さんも青が余りがち。そんなときは赤7:青3の割合のものがあって便利。

私は、赤だけの朱通し、青だけの藍通しを愛用しています。

ただ、残念なのが藍通しに軸が六角形になった製品が無い事。

どうしても丸軸だと転がるので、全商品に六角軸を揃えてくれたらなと毎日思っている。

同じ三菱鉛筆ではuniブランドにも丸付け鉛筆があって、こちらが六角軸なので、こちらを使えということなのかもしれないのだけど、微妙に色が違うのよね。青はわりと近いのだけど、赤が丸付け用は色味が薄くて少しピンクがかっていてちょっと気になる。

三菱鉛筆には、さらに消しゴム付きの赤鉛筆、青鉛筆もあって、色鉛筆なのに消せるという点でユニークなんだけど、凄くきれいに消えるわけでも無いし、他の青鉛筆に比べて色が薄いのが残念。丸つけにも、読書にも少し薄いので惜しい。

トンボ鉛筆のippoブランドの赤青鉛筆も文具売り場でよく売られているし、トンボ鉛筆はさすが昨今の学用事情を理解した製品が多く、赤青鉛筆も六角軸。しかし、これも青の色が薄くて残念。ただ、この青は三菱鉛筆の消しゴム付きと同じくらい消しゴムで消えるので、娘の筆箱にはトンボの赤青鉛筆を採用しています。六角軸だしね。

ということで、三菱鉛筆の藍通しに六角軸が出てくれれば完璧なのに、ちょうどそこだけ製品が抜けていてがっかりなんですよ。三菱鉛筆さん、ぜひ藍通し六角を製品化してください。そうしたら一生付いていきます。

丸軸、嫌いじゃないんだけど、学校や塾で六角軸を指定してくるし、鉛筆削りで鉛筆画が回ってしまう事があるので、やっぱり六角軸を中心にしたいのですよ。

そう、そうそう、鉛筆削り、これも大事なアイテムです。小刀で削るような粋な方々もいてカッコいいなと思うのですが、私はサクサクと削りたいので鉛筆削り器を愛用しています。

製品は勿論カール事務機器のエンゼル5ロイヤルです。これ一択。

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ザ・無骨

電動ではなく、手回しです。しかも板金作りでカッチカチ。でも、これがおそらく人類最強の手回し鉛筆削り器です。

鉛筆削りを評価するにあたって、私が大事にしているポイントは「気持ちよく回せる」と「気持ち良い仕上がり」の二点なのですが、本製品はそのどちらもトップに近い品質。(全製品網羅的に触ったわけじゃないので、もしかしたら他にもすごいのがあるのかもしれないけど)

刃の性能が良いのか、ハンドルは軽く、シャクシャク削れます。これが気持ち良いの。シャクシャク。梨を食べているかのような削り感。木物語などのリサイクル木材を軸に使った鉛筆だと、木の硬い部分に当たって削る最中に力を入れないといけない事がよくあるけど、そんな鉛筆でもこのエンゼル5を使えば、やっぱりシャクシャク削れます。

さらに、削り上がりも素晴らしくて、電動も含め、他の鉛筆削りと比べても段違いになめらかに削れます。ほらみて。

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左が一般的な鉛筆削り。右がカールのエンゼル5ロイヤル。削り面の滑らかさが全然違うのと、少し内側に湾曲が付いていて、よく見ると絞られた形になっていますよね、みえますかね、よくみてくださいね。これが美しいんですよ。

この湾曲にどんなメリットがあるのかは、いまいち実感は出来ないのだけど、美しい姿が気持ち良いので満点です。

日々、芯の先が丸くなった子供の鉛筆や自分の鉛筆を削るのだけど、良い鉛筆削りを使えば、これがなかなか良い時間に。マインドフルネス。

皆さんもぜひ使ってみて下さい。プレミアムとロイヤルの二つありますが。芯の太さを二段階で調整出来るロイヤルのほうがよいでしょう。

見た目が無骨ですが、作りも無骨。なにせ外造は金属パーツの板金作り、多分、きっと長持ちします。これがあれば一生シャクシャク削れます。

ということで、皆さんも鉛筆いかがですか? 背各区なんで、大人な皆さんは一緒にBLACKWINGも買いましょう。そして削りましょう。

最初はB相当の602か

2B相当のパールが良いでしょう

このあたりで試しつつ、HBが良ければナチュラル、2Bよりも更に濃いのがよければ4B相当のマットとなります。


あ、興奮して本の紹介を忘れていました。

本書はですね、そんなライトな鉛筆好きな私でも興奮して2000以上鉛筆について書きなぐってしまうほど、鉛筆愛に満ち満ちた1冊です。本書には鉛筆の全てが詰まっています。

鉛筆がたどってきた歴史を黒鉛の発見までさかのぼり、世紀をまたぎどのように進化し、世界中で利用されるようになったのか。

そもそも、どのように製造されているのか。

現在の規格に落ち着くまでにどのような変遷があったのか。

切っても切り離せない消しゴムはどのようにして産まれたのか。何故、鉛筆に付属する消しゴムはきれいに消せないのか。

時代毎にどのような代表的メーカーが現れ、どのような製品が受け入れられていたのか。

ドイツ、アメリカ、日本といった鉛筆大国の製品は、どのようにして世界で愛されるようになっていったのか。冒頭でさんざん書いたBLACKWINGについても詳しく復帰の経緯(これが結構面白いよ)が書かれています。

本書を読み進めていると、鉛筆とは、人類にとって最も偉大な発明だったのではないかと思えてくる。いや、間違いなく最重要発明ベスト10があれば入ってもおかしくない。

読んでいると、今すぐにでも鉛筆を手に取り紙の上を滑らせたくなる。私は読書中のメモを鉛筆でとるので、すでに鉛筆は握りしめているのだけど、そうでない方も、ちょっと文具屋で鉛筆を手に取ろうかなと思うに違いない。

オススメです。

あっというまに絶版になってしまいそうな予感がするので、文具好きな方は買えるうちに買っておいたほうが良いです。

「買えるうちに買っておく」は文具好きの基本動作ですし。

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