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【ショートショート】帰還

 古めかしい玄関ドアが開いた。初老の男性に見送られ、ヨボヨボの猫が出てきた。。
 まだ若くしっぽをぴんと立てた地域猫ロッキーが近づいてくる。
「よお、じいさん。歩けるのかい」
「まだ足腰は立つな。食欲は失せてしまった」
「あと何日だい」
「そうさなあ。三日」
「見送るよ」
 老若二匹の猫は曲がりくねった坂をゆっくりとのぼり、長命寺の境内へと入っていった。この町の猫はみんな死ぬときには長命寺の床下を目指す。
「じゃあな、じいさん」
「ああ、おまえさんも達者でな」
 じいさんと呼ばれた三毛猫、助次郎は湿った土の上に香箱を作った。死期が迫り、爪が開いている。
 長命寺で死んだ猫は人間に生まれ変わる。
「ただいまー」
「助次郎かい」
「帰ってまいりました」
「助次郎」
 初老の男性は涙ぐんだ。
「これからお父さんを手伝って、一緒に瓦をふくよ」
「よろしくな」
 ふたりは家のなかに入り、部屋に明かりが灯った。

(了)

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