
Photo by
easytuning
【ショートショート】帰還
古めかしい玄関ドアが開いた。初老の男性に見送られ、ヨボヨボの猫が出てきた。。
まだ若くしっぽをぴんと立てた地域猫ロッキーが近づいてくる。
「よお、じいさん。歩けるのかい」
「まだ足腰は立つな。食欲は失せてしまった」
「あと何日だい」
「そうさなあ。三日」
「見送るよ」
老若二匹の猫は曲がりくねった坂をゆっくりとのぼり、長命寺の境内へと入っていった。この町の猫はみんな死ぬときには長命寺の床下を目指す。
「じゃあな、じいさん」
「ああ、おまえさんも達者でな」
じいさんと呼ばれた三毛猫、助次郎は湿った土の上に香箱を作った。死期が迫り、爪が開いている。
長命寺で死んだ猫は人間に生まれ変わる。
「ただいまー」
「助次郎かい」
「帰ってまいりました」
「助次郎」
初老の男性は涙ぐんだ。
「これからお父さんを手伝って、一緒に瓦をふくよ」
「よろしくな」
ふたりは家のなかに入り、部屋に明かりが灯った。
(了)
ここから先は
0字

このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。