【ショートショート】出張命令
燃料代の高騰により、電車も車も動かせば動かすほど赤字となった。運行停止が相次ぐ。
「交通手段がなければ、歩けばいいのだ。なんのための二本足だ」
と社長は秘書のオオツカに向かって言った。社長に就任したばかりで、いまは全国の支社に表敬訪問している最中なのだ。
「出張予定は変えないぞ」
オオツカはため息をついた。
「では、スケジュールはこうなります」
朝六時に出立し、十六時に宿泊地に到着。宿でミーティングアプリなどを用いて仕事。二十二時就寝。これを三日続ければ、宇都宮支社に到着する。
「よし。では余裕をもって四日前に出立することにしよう。前のりだ」
最初は苦しかったが、なんとか予定通り一日前に到着した。翌日、宇都宮支社を訪問する。社員たちは感激して社長を出迎えた。
ノートパソコンの画面にオオツカの顔が写った。
「次の予定は金沢支社ですが……四百キロあります」
「かまわん。旅程を組んでくれ」
社長は二週間かけて金沢支社に到着した。
会社のロビーに大きな液晶日本地図が設置された。つねに社長の現在位置が表示されている。
「すごいねえ」
と感心する者もいれば、
「こんな社長、いらなくない?」
と毒舌を吐く者もいる。
社長は旅を続けながら、商機を見出した。
いつものようにノートパソコンの画面にオオツカが顔を出すと、
「新しい事業部を立ちあげるぞ」
と言った。
「なにを始めるのですか」
「駕籠かきと飛脚だ。まずは基礎訓練からだな。社員たちに出張を命じろ」
(了)
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