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変な話『好きになった人達は、よくボタンの取れる人達』

 私が好きになった人達は、よくボタンの取れる人達だった。

 最初に私が恋心と言うものに気が付いたのは、小学二年生の時同じクラスだったコウタ君だった。
 コウタ君は、クラスでも人気者で活発な子であった。そして、フリースジャンパーの一番上のボタンが、取れて無くなっていたのだった。

 私は、コウタ君のボタンが、糸一本を残してぶら下がっている時から気が付いていた。その様子を私は、自然と目で追ってしまっていた。そして、ボタンが取れて無くなった時、私はコウタ君への恋心に気が付いたのだった。

 その次に好きになった人は、中学三年生の時。
 野球部だったユウキ君は、真っ黒に日焼けして、ゴツゴツとした体格だった。授業が終わるとエナメルバッグを豪快に肩にかけ、一目散にグランドへ走っていった。その時に、制服の袖のボタンが、ぶらぶらとぶら下がっているのがどうも可愛らしかったのだ。

 その次は、高校の卒業式だった。三年間同じクラスだったリョータは、頼りなくておマヌケな調子の良い奴だった。朝、一緒に登校した時には付いていたリョータの第二ボタンが、帰り道には無くなっていた時に、私は初めてリョータへの気持ちに気が付いたのだった。そこから私は無言で家に帰って、泣いたのを覚えている。

 でも、すぐに私は立ち直った。進学した大学の入学式で、まだ馴染まない茶髪の前髪をくねらす関口君を見つけたからだ。関口君はひょろりとした細身でスーツの袖のボタンがぶらんぶらんと取れかかっていた。

 思わず私が「ボタン」と関口君の袖を指差して声をかけると、特に驚くわけでもなく「お兄ちゃんのお古だから」とだけ言って涼しげな顔をしていた。
 関口君のお兄ちゃん呼びが可愛くて「家で縫ってきてあげる!」と言って私は関口君からスーツの上着を剥ぎ取り、強制的に翌日まで預かったのだった。

 大人になってからは、ボタンの取れている人物を探すのは、簡単な事ではなかった。大抵の良い大人は皆、漏れ無くボタンがしっかりと付いているのだった。
 そんな中、入社して三年目の会社で、私は一人だけ見つけた。総務部の木山さんだった。木山さんは七つ年上で、結婚しており、三歳になる子供がいた。

 木山さんのシャツはシワシワで、一つどころか、ほとんどのボタンがほつれているか取れてしまっていた。

「あぁ、息子がボタン好きで取っちゃうんだよ」とくたびれながらにっこり笑った木山さんの笑顔が可愛かった。堪らなくなった私は、その場で木山さんのシャツを剥ぎ取り、ビッチリと縫い付けてやったのだった。

 それから数日後、木山さんのボタンの件が社内に噂で広まっていた。社内の、私を嘲弄する視線に怯えたが、そうでは無かった。
 昼休憩に入る時、一年後輩の栗田君が紙袋を抱え私の前にやって来た。

「あの、このズボン、穴開いちゃってるんですけど縫ってもらえます?」

「あ、ごめん・・・私、ボタンしか付けられないの。ごめんね」

「そうですか・・・」そう言って栗田君は、肩をすくめズボンをクルクルっと丸めて紙袋に押し込んだ。その姿が愛おしくて可愛かった。しかし、ボタンは取れていない訳である。

「あ、待って。他にもあるの?」紙袋を指すと栗田君は気恥ずかしそうに頷いた。

「裁縫とかあんまりした事が無くて・・・」

「そうなんだ。しょうがない、見せてごらん?」

「ありがとうございます!これはポッケに穴が開いちゃってて・・・これは脇のところがほつれちゃって・・・」
 次々に出て来た。
 しかし、ボタンは一つとして取れていない訳である。
「え、そんなにあるのにボタンは取れていないの?」

「え・・・流石にダメですよね・・・」

「ダメっていうか、ボタン以外はダメなの」

 栗田君のシュンとした顔が可愛かった。
なのに、ボタンだけは取れていない訳であった。

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