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労働分配率を考える

前回までの投稿で、採用する人材にこだわった結果、よい組織状態をつくれている企業様を事例として取り上げました。
https://note.com/fujimotomasao/n/nad293da5b6ed
https://note.com/fujimotomasao/n/n03e77909bbab

同社様では、社員に支払う賃金の水準にも注意しているようです。具体的には、下記に取り組んでいると聞きます。

・一般的な賃金相場を、地域・業界を主な要素として調べ、自社の支払い水準と比較する。
・上記を、社外の人材や会社も使って調べてもらったり意見をもらったりする。
・四半期ごとに決算し、自社の決めた基準に沿って利益を賞与として還元する。賞与額は、全社の利益額と個人の貢献で決める。

従業員の側は、賃金相場の詳細なデータなど持ち合わせていません。ですので、自身の賃金がその地域や業界の水準と比べてどうなのかについて、細かいところまでは分析などしないでしょう。

その上で、「お客様は自身がお金を支払って購入する商品・サービスに実に敏感である」がごとく、「従業員は自身が受け取る報酬に実に敏感である」ものです。ここで言う「報酬」は、賃金(金銭)以外にも、その仕事を通して得られるやりがい、達成感、職場環境なども含まれます。それらの各要素を組み合わせて総合的に勘案し、その組織に在籍し続けるかどうかを決めているのです。消費者が、同じ売り手から買い続けるかどうかを総合的に勘案して決めているのと同じです。

加えて、同社様は地域に根差してエッセンシャルワーカーを雇用する事業を行っている会社です。こうした人たちは、仲間同士の横のつながりも充実している場合があり、情報交換も盛んだったりします。賃金動向に敏感に反応する人も多いでしょう。同社様としては、上記の取り組みを通して必要な賃金改定をこまめに行い、還元できるものは還元するという方針も徹底しているわけです。私自身も、以前ご依頼を受けて賃金について一緒に検討する機会がありました。

2月26日の日経新聞に、「夜明け前(5) 資本主義、危機が問う進化」というタイトルの記事が掲載されました。同記事の一部を抜粋してみます。

~~国際労働機関(ILO)によると、17年の世界全体の労働分配率は51.4%と04年から2.3ポイント低下。労働者に回る富は限られ、経済のダイナミズムが失われつつある。

共通の未来を描きにくい今、企業は社会における存在意義を自問する。「コロナ禍で優先したのは従業員と顧客の安全」。米ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOは1月、見本市のスピーチで強調した。~~

同記事を参照すると、労働分配率は1980年以降世界的に下がり続けているそうです。同記事で紹介されていた国で、2019年時点で60%(対GDP比)を超えているのはフランスだけ。米国は59%台。日本は56%台となっています。上記世界全体の平均を上回ってはいますが、先進国では低い水準となってきています。つまりは、企業活動で生み出された富が、他国に比べても働き手に還元されていないということです。

労働分配率とは、労働分配率=(人件費÷付加価値)×100で表せます。会社の生み出した付加価値が、どの程度労働の対価として支払われているかを示す経営指標です。労働の対価の支払いは経費の一部ですので、経営を維持するためには、この値を適正な範囲内に収める観点が必要になります。その上で、この値が高いほど、社員に収益還元している会社ということができます。

付加価値の正確な算出方法は複雑な面がありますのでここでは割愛しますが、ざっくり売上総利益(粗利=売上高-外部から調達した原材料などの売上原価)と捉えておけば十分と思います。労働分配率をGDPに対して考えるのであれば、国全体(企業や個人の集積)の経済活動で生み出した価値全体のうち、家計の収入としてどれぐらい行き渡ったのかを表していると、ざっくりイメージするとよいでしょう。

私たちは、賃金の多寡のみを働く理由にはしません。その上で、就業し続けるかどうかの重要な決定要因のひとつであることも確かです。同社様では、採用や人材育成への投資にこだわりながら、社員への金銭報酬の還元水準も敏感に調整しているということが言えるでしょう。

日本での労働分配率が低位に推移しているから自社もそれに合わせればよいという考え方もできますが、だからこそ高分配を謳えば自社の魅力のひとつとしてアピールできるという考え方もできます。賃金水準をどう捉えるかという面からも、同社様の事例は参考になるでしょう。

いずれにしても、労働分配率に対して自社としての基準となる考え方と目安の値を決めておくことは大切です。具体的な値は、自社の理念やビジョン、戦略、ビジネスモデル、業界他社をはじめとする外部環境を踏まえて考えることになります。

<まとめ>
労働分配率に対する自社としての基準と考え方をもつ。


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