ゲリラ雷雨に振り回される「夏祭り盆踊り大会」
このお話は、私の娘が小学生だった頃の「夏祭り盆踊り大会」のある1日を描いたものです。
一日中、不安定なお天気に振り回されてしまう子供達とその保護者達の不安な心情にスポットをあててみました。
★是非、冷たいお好きな炭酸ドリンクと屋台フードをご用意して頂きましたら、私達と一緒に夏祭りに参加してるような気分でお楽しみ下さい。
♦怪しい雲行き
「うーん。本当に今日は大丈夫かな?」
⌚5:00
私と娘は、朝から天気予報と真剣に向き合っていました。
今日は、娘の小学校の「夏祭り盆踊り大会」。
運が悪いことに、今日は朝からどんよりとした曇り空。
⌚開催されるのは、17:30
⌚開催するかを決める最終決定は15:00
担当の保護者達は、この日のために仕事の合間に学校に来ては、何度も会議を重ねて準備をしてきました。
そして、また子供達も年に一度のこの日を楽しみにしていたのです。
さすがに快晴は望めませんが、せめてこのまま曇り空のままでいてほしいと願うしかないのです。
「今年も、なんとか無事に開催できますように・・・。」
♦それでも準備は進んでいく
当時、娘の通っていた小学校の盆踊り大会は、びっくりするほど本格的な夏祭りでした。
私も役員になってみて分かったのですが、娘の通っていた小学校は、PTAの皆さんと地域の自治会の皆さんとの連携が強く、その上とても協力的なのです。
また、ご近所の商店街の皆さんがスポンサーとなって、毎年協賛金を出してくださるのでとても助かっています。
そんな皆様のおかげで、豪華な打ち上げ花火も上げられますし、保護者の売店の他にも外部からの屋台も数多く並ぶこともできます。
私は今まで自治会長、育成会会長、部会役員をやらせて頂きました。
その中で、皆さんが協力して一つのものを作り上げていく姿を見てきて、本当にありがたいなと感謝することができました。
人とのお付き合いが薄くなりつつあるこの世の中で、こうやって助け合っていくことは、それだけでも本当に素晴らしいことだと思います。
⌚前日16:00
私は前日の夕方から準備に入りました。
部会の皆さんと「駐車禁止」のポスターを学校外側に何枚も貼る作業です。
やはり、イベントを開催するにあたって、近隣に住んでいる方に迷惑をかけないように配慮しなくてはいけません。
こういう細かいところまできちんと気を使うことはとても大切なことです。
⌚翌日6:00
育成会ごとにテントの機材を建てていきます。
そして、お囃子のやぐらも組まれ、赤と白の可愛い提灯も飾られます。
あちらこちらから「ガン、ガン、トン、トン」と大きな音が聞こえます。
紅白幕も張られ、どんどん夏祭りの雰囲気になっていきます。
どんよりした曇り空でも、少しでも回復の可能性を信じて、保護者は子供のためにと準備を進めていくのです。
⌚7:00
カラフルなペーパーで作ったお花をアーチにつけていきます。
ちなみに、このお花は毎年育成会ごとに分けて皆で作っています。
皆の心がこもった大切なお花なのです。
そして、この時間になるとマイクのチェックも始まります。
「あーあーあー。こちらマイクのテスト中です!」
お決まりのセリフが聞こえます。
マニアックですが、私、意外とこのセリフ好きなのです。
マイクを持たされると、ついつい私も言ってしまいます。
皆さんはどうでしょうか?
⌚9:00
食品業者さんの車が次々に校庭に入ってきて、保護者による売店準備も始まります。
フランクフルト、やきそば、かき氷、冷たいきゅうりの一本漬けも・・・。
こういう場所で食べるフランクフルトって本当に美味しいですよね。
冷たいきゅうりの一本漬けも、塩分も水分も取れるので大助かりです。
⌚10:00
私は一時帰宅し、タイムリミットの15:00に本部の連絡が入るまで待機します。
でも、まだまだやることはたくさんあります。
この間に昼食、着替え、踊りのリハーサルをして、お弁当を注文しているお店に取りにいきます。
でも、外はやっぱり曇り空のまま。
「大丈夫かな?なんとかこのまま・・・雨が降りませんように。」
♦開催決定
⌚そして、運命の15:00
「開催することが決定しました。」
心配していた私達の育成会にも一本の電話が入ります。
「やったー!」
子供達も大喜びでした。
天気を確認したら、このまま曇りの予報。
しかも少し雲が切れて明るくなってきていたので、快方に向かうと思っていました。
でも、私達はあまくみていたのです。
天気には急変という危険な可能性があることを・・・。
♦予想外の展開に・・・
⌚16:00
子供達が次々と集合してきました。
盆踊り大会は育成会ごとに衣装が違います。
青と白のはっぴだったり、可愛い浴衣だったり、かっこいいスレンダーな衣装だったり、キラキラした衣装だったり。
とても華やかです。
この時間になると、外部からの屋台もたくさん並びます。
チョコバナナ、りんご飴、綿あめ、お面やヨーヨー釣り・・・。
そして、保護者の売店からも、香ばしい美味しそうな香りが漂います。
この香ばしい香りと甘い香り。
お祭りはやっぱりこういう雰囲気が一番ですね。
残念ながら、このときにはすでに曇りから小雨になってしまいました。
⌚運命の17:30
しばらくすると心配していた小雨もあがり、上級生のパフォーマンスが始まります。
花のアーチをくぐって上級生が「おー」と掛け声をかけながら、一気に駆け出してきます。
そして、「よさこいソーラン節」を力強く踊ります。
この「ソーラン節」は5、6年生だけが「盆踊り」と「運動会」で踊れる特権のような感じだったので、下級生からするととても憧れの踊りなのだそうです。
私は、昔「金八先生」のドラマで見たことがあって、力強くてとてもかっこいいなと思っていました。
⌚17:45
無事に開会式が始まります。
育成会のプラカードをもった生徒を先頭にしながら、すべての育成会の生徒が集まります。
入場行進が終わって、無事に開会式が終了します。
その瞬間、また小雨が降りだします。
⌚18:00
私達は、きっとまた止むだろうと思い、一時テントの中へ。
すると、また小雨が止んだのです。
⌚18:15
「よし、今度こそは大丈夫だ」と思った瞬間のことでした。
大粒の雨が、頬にポツン、ポツンとあたり始めました。
嫌な雷の音も聞こえてきます。
子供達が不安な表情をし始めます。
「うそでしょう。まだ、開会式までしか終わっていないのに・・・。」
⌚18:30頃
「ご来場の皆さんは、学校の昇降口へ避難してください!」
緊急アナウンスが流れます。
その瞬間、大雨がすごい音を立てて一斉に降りだしました。
大雨に濡れながらも、皆が一斉に走りだします。
私達も、子供達を連れて急いで昇降口へ移動させました。
「よかった、移動が速くて」
保護者からほっとした声があふれます。
雷の音もだんだんと大きくなってきます。
「ねぇ、ねぇ、ご飯は?お腹すいたよ。」
私は、低学年のお子さんから質問されて初めて気づきました。
とりあえず子供達を無事に移動させることしか考えていなかった私達。
荷物も多いため持つことが出来ず、お弁当はそのままテントの中。
「どうしよう。この大雨の中・・・。」
私達は迷うことしかできませんでした。
すると突然、一人のお父さんが大雨に向かって駆け出していくではありませんか。
それは、まるで「ゲリラ雷雨」という怪物に立ち向かっていく勇敢な戦士のようにも見えました。
その勇敢な姿に影響されたのでしょうか。
あちらこちらからたくさんのお父さん達が土砂降りの雨の中、テントに向かって走っていきます。
もちろん、主人も走って皆のお弁当を取ってきてくれました。
大雨に濡れながらも子供達のためにと一生懸命な男性の姿。
このとき、ここにいるすべての保護者は、この走っていく男性の姿に心を打たれたことでしょう。
⌚18:50頃
すべての教室が開放されました。
休憩所として自由に使っていいということになり、やっと夕食を食べることが出来ました。
かなり蒸し暑かったですが、とても助かりました。
こういうとき、早い判断をしてくれたことはとても嬉しかったです。
⌚19:00頃
「ピカッ。ゴロゴロ、ゴロゴロ」
すごい音とともに、あたり一面眩しい光に包まれました。
そして、つるされた提灯が光ると火花が走り、黒い煙があがりました。
あたりには少し焦げ臭い匂いが漂いました。
「えっ。何があったの?」
皆がざわざわと騒ぎ始めます。
幼いお子さんは、怖かったようで泣いてしまいました。
どうやら、雷が光っている電球に落ちたと聞きました。
でも、それだけでの被害で、他には影響を受けなかったのが幸いでした。
こういう災害の時は、本当に一瞬のことで、自分には逃げることしかできないのだと無力さと怖さを感じる出来事でした。
♦体育館での盆踊り大会
⌚19:30
ひどかったゲリラ雷雨もやっと落ち着いてきていました。
もちろん、グランドはぐちゃぐちゃ。テントはびちゃびちゃ。
今夜は外ではもう踊ることもできません。
「それでもやりたい!」
そんな一途な子供の気持ちに、保護者が力強く答えます。
「なんとか開催してあげたい!」
そして、一つの結論を出します。
「今からでも遅くないよ。体育館で盆踊り大会やりましょう!」
しかし、全校生徒ほどの子供の数とその保護者。
どうやったって全員で踊ることはできません。
そこで、時間を5分と決めて1グループごとに審査してあげることにしたのです。
そして、「日光和楽踊り」の軽快な音楽が流れ始めました。
今までと規模は違いすぎるほど違いますが、子供達の顔には笑顔があふれていました。
このときの私達は「キラキラスマイル賞」
そう私達は、たとえどんなことがあっても、笑顔だけは絶やさない、そんな明るい育成会なのです。
♦雨上がりの感動の花火
⌚20:10
踊り終わった子供達に、今日一番の嬉しいお知らせが入りました。
「予定通り花火をやります。グランドに集合してください!」
あんなにひどかった大雨もすっかりやんでいました。
大きな打ち上げ花火は、盆踊りのクライマックスです。
毎年、花火師さんに綺麗な花火を打ち上げてもらっています。
「ヒュー・・・ドカン」
雨上がりの夜空に、色とりどりの大輪の花が咲き乱れます。
雨上がりの夜空は、とても空気が澄んでいて、いつも以上に花火が綺麗に見えました。
綺麗な花火を見ながら、私は今日のことを一つ一つ思い出していました。
本当に今日一日でいろいろなことがありました。
でも、今日の私の一番の願い事は「無事に開催できること」
この願いが本当にかなったことにほっとしていました。
そして、この願いがかなったのは、この1つのイベントに向けて、皆さんがお互いに助け合うことができたからなのです。
私は、今日という1日が無事に終わることに、とても感謝していました。
「今日の花火、今まで一番、綺麗だなぁ」
そんな私の瞳に映る花火は、この時は涙で少しぼやけてキラキラして見えました。
♦夏祭りの水彩画
そして、私は今「夏の記憶」という水彩画を描いています。
私が幼いときの「懐かしい夏の記憶」と「娘との夏祭りの記憶」とを重ね合わせています。
暑い夏には絶対に飲みたくなる炭酸飲料。
あの、口に入れたときに、ジュワーとはじける感覚。
そして一口飲んだ後の爽快感で、思わず声が出てしまって笑ってしまう瞬間。
昔ながらの懐かしい玩具売り場。
ふわふわの綿あめと一緒に売られているお面の数々。
ドリンクが入っていたプラスチックの箱を逆さにして、無造作に置かれた麻の葉の手ぬぐい。
そして、夏から秋まで彩るカラフルなゴシキトウガラシ。
私にとって、どれも懐かしい夏の記憶です。
そんなことを思い出していたら・・・。
「ヒュー・・・ドカン」
この音は・・・もしかして・・・。
私と娘は家の中で音の聞こえる方向を探します。
「ヒュー・・・ドカン、パチパチ・・・パチパチ」
そして、家の2階から南の窓を開けて、一生懸命に夜空を見上げます。
すると屋根と屋根の間から、かすかに綺麗な花火が見えました。
「わー、やっぱり花火だ。すごくきれい・・・。」
そしてしばらくの間、娘と二人で夜空にあがる鮮やかな大輪の花火を見つめていました。