だれの満足のために生きるのか。
#20240909-460
2024年9月9日(月)
まだ提出していない夏休みの宿題がある。
始業式が先週の月曜日だったため、ノコ(娘小5)はまる1週間やらなかった。
週明けの今日。
登校するノコに宿題に必要な3つのものを今日こそは学校から持ち帰るよういった。
「知ってるし!」
そういって威勢よく出て行った玄関ドアを6時間後に開ければ。
「あ! 忘れた」
開口一番それかい。
ママの顔に宿題が書いてあるのかい。
「はい、じゃあ、すぐ取りに行ってらっしゃい。今日の宿題で持ち帰り忘れているのもあるかもしれないから、それを確認してからのほうがいいかな」
ノコが玄関ドアを荒々しく閉める。冗談でなく、家が震える。
「行かないから!」
「さすがにもう提出しないと。先生としたお約束と違うよ。先生だって、いつまでも待ってくれないよ」
ランドセルをドンッと玄関に放り投げ、洗面所で水を跳ね散らかしながら手洗いとうがいをし、怪獣のような足音を轟かせて居間に突進する。
「行かないから!」
ギロリと私を睨む。
子育てをしていると、八つ当たりというか、なぜ怒りをぶつけられなければいけないのかわからない場面が多い。
遅れても提出すると担任教諭と約束した宿題を出さなければ、学校で困るのはノコ自身だ。約束が果たせるよう手助けしようとすれば怒りを投げつけてくる。動物園のチンパンジーの檻にあった「うんちを投げることがあるので注意してください」という看板を思い出す。
一歩でも提出に近付くと思ったが、いらぬ老婆心であったか。
「習い事がない今日のうちに終わらせたほうが楽だと思うけど。あなたが今日はやらないと決めたのならもういいません」
ノコの問題だ。
ノコにやる気がなければ、たとえ必要なものを持ち帰っても仕方がない。
ランドセルから計算ドリル、漢字ドリルと今日の宿題に使うものを1冊ずつ出しては、それらをノコはテーブルに打ちつける。
バシッ、バシッ。
私の様子を窺っているが、私はあえて反応しない。
「パパとママは私がどうすれば満足するわけ! 取りに行けって、それって命令!」
聞き捨てならぬ台詞が飛び出し、さすがに私も聞き流せなくなる。
ノコに向き合おうと振り返ったタイミングで、インターホンが鳴った。
時計を見れば、見積もりを依頼していた業者さんが来訪する時刻だった。
「そのことは、あとで話しましょう」
私ははっきりとノコに告げる。
玄関ドアを開けながら気持ちを切り替える。
やけに愛想のよい声が出て、自分でもちょっとギョッとしてしまう。
業者さんが提示した見積もり額を確認していると、職場からむーくん(夫)が帰ってきた。玄関先の人口密度が一気に高くなる。
名刺を受け取り、業者さんを見送ると、私は再びノコがいる居間へ戻る。
「ノコさん、さっきの話だけどね」
体を揺らしながら宿題をしていたノコがぴたりと動きを止める。
「あー」
首を何度も傾げる。
「大事なことだから、きちんと話したいのだけど」
「あー、それー」
あらぬ方向へノコは目をやる。
「もー、いいわー」
よくない。いいはずがない。
「パパとママを満足させるために、ノコさんがいるわけではないです。ノコさんはパパとママを満足させるためにすることはない。あなたがあなたを満足させるようにしてください」
「あー」
ノコがうるさそうに手を振る。コバエでも追いやるかのようだ。
「ハイハイ、わかりましたぁ」
売り言葉に買い言葉だったのだろうか。
日頃から私たち夫婦を満足させねばと考えているわけではないのだろうか。
確かに親の様子を窺うことはある。
それはどちらかといえば、ノコ自身も「やってはいけない」ことを「やりたい」というときだ。
きっとパパとママはさせてくれない。
お家のルールにも反する。
わかっているけど、それでも、やっぱりダメでもいいからいってみたい。
常日頃からノコが親の満足させねばと意識しているわけではないと思いたい。
そんな圧力を知らずにノコにかけているだろうか。
まさか、そんなことないよね。
自分の言動を振り返ってしまう。