子ども、季節も。すべては移りゆくのだ。
#20240903-459
2024年9月3日(火)
ノコ(娘小5)が通う小学校は、昨日が始業式。
今日から給食もはじまり、授業もすぐ通常運転。
8月の最終週にあった3日間の午前授業がある意味、学校生活の助走だったのかもしれない。
長い夏休み明けだ。
学校と習い事がある日常に少しずつ慣らしていくのと、即切り替えるのとどちらがいいのかは難しいが、心と体がついていく子どもならばすぐさま日常に戻したほうがいいように思う。ハードに見えるし、それをサポートする親側も大変なのだが、サイクルに勢いがつくのか、まわりだしてしまえば感覚を取り戻すのがはやい。
今日は学校の6時間授業と習い事だ。
学校から帰宅した1時間後には家を出なければならない。
はやめの夕飯を作りながら、GPSでノコが学校を出たか確認する。
1学期がおわる頃には、ようやく連絡帳に宿題の内容を書き写し、必要なものを持ち帰る習慣がついてきたが、それを持続しているかは怪しい。
「ただいまぁ~!」
玄関でノコの背中からランドセルを受け取る。ノコが洗面所で手洗いとうがいをしている間に、連絡帳を開く。そして、宿題に必要なものがランドセルに入っているか確認する。
「4時には出発だからね。夕飯はチャーハン」
「ええええええ、おやつ、食べちゃダメなのぉ」
習い事の前にはおやつではなく、少しでも食事をお腹に入れてほしいが、おやつはノコの原動力でもある。
「食べてもいいけど、チャーハンも少しは食べてね。習い事のあいだ、もたないよ」
ノコは霞を食う仙人かと思うほど燃費がよいので、もたないことはない。それでも伸び盛りなので親としては食べてほしいと願ってしまう。
「はーい」
おやつの袋を開けながら、ノコは宿題のドリルやノートを広げた。
「ママママ、ママママ、これ、わかんない。どうやればいい?」
ノコと私が習い事で不在のあいだにむーくん(夫)が職場から帰る。温めれば食べられるよう、むーくんの食事を盛り付けている最中だ。
「えっと、先にパパのご飯を用意させて!」
「んー。あ! わかったから大丈夫」
むーくんの夕飯を冷蔵庫にしまったところでノコがいう。
「ママママ、丸つけして」
計算ドリルは全問正解。
次に漢字ドリルをはじめた。
チャーハンを食べるよう声を掛けたが、おやつを食べた直後なので食べる気がしないらしい。すぐに皿を押しやってしまう。
「先生がねー、1学期より厳しくするんだって。ゲーだよね」
漢字について4年生までの担任教諭は正確さを重視し、丁寧さはあまり求めなかった。5年生に進級し、今の担任教諭になってから、字が乱雑だと書き直しとなる。漢字は書けばいいと思っていたノコは、それこそ書き直しの赤い印がいっぱいのノートに怒り、1学期のあいだはよくドリルやノートを力まかせに折り曲げたり投げたりしていた。
「ねー、ママぁ、見て。これ、キレイ? これなら先生も書き直しっていわない?」
ノートを見ると、今までに見たことがないほど丁寧な漢字が並んでいた。書写の硬筆でもここまで注意深くノコは書かない。
「うわっ! すっごくキレイ!」
私がのけぞって驚くと、ノコは鼻の穴を自慢げにふくらませた。
「だってさ、書き直すの面倒じゃん」
その面倒な書き直しをノコは「先生がどれをダメっていうかわかんないし」といって1学期のあいだは丁寧に書かずにいた。
どうした?
どんな心境の変化があった?
出発の時刻になり、宿題は途中のまま習い事に向かった。
ふとスマートフォンを見ると、学校からの連絡が入っていた。今日の計算ドリルの宿題は未習範囲だったためなしとある。
――遅いよぉ。もうやっちゃったよぉ。
大人から見れば、先に済ませたのだから、のちに宿題となった際にやらずに済むため「お得」となる。「終わらせてよかったね」となるが、見通しがきかないノコは「やって損した!」と爆発する。
習い事がおわった帰り道。
ノコの憤怒に身構えながら、私は口を開く。
「ノコさん、あのね、怒るかなぁ。怒るよねぇ」
なにをいわれるのかとノコの目がきょときょとと揺れる。
「あの後、先生から連絡があってね。今日の計ドの宿題はまだ習ってないからやらなくていいって。損してないんだけど、むしろお得なんだけど、やっぱりやって……損した?」
腕を組み、ノコがじっと夜空を見上げる。その頬がゆっくりとゆるむ。
「みんながやるとき、やんなくていいんだから、ラッキー!」
子どもって、ちゃんと成長するんだ。
心配しなくてもちゃんと認識が変わるんだ。
「損した」と地団太を踏まないノコ。
丁寧に漢字を書くノコ。
それが明日もそうとは限らないけれど。
また現時点だけの損得で怒りをぶつけたり。
また乱雑に漢字を書いて、書き直しとなってまわりに当たり散らしたりするのだろうけれど。
それでも、少しずつ――あんなに酷暑続きだったのに、秋の気配が漂ってくるように。
すべては移りゆくのだ。