大事なお菓子だって忘れるんだから!~ハロウィンの夜の忘れ物~
#20241031-486
2024年10月31日(木)
ハロウィン。
里子のノコ(娘小5)と一緒に暮らすようになって関わるようになった行事だ。
私が子どもの頃は身近ではなかった。はじめは洋画や外国の児童文学、絵本で知ったのだと思う。その後、テーマパークでハロウィン・イベントが催され、関連グッズが街に増えてきた記憶がある。
委託直後。
同じ幼稚園バスを利用していた母親からハロウィンの衣装が決まったかと尋かれたときは驚いた。ハロウィン当日は仮装して登園するという。ノコは年長児での入園だったので知らなかったのだ。インターネットで手ごろな価格の衣装が購入できたからよかったものの、どうしようかと慌てた。
吸血鬼や魔女、ディズニーやゲームのキャラクターに扮した園児たちが近所のお店を「トリック・オア・トリート」とまわり、お菓子をもらうのだという。
9月の十五夜が過ぎると、街はハロウィンとなる。
どうも私のなかに定着していない行事らしく、毎年準備がギリギリになっていたが、今年は違う。
スーパーにハロウィン向けのお菓子が並んですぐに購入した。
お化けやカボチャのジャック・オ・ランタン、骸骨のイラストのパッケージに包まれたチョコにクッキー、お煎餅、キャンディ。
小学校にはお菓子を持っていけないが、習い事先ではお咎めなしだ。
お菓子大好きっ娘のノコはもらいたいし、配りたい。
人数分の袋にお菓子を詰めるのは手間だが、ノコは「ママ、やって」と私に丸投げだ。「配りたいなら手伝いなさい」といいたいが、学校の宿題をまずは済ませてほしいため、いえない私がいる。
習い事から帰ると、夜も遅い。一刻でも早く入浴して寝てほしい。そのためには学校の宿題を全部とはいわないが、ある程度終わらせねばならない。
早めの夕飯を食べると、ノコはお菓子を手に習い事へ向かった。
最寄りのバス停から家までは暗いため、私かむーくん(夫)が迎えに行く。
今日はむーくんがバス停へ向かった。
ややして玄関ドアが開き、むーくんの声が聞こえた。
「ただいまぁ」
「おかえりぃ」
そういって居間のドアを開けると、無言で入ってきたノコがそのままバタリと床に倒れた。
うつ伏せの姿勢のまま、微動だにしない。
――なに? なにごと?
むーくんを見ると、肩をすくめて笑っている。
以前、ノコが習い事先でお菓子を配ったら、受け取ってもらえなかったことがある。これはノコの言い方も悪く、「どうぞ」ではなく「いる?」といったという。相手の子どもからしてみれば、「いる?」と尋かれたから「いらない」と返しただけなのだろう。全員がノコのようにお菓子にがっつくわけではない。しょぼくれてノコは帰宅した。前回「どうぞ」というよう伝えたが、今日はバタバタしていたため念を押すのを忘れてしまった。
また「いる?」といってしまったのだろうか。
ノコは情緒が少し幼い。習い事先の女子たちの含みのあるやりとりがわからないことがある。それで時折浮いてしまう。
だれかがお菓子を配れば、ノコは絶対「チョーダイ、チョーダイ」としつこく迫るだろう。それが鼻につき、お菓子をもらえなかったのだろうか。
お菓子を受け取ってもらえなかった。
もしくは、お菓子をもらえなかった。
瞬時にそのふたつが浮かび、ノコになんて声を掛けようかと躊躇ってしまう。
「お菓子をさ、バスに忘れたんだとさ」
むーくんが吹き出す。
「バスを降りてすぐに気付いて、『パパ、追いかけて』って叫んだけど、さすがに無理だしなぁ」
ノコが「うるさい」とばかりにうつ伏せになったまま、体を揺らした。
「お菓子ぃー、お菓子ぃー、お菓子ぃー」
私はバス会社のWebサイトを検索し、営業所の窓口時間を調べた。
「もうバスの会社は閉まってるねぇ。明日の朝一に電話してあげるから」
ノコのお尻をぺしぺしと叩く。
「ほれ、早くお風呂に入りなさい」
「お菓子ぃー、お菓子ぃー、私のお菓子ぃー。食ぁべぇたぁいいい!」
じたばたとノコは両腕両足をばたつかせた。
「はい、お風呂!」
ぺぺんぺんとリズムよく叩くと、ノコがおどけてお尻を左右に振った。
「マァマ、マァマ、抱っこぉ~」
たいして体格差のないノコを私は膝にのせて抱き締める。
大事な大事な大事なお菓子ですら忘れるのだから、水筒を忘れるなんてノコにはおちゃのこさいさいだ。
ノコは小学5年生になってから既に2回水筒をバスに忘れている。
バスの営業所は我が家から不便な場所にある。引き取りに行くのは億劫だ。
むーくんは肩を震わせて笑っているが、お菓子が見つかれば身軽に自転車を走らせて取りに行ってくれるのは、だれでもないこのパパなのだ。