娘は人生経験の少なさから予想外の見立てをするけれど。~「外科医エリーゼ」から~
#20240616-416
2024年6月16日(日)
ノコ(娘小5)と見ている世界が違うことには、気付いていた。
ノコの受け取り方は予想外のことが多く、「そうとらえるのか!」と度々のけぞっている。
10歳の経験では、読み取った情報をもとに立てる予想が粗いのは仕方がない。仕方がないが、ノコの場合は粗いどころでない。筋違いもいいところだ。
こんなふうに周囲の出来事を解釈しているのなら、誤解も多いだろう。
友だちとの意思疎通はどうなっているのだろう。
最近、ノコは「外科医エリーゼ」というアニメ番組を好んで観ている。
シーズン1のエピソード8でのことだ。
テレサ病院の最年少教授であるグレアムが休みを取って自邸に引きこもってしまう。
体調不良でないと知り、エリーゼは自分が身分を偽って、グレアムのもとで医術を学んでいたことに気分を害したかと胸を痛める。
謝罪しようとエリーゼはグレアム邸を訪れる。
グレアムには幼い頃から仕えている年老いたメイド、ヨーデルがいる。ヨーデルが用意したお茶をエリーゼが飲んでいると、そのヨーデルが下腹部を押さえて倒れてしまう。痛みに顔をゆがませるヨーデルをエリーゼとグレアムは馬車で病院へ搬送する。
実は、現在のエリーゼは3度目の人生で、前世は現代日本で有能な医師だった。
馬車のなかでエリーゼはヨーデルを診察しながら、かつての知識を巡らせて原因を探る。緊迫した音楽が流れるなか、エリーゼは早い口調でグレアムにいう。
次から次へと登場する単語をノコは頭のなかで医学用語に変換できているのだろうか。
「ノコさん、意味わかる?」
「え、赤ちゃんできちゃった!」
ノコには、ことあるごとに本や日常会話を通して性教育をしている。改まってしようとすると、ノコが嫌がるのでさりげなく話題に挙げて説明したり、ノコの考えを聞いたりしていた。
小学5年生ということもあり、学校でも生理の説明があった。成長の早いクラスメイトはノコより体型の変化が大きかったり、すでに生理がはじまっていたりする。
だから、ノコはそれなりに理解していると思っていた。
――やはりそうはいかないかぁ……
思わず苦笑してしまう。
ソファーにノコと並んで番組を見ていたむーくん(夫)は、笑いを嚙み殺すように天井を仰いだ。
ヨーデルがグレーヘアであること。実際、現在大人であるグレアムが子どもの頃から仕えている描写があったことからも、だいぶ老齢であることがわかる。
またパートナーらしき男性が登場していないこと。
それらから、ヨーデルの妊娠を導くのはかえって難しい。
エリーゼが早口で連ねた単語は、ノコの頭には意味を持ったものとして入ってこなかったのだろう。
「腸があるべき場所からはみ出ちゃって、そこが腐ってくると、穴が開いちゃうことがあるの。そうすると、お腹のなかにバイ菌が散らばって、死ぬかもしれないほど大変なことになっちゃうのね」
私も医学を学んだわけではないので、この説明が正しいかはわからない。
「赤ちゃんができたわけじゃないよ」
それでも、そこは念を押しておく。
「ヨーデルさんは、グレアム先生が子どものときからお仕えしているメイドさんでしょ。髪もグレーだし、だいぶおばあちゃんだよね。妊娠はできないと思うよ」
「確かに!」
どこまで理解したのか怪しいが、ノコは大きくうなずいた。
そういえば、70歳の妻が妊娠、出産する「セブンティウイザン」という漫画もある。TVドラマ化もされた。*
これは作り話ではあるが、医学の進歩とともに、高齢だから出産できないといい難くなってきた。高齢という年齢も説明が難しい。
経験を重ねることでそれをもとに予想し、理解を深めるが、これからの世の中では私がしている「予想」が的外れになる時代がくるかもしれない。その予想を立てた筋道をノコに教えるか……ちょっと悩んでしまう。
笑ってしまうような私にとっては予想外の「予想」であっても、ノコなりの予想の立て方を経験していくほうがいいのだろう。
結局、グレアムは正体を隠していたエリーゼに怒っていたわけではなく、エリーゼの才能に刺激を受け、さらなる勉学、研究に没頭していただけだった。
相手の年齢、性別、身分に関わらず、刺激を純粋に刺激として受け止め、自分を奮い立たせて邁進するグレアム先生のようでありたい。
はぁ~、見習わないと!
*「セブンティウイザン」:タイム涼介による日本の漫画。2020年にNHK BSプレミアムでドラマ化。ドラマのタイトルは「70才、初めて産みますセブンティウイザン。」。