
朝の景色。~淡々と、淡々と娘を見送る~
#20240702-427
2024年7月2日(火)
ノコ(娘小5)は、朝が弱い。
夜更かし気味なので本当に弱いのかは怪しいが、居間に来てもソファーに横になってぼんやりしている。
動き出すまで約1時間かかる。
ノコは無言のまま、重いまばたきを繰り返しつつ、TVのニュースを眺めている。
TVがついているからいけないのだろうか、と消したこともあるが、黒い画面でも眺めているのでこの時間帯のノコはTVがついていようが、ついていまいが関係ないのだと悟った。
大人は一日のはじまりに天気予報やニュースを見たい。だから、ノコの朝食の時刻まではつけている。ただその時刻になってもノコはまだパジャマの姿でソファーにいる。TVが消えても動かない。
少し前までは、私もあれこれいっていた。
「早く着替えなさい」
「いい加減、服着て。ほら、ご飯食べなさい。せっかく焼いたパンが冷めちゃってるよ」
「あと30分しかないけど、大丈夫なの!」
そのたびに、ノコは私を睨む。
ようやく家を出る時刻直前になって、ノコは動く。
もともと早く食べる質ではないのに、飲むように朝食を口に突っ込む。
「歯も顔も洗わないで登校なんて、ママは嫌よ」
「だって、朝ごはん残したら、習い事辞めさせられちゃう!」
ノコが怒鳴る。
規則正しい生活を身につけさせたくて、むーくん(夫)がノコにいったのだ。
――朝ごはんも食べられないようなら、ハードな習い事を続けさせるわけにはいかない。
いや、それなら1時間前から居間にいるのだから早く食べはじめればいいだけだろう。こんなギリギリに食べはじめて、まるでパパが悪いようにいわないでほしい。
前日から用意するよういっているのに「あとでするし」といったまましていない給食セットを私が用意し、濡れタオルでノコの顔をぬぐい、雑に歯磨きをするノコの髪をブラシでとかす。玄関でランドセルを背負わせ、黄色い通学帽を頭にのせる。
手伝いたくないのに、手伝うはめになる。
ノコは私の手から登校班の班旗を奪うと、感謝の言葉ひとつなく飛び出していく。
「明日はもっと余裕をもってよ!」
ついその背に叫んでしまう。
これがこのあいだまでの我が家の朝の景色だった。
何をいっても睨まれ、疎まれ、恨まれる。
それなら、いっそ何もしないほういい。
このところ、私はノコを起こすものの、その後、声を掛けるのは2回に留めている。
「7時になったからね」
「あと10分だよ」
それだけだ。
朝食の時刻になったら、ノコの朝食を用意する。あとは自分のタイミングで食べればいい。
トーストした食パンが冷めても気にしない。
自分のためにコーヒーを淹れ、ノコに背を向けてローテーブルに向かう。日記用の手帳を広げて、昨日のことをまとめる。今日の予定を確認し、何をどの順番ですべきか決める。
洗濯機の終了ブザーが鳴れば、取りに行き、洗濯物を干す。その間、私はノコを見ない。
下手に目が合えば、着替えや朝食にまだ着手していないことをごまかすためか、ノコはふざけて見せる。そこで笑みを返せば、「やんなくてもママは怒らないんだ」とノコは学習する。
私は何もいわないが、なかなか着替えないこと、食卓につかないことを決して快く思っているわけではないことは態度で示さねばならない。
「ママママ、ママママ、ぎゅうして」
そういわれれば、ノコを膝にのせて抱き締める。だが、甘い言葉は吐かない。
バタバタと出発10分前にノコが食卓につき、口に詰め込む。
「間に合わない!」
叫んでも、反応しない。下手に返せば、パパへの悪態がはじまる。
もう顔も拭かないし、髪もとかさない。
ただ玄関でのお見送りはする。
「いってらっしゃい。気を付けて」
――ふぅ。
淡々と見送るのも楽ではない。
ただ心配のあまり小言をいい続け、ノコに睨まれたり、怒鳴られたりするよりは私の精神衛生上よい。
朝起きてからぼうっとする時間が必要ならば、するなとはいわない。
それならば、ぼんやりする時間も含んだ時刻に起床すればいい。
何度も何度もノコにはいっているが、そのこととノコの現実がつながる日は来るのだろうか。
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