2024年8月に読んだ本まとめ【読書感想文】
※あらかじめ断っておくと、これから述べる感想には容赦ないネタバレを含むどころか、あらすじや内容を説明するのが面倒臭いという筆者の怠慢によりこれを読んでいる貴方がその本を通読しているという前提で話が進む可能性もあるので、これからその本を読みたいと思っている方々は速やかにブラウザバックしてください。まあ最低限説明しなきゃいけない部分は極力するようにしますが。
8月の読書記録(ログ)
池田 達也/著『しょぼい喫茶店の本』(百万年書房)
就活に失敗した学生が起業して喫茶店を経営するまでの様子を描いたドキュメンタリーチックなノンフィクション。
この本は2年前ぐらいに渋谷のスクランブルスクエアにあるTSUTAYAで見つけた。冒頭の「僕は働きたくなかった。」という一文を読んで、気付いたら買っていた。当時の僕は働きたくなかったからだ。謎の共鳴を感じた。
今でいうX(旧Twitter)を起点に、いろんな人からの支援を受けながら喫茶店を開業するという流れで、店を開くにあたっての具体的な苦労なども書かれており、これから起業したいとか、飲食店を経営するつもりがある人とかは読んで参考になるんじゃないだろうかと思った。
著者の方には力を入れずにゆるゆると生きたいという思いが根底にあり、それが出来るだけ働きたくないということに繋がっているようだった。
僕は個人的にはどこかで苦痛を感じる覚悟なくして成功は確約されない、という考え方の人間なので、著者の方が望む「出来るだけ楽に働ける世界」にはたしかにかなり憧れるけれども、やっぱり著者ご自身で経験されたように艱難辛苦の末にだけしかその世界は存在し得ないし、それでいて永続的にその世界が存在するわけでもない、と思う。
読み終えた後に実際にこの「しょぼい喫茶店」というお店のことを調べてみると、2020年2月にすでに閉店しているようで、やっぱりなんというか飲食店経営の難しさ、人生のままならなさを感じてしまった。
まあでも僕は絶対にそういう起業みたいなことはやれないし、X(旧Twitter)をはじめとしたSNSを全面的に信頼する気持ちになれないので、店を自力で開こうとし、そして実際にそれをやってのけたという行動力には素直に敬意を表したいと思う。
金原 ひとみ/著『アンソーシャル ディスタンス』(新潮文庫)
ここ最近読んだ小説の中で一番面白かった。どんな小説ももともと特別なOnly oneの価値を持っているはずだからそこに優劣をつけてしまうのは我ながら野暮だとは思うが、それでもやっぱりここ最近の中で一番面白かったと言いたくなるようなものを読んだ。
心を病んだ恋人との生活にやり切れなくなってアルコールに頼る女、推しのライブが中止になったことによる絶望から彼氏を心中に誘う女、孤独感から性欲と激辛欲が昂進する女など、生きづらさを抱える女性たちが暗鬱とした世界の中でもがきながら生きていく姿が鮮烈に描写されている。
20~30代ぐらいの比較的若い女性の感情を暴力的なまでのリアリティで、こんなにも解像度高く、巧く描写出来るのは流石としか言いようがない。って、まあ僕は男なんだけどもその透徹した筆致を目の当たりにするとここに書かれているのは剥き出しの女性の感情以外の何物でもないのだということを嫌でも実感させられる。
ストロングゼロ、アプリの「ゼンリー」などの俗物的な舞台装置を用い、生々しい性描写を交えながらも物語の奥底に深い精神性を感じさせる点には高度なプロフッェショナリズムを感じた。
この『アンソーシャル ディスタンス』は5つの短篇から成る本なのだが、そのうちのひとつ「コンスキエンティア」という、不倫をテーマにしたお話にこんな文章が出てくる。
先日金原ひとみ氏が出演されていたNHKの番組で、この台詞は自身が実際に言われた言葉をもとに書いたと仰っていた。
人生の中でこんな言葉言われることある?やはり一流の作家の方は豊富な人生経験をされているからこそこんな面白い小説が書けるんだな~と思っちゃった。
僕なんか同じ「日傘」を題材にしてもそれをもとに連想、創造出来るものといえば…………
え~日傘……日傘……
「好きな女に、日傘を差してあげてる男がいたんですよ~」
「なぁ~にぃ!?やっちまったなぁ!!」
「男は黙って……」
「ビーチパラソル!」
「男は黙って……」
「ビーチパラソル!」
「水着着てないと映えないよ~😩」
阿呆みたいな寸劇しか思いつけなかった。
真面目な話に戻そう。個人的な読んだ感想をあらためて述べると、心の中をグチャグチャにされながらも、どこか本能的に自分は心をグチャグチャにされることを求めていたのかもしれないという異質な満足感を感じた。
たぶんまた何かの機に再読して感想文を書くと思います。
金原 ひとみ/著『パリの砂漠、東京の蜃気楼』(集英社文庫)
すっかり金原ひとみ中毒になってしまったのでエッセイも買った。文庫版が刊行されたのが2023年4月ということで、わりかし最近の本のようだ。
パリで過ごした何年間かと、東京で過ごした何年間かの日々を綴ったもの。文章全体にひたすらダウナーな空気が流れているが、決して読む者を辟易させずにむしろ惹き付けさせるのは、その独特でシニカルかつ鋭利な視点がとても格好良く思えるからだ。
上記の引用文のように過剰な自己否定をしたり、希死念慮に悩まされたりと、ご自身も相当な生きづらさを抱えておられるようだが、それを原動力に小説を執筆しているみたいなことも書かれていて、そこにひとつのロールモデルを見出すことが出来た。
自分もこんな格好良い文章を書きたいという憧憬を抱かずにはいられない。
まあでも、こういう感想文を書いてる時に何の脈絡もなくクールポコを登場させてる時点で僕なんか遠く及ばないですが。
しかしそれにしても金原ひとみ氏の周囲には不倫や浮気をしてる女友達が多過ぎやしないだろうか。だからこそあんな生々しさを兼ね備えた小説が書けるんだろうけど。
あんまり食指が動かなかったAmazon audibleも、氏が書かれた『ナチュラルボーンチキン』という作品が先行配信されているということで聴いてみたが、やはりこれもいい。日笠陽子氏の語り口が絶妙に心地よすぎて最近寝る前によく聴かせてもらっている。
佐久間 宣行/著『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』(集英社)
僕は何を隠そう佐久間Pのラジオのヘビーリスナーなのでね。番組開始からほぼずっと聴き続けているので、佐久間Pのことはわりと信頼している。
この本によれば、佐久間さんは自分は決してポジティブではなくネガティブなタイプだが、逆にポジティブでないからこそ色々と頭を使い、ここまでやってこれたのだと言う。
全体を通読してみて、やっぱり佐久間さんってめちゃくちゃに仕事の出来る人なんだなと思った。
良い意味で計算高いというか、計算能力がめちゃくちゃ高いんだけど、その背景にあるのが出世欲とか金銭欲とかそういうがめついものではなく、円滑に人間関係を構築して自分も周りも「ごきげん」に仕事を出来るような環境にしたいという"善性の欲"を起源としたものだから上手くいっているというか、後輩とかから慕われてるんだろうなと思った。
佐久間さんみたいな上司が職場にいたら雰囲気良く働けるんだろうな。
クルー(リスナーの呼称)としてこれからもラジオ聴き続けます。あと奇跡的にご本人がこのnoteに目をつけて大々的にプロデュースしてくれると非常にありがたいですね("悪性の欲")。
近藤 雄生/著『吃音:伝えられないもどかしさ』(新潮社)
この本に関しては、ここではなくまた別の記事でひとつのテーマとして真剣に、また緻密に感想を書きたいので今回は少しだけ述べるに留めておく。
自分は当事者ではないのだが、三島由紀夫の『金閣寺』を読んでからずっと、自分が抱えている悩みに通底するものを『吃音』に感じていたので読んでみた。
著者曰く『吃音』には2つの特徴があるという。ひとつはその「曖昧さ」。そしてもうひとつはそれが「他者が介在する障碍である」ということ。
これらの点を鑑みても、とても一朝一夕で解決できる問題でないことは明らかだ。
僕はこの先、自分なりの表現を通してこの問題をたぶん一生考え続けると思う。そしてそれは明確な答えを持つものではなく、とても曖昧な表現形態でしかアウトプット出来ないものでもあるのだと薄々感じている。
だからこそどうしても、この世界には文章と、それを書くための時間が必要なんだ。
筒井 康隆/著『くたばれPTA』(新潮文庫)
筒井康隆の短編集は病院の待合室などの隙間時間に読みたくなるので、外出する際はなるべく鞄の中に忍ばせるようにしている。今回は飛行機の中で読んだ。
挑発的なタイトルの表題作を筆頭に、ブラックユーモアや諷刺が利いていて痛快な短篇が数多く収録されているが、現代の時代にそぐわない表現も多々あり、もしフェミニズム団体とかが力をつけてこの先巨大化していった場合にこの本が禁書扱いされてやがて全国から焼却処分されてしまうんじゃないかと心配になりもする。
でも面白かったので個人的には無問題。
僕のお気に入りの話は『落語・伝票争い』と『猛烈社員無頼控』です。『2001年公害の旅』は先のコロナ禍を暗示しているようで、やっぱり筒井康隆って実はすごい先見の明を持った作家なんじゃないかと思わされてしまう。
時には古い時代の小説を読むのも逆に新鮮さを感じられて良いですね。
と、まあ8月は6冊読めたのでなかなか充実した読書ライフでした。
ちなみにこの読書感想文シリーズの本を紹介している順番ですが、単純に自分が読み終えた順に載せているだけなので特に他意はありません。
おわり